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COLUMN

コラム

2018.08.02

インタビュー

化粧品メーカー「POLA」が手掛ける賃貸経営

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化粧品ポーラといえば、特に女性には、馴染みのある会社だ。1929年に創業し、全国4,200の拠点で化粧品を販売している。そのポーラが、8年前から賃貸住宅の大家さんになっているという。ポーラ所有の不動産を管理する子会社、ピーオーリアルエステート(東京都品川区)が実践する、“ポーラらしい”賃貸経営を取材した。

「美しく生きる」をコンセプトに

ポーラの所有する賃貸住宅は、会社の”資産活用”を目的に企画され、自らが大家さんになっている。資産活用であればオフィスや商業施設でも良かったはずだが賃貸住宅にしたのには理由があった。賃貸住宅であれば、地域の方、入居者との関わりを継続して保つことができると考えたのだ。

ポーラは元々“女性支援”を理念に掲げる会社で顧客の大半が女性。賃貸住宅を企画した時もその考えをベースにコンセプトを考えていった。1棟目の「ブローテ大倉山(以下、大倉山)」は、ポーラが手がける賃貸住宅ということで女性支援の延長線にある“子育て支援”に主眼を置き、明確にそのテーマ性を打ち出していった。

2棟目となった「ブローテ横浜高島台(以下、高島台)」は、ポーラの研究所跡地に建設されることが決まると、解体中からプロジェクトがスタートし、約3年の月日を掛け、計画を練って行った。しかし、2棟目であるがゆえにコンセプト決めが難航した。広告代理店など企画会社に依頼し、様々な意見を出し合ったが、なかなか決まらず決定までに約半年かかった。最終的にポーラという化粧品会社の理念である「美」をテーマに入れたほうが良いというグループ全体の意見が採用され「美しく生きる」が掲げられた。

化粧品メーカーとして、女性の美を追求をしてきた同社ゆえに、住宅にも「美しさ」を求めようと考えた。そして、賃貸住宅のハード・ソフト両面で具現化するため、開催するイベントも何かしら「美」を感じてもらえるものや「五感」に訴えるものを選んでいるという。例えば、毎年開催され、「大倉山」と「高島台」の入居者が交互で参加する「美術鑑賞ツアー」や「高島台」単独で行う「江戸切子ワークショップ」「クリスマスコンサート」などがそれにあたる。

また、「美しく生きる」には社会とともに生きるという意味を込め、建物や設備には「環境」を意識した工夫がある。

大倉山は、“子育て世帯”を対象にしたが、高島台はあえて幅広い年齢層の方に住んでもらいたいと考え、1LDK〜4LDKで42タイプの間取りを用意した。狙い通り132世帯約400人弱、一人暮らしの20代から70代の夫婦まで様々な年齢の入居者が暮らしている。

地域の声に耳を傾ける

前述の通り、「高島台」は、研究所跡地に建っている。研究所は、1964年から2013年の移転まで約50年間、この地とともに女性を美しくする化粧品の研究、開発をしてきた。地域の人々にはとても感謝しており、賃貸住宅として生まれ変わっても地域にその想いを還元したいという強い想いがあった。このため賃貸住宅の建設には、地域の住民に配慮した形で進められていった。住民説明会は2回行い、その都度設計図を見せ、様々な説明を行った。

「今まで見えていた富士山が見えなくなる」という声が挙がれば、耳を傾け、説明会後、設計を大幅に変更したこともあった。

「この物件は、全132戸。この敷地の広さで考えればもっと戸数を取ることもできました。通常であれば、収益性を考え戸数を多く取る方を選びます。しかし、ピーオーリアルエステートさんの希望で今の形になりました。賃料は、相場より少し高いですが、入居希望者が物件を見ると賃貸とは思えないグレードの高さに驚かれます。退去が出るとすぐ次の入居が決まっています」と語るのは、管理を委託されている東急住宅リースの磯貝清史マネジャーだ。

住民説明会に加え、建設が始まる前には周辺住民への挨拶まわりをオーナーであるピーオーリアルエステート自らが回った。「地域とのコミュニケーションや調和を大切にしたいためです」(小泉さん)

環境とコミュニティ形成

この賃貸マンションのこだわりはいくつかある。1つは、環境面から見た建物の植栽だ。植栽や屋上菜園、ハーブガーデンで充実させ、敷地面積約2,792坪の2割を緑化にした。外構は、横浜市が行っている生物多様性横浜行動計画(「ヨコハマbプラン」)に則り、専門家であるランドスケープ・プラスの代表者である平賀達也さんに依頼した。敷地内では、エコロジーネットワークという緑が繋がるように植物を植える取り組みを行っている。マンションの下に沢渡中央公園という公園があるが、その緑とマンションの緑が繋がり、また、そこで生まれた緑が再度別のどこかの緑と繋がるように設計され、全体で深い緑が連鎖するようになっている。植栽は、小田原から運ばれた木々やハーブなど。

年に1度生態調査も行っている。これは、植栽や菜園を植えている影響で昆虫が増えたかどうかの調査だ。地域に自然を残し、未来の地域にも還元していきたい考えから始まった。

「屋上の菜園には、大きなカマキリや蝶がいて、横浜のど真ん中とは思えないほどです。毎年調査のたびに昆虫が増えているのが数字として表われています」と小泉さん。

  

2つ目のこだわりは、コミュニティ作りだ。ハード面では、共用部を充実させた。エントランスは、広く作り、イベントなどを行えるようにしている。約50㎡の集会室を1室用意し、入居者は予約制で、無料で利用することができる。共有キッチンでは、住民同士の誕生会やクリスマス会などが頻繁に開催されている。また、約66㎡のキッズルームも完備。こちらは、出入り自由でいつでも利用できる。絵本やおもちゃなどが常備されており、子供が飽きない工夫をしている。

さらに、入居者から人気なのが菜園だ。屋上部分に33区画用意しており、野菜やハーブなど、各々が好みで家庭菜園を楽しむことができるのだ。都会の物件だけに土いじりについては初心者が多いと考え、専門家と植付けが行えるイベントを実施するだけでなく、菜園で採れた野菜の料理教室などを行っている。

 

コミュニティ作りに関しては、ソフト面でも力を入れており、イベントが目白押しである。マンション内で行う菜園イベントの他にも、江戸友禅体験ワークショップやハロウィンの時期には、かぼちゃのランタン作りなど、月4回ほどのイベントが実施されているという。

マンションを飛び出して外に出かけるイベントもある。小田原自然巡りやポーラ美術館ツアーだ。小田原自然巡りは好評で、毎年30名以上の入居者が参加。この小田原巡りは、物件の植栽に使われている樹木の故郷という理由から、毎年行っているという。小田原の自然に恩返しするという意味を込め、参加者達と植樹し楽しみながら自然の大切さを伝えている。

イベントを通して入居者同士が仲良くなる事例も出てきている。日常生活の中、子供をきっかけに家族同士の付き合いが始まることはあるが、単身者や子供のいない夫婦やカップル、高齢者などは、コミュニティ形成が難しい。しかし、多種多様なイベントが親睦を深める機会になっているという。

「このマンションは、様々な専門家の知恵を取り入れてできています。施工は、ゼネコン大手の清水建設、管理は東急住宅リース、生物多様性の設計は、ランドスケープ・プラス、庭、菜園の維持は箱根植木、入居者イベント企画はディグアウトと、多くの方に支えられています。このようなプロの方々のお知恵を借りながら、入居者のみなさんにより良い住環境を提供していくことが私たちの役目だと考えております。高島台は、東日本大震災後に企画されました。あのような大きな災害の時は、やはり、周りとの助け合いが重要になります。マンション内で助け合えるようなコミュニティを作っていければ嬉しいです」(小泉さん)

ポーラの活動を見ると、異業種の企業が賃貸住宅経営に乗り出し成功するコツは、大きく2つあるのではないかと思う。1つは、ポーラがそうだったように本来の化粧品メーカーのポリシーである「女性に優しく」や「美」を運営に取り入れるなど、本業の強みを貫くこと。2つ目は、様々な専門家の知恵を取り入れて、自分たちでできないことは得意な人に任せるなど、柔軟に対応する姿勢。この2つがあれば、異業種出身ならではの特徴を持った“大家さん”になれるのではないだろうか。

(取材日:2018年7月11日)
(Hello News編集部 山口晶子)

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