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COLUMN

コラム

2018.08.23

市場・トレンド

母親の救世主はスマホの向こうの医者集団

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「手のひらに、小児科医を。」とうたって、スマホやPCで医療相談を行っている会社がある。医師が作った「Kids Public=キッズパブリック」(東京都千代田区神田小川町)の「小児科オンライン」だ。実は、小児科を受診している約9割が軽症者だというから驚きだ。病院に駆けこまなくても、母親が子育てで孤立したり、不安を抱えたりすることのないよう、世界中のどこからでも、オンラインの向こうの医師と接してほしいとうったえている。

子どもの体調不良をスマホで相談

この会社を作ったのは、Kids Public(キッズパブリック・東京都千代田区)の1984年生まれの現役小児科医であり、代表取締役の橋本直也さんだ。2015年の12月に会社を設立し、7人の仲間とともに運営している。

「小児科オンライン」は、急な発熱や風邪の症状からやけどなどの突発的な怪我まで相談することができるというもの。スマホやPCからチャット、電話、テレビ電話を通して症状を伝え、現役医師がアドバイスしている。医療行為は行わず、処方箋を書くこともしていない。受診すべきかどうかや、家庭内でできる看病方法を助言するというスタンスだ。

平日18時〜22時に予約制で相談時間は10分。一見、短いとも思われる時間だが、通常の診察は、短ければ数分で終わることもあるため、10分あれば相談内容を解決し、適切なアドバイスを伝えることができる。現在、43人の医師が名を連ね、小児科オンラインで相談に応じている。

2016年5月30日に正式リリースした同サービスの利用料金は、月額定額3980円だ。しかし、ほとんどのユーザーは福利厚生や自治体のサービスとして無料で利用している。

 

相談内容は様々ある。半数が急な発熱や風邪の症状などで、残りの半数が育児の悩みや、子どもの発達に関してなど、急ぎではない相談だ。医師に相談することで母親は安心するものだ。

利用者の半数がチャット、残り4分の1ずつ電話とテレビ電話が占めているという。チャットでも子供の発疹写真を送れば、症状を把握できる。2015年のテストサービスから2年余り「すぐ病院に行くべき」というアドバイスをしたのは、0.7%ほどだという。

ある母親の話だ。夫の赴任先であるブラジルで子育てをしていた。もちろん周りには相談できる家族もいなければ知人もいない。そんな環境の中、よく子供が発熱をしていた。母親は、不安と心配で精神的にしんどくなり、夫を残し、子供を連れて日本に帰国することを考えていたときに小児科オンラインの存在を知った。そこでサービスを利用し、症状を聞き、日本の医師が日本語で「2〜3歳の小さいお子さんが熱を出すことはよくあります」と話をしたところ、母親は安心し、家族揃って、ブラジルで生活をすることを選んだ。

「風邪などの症状が出ても子どもは大体健康です。その言葉を医師が伝えることが大きいのだと思います。インターネットを通じてサービスを提供することで日本だけでなく、世界で子育てをしている人、特に母親の応援、手助けができればと思います」(橋本さん)

救急外来で出会った3歳の女の子

橋本さんは、日本大学医学部を2009年に卒業後、聖路加国際病院で2011年まで初期研修を行った。その後、国立成育医療研修センターでの小児科医研修を経て、2015年12月にKids Publicを設立した。その間、東京大学大学院医学系研究科に通い、2016年に公共健康医学専攻修士課程を卒業した。元々、社会的な要因と子どもの健康の関わりについて関心のあった橋本さんが、人生を変える患者と遭遇したのは、医師になって5年目のこと。相手は、3歳の女の子だった。

ある日、救急外来でその患者は救急車で運び込まれた。右太ももがパンパンに腫れあがっていた。レントゲンを撮ったら、太ももの骨が日常生活ではありえない折れ方をしていた。橋本さんは、母親に事情を聞くと「私が叩いた」と答えたという。幼児虐待だった。母子家庭で女の子には発達遅滞が見られた。橋本さんは、母親が社会との関係も途絶え、孤立化し、追い詰められ、最終的にどうしていいかわからず手上げてしまったと分析する。

「氷山の一角にすぎない。病気になった子や怪我をした子を治療するのは大事なことだけど、小児科医として、このように運び込まれる子どもたちを、こうなる前に守るべきではないかと強く感じた出来事でした。それを達成するには、病院で待っている受け身ではだめだと感じました」と振り返る。

母親は子育ての孤立や子どもの健康状態の不安を抱えがちだ。もっと身近に小児科医が寄り添うことで解決できるのではないかと橋本さんは考えた。そこで、ITを生かし、手のひらにあるスマホで小児科医と接点を持つことはできないかと思い立ったのだ。

そこで、橋本さんは、自らウェブサイトを構築できるソフト「Word Press(ワードプレス)」を使い、サイトを作って小児科オンラインのテストサービスを始めた。最初は、スマホで相談できるという主旨の説明が書かれているサイトから予約を取ってもらい、無料メッセージアプリLINE(ライン)とつながるようにしていた。予約制にしており、時間になったら、LINE上で質問を送ってもらい、それに答えるというスタイル。2015年12月のことだ。

最初の利用者は、子育てをしている友人。身近な人から声をかけて口コミで広げていった。また、2〜3月に「Facebook」の広告を出稿。すると2カ月半で、100件の相談を受けることになった。

医師である橋本さんがなぜ、Word Pressでウェブサイトを作ることができたのかーー。それは、大学院時代まで遡る。もともとメディアに強く関心を持っていた橋本さんは、メディアの授業を履修。医学部の学生で履修していたのは、彼一人だった。そこで出会った同級生が立ち上げたウェブメディアで医療ライターとして執筆していた経験を持つ。「書いた記事が 『Yahoo!ニュース』に出ることがあり、ネットの拡散力はすごい、面白いということを確信しました」と話す。

橋本さんは東京生まれの東京育ちで父親も医師。父親は、東京都北区で開業医をしており、町の“赤ひげ先生”のような存在だった。「医者が金勘定したらおしまいだ」が口癖だったそう。父の姿を見て、医師の道を選んだ。しかし、橋本さんが小学校6年生の時に他界。「父親が生きていたら、医者で起業家なんて反対されていたでしょう。しかし、現代では、インターネットと医療を組み合わせたサービスが多くの患者を救うことにつながると思うのです」と橋本さんは語る。

(Hello News編集部 山口晶子)

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