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2018.08.30

♯インタビュー

「洋服を選ぶように壁紙を選ぼう」DIYブームをリードする夏水組 坂田夏水さんインタビュー

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坂田夏水さんは、DIYの普及と業界の盛り上げに奮闘する第一人者。自ら、住宅や店舗の空間コーディネートを行う夏水組を経営し、空間プロデュースの要望あれば日本中を飛び回る。そんな坂田さんに現在のDIY事情やトレンド、DIY業界の今後の気になる行方について話を聞いた。

お菓子を作るようにDIYを

 ──2年くらい前からDIYが注目されるようになりましたが、最近はどのように市場は変化してきましたか。

当時、流行の中心にいたのは意識が高くておしゃれな人、特別な世界観を持った人たちでした。しかし、東急ハンズやホームセンターなどでもDIY商材は当たり前のように置かれるようになった今、「自分の部屋をDIYしよう」と考えた時、簡単に手軽にそのアイテムが手に入るようになりました。テレビでも芸能人や一般人が自宅をDIYするといった企画が頻繁に放映されています。こうした影響もあって、今までDIYに奥手だった層もお菓子づくりをするような感覚でDIYを見るようになったと感じます。

──賃貸住宅の場合、原状回復の問題でなかなか広まらない印象がありましたが、賃貸業界ではどのような動きがありますか。

消費者(入居者)のニーズが高まったことで賃貸住宅管理会社やハウスメーカー、商材メーカーも、差別化のためにDIYを取り入れ始めています。その結果、賃貸住宅でもDIYできる商品が確実に増えてきました。また、カスタマイズやDIY可能な建物も一気に増えました。

リクルート住まいカンパニーが運営するSUUMO(スーモ)の中でも「カスタマイズ可能物件」という条件を追加するだけで部屋の問い合わせが5倍になったと聞きました。さらに問い合わせの注目ランキングの2位がカスタマイズ可能物件になったこともあるほどです。最初は一部のニーズだったけれど、その波に引っ張られて、マーケット全体がガラリと変わってきたのを感じます。

壁のDIY人口10年で10倍に

 ──もともと海外のように壁の色を変える文化がない日本で、実際にDIYは浸透していくでしょうか。

リクルート住まい総研が2010年に発表した『NYC, London, Paris & TOKYO 賃貸住宅生活実態調査』で入居後に「壁や天井などを塗り直した、貼り替えた」という問いに対しての結果は、日本では、3.3%となりました。ところが今、その数字が10%にまで増えているそうです。さらに予測ですが2020年のオリンピックまでには、20〜30%になると言われています。この10年で市場規模が10倍に膨れ上がったことになります。ホームセンター業界も前向きですし、メーカー各社もDIY商材の開発に乗り出していますから、ますます、マーケットは活況になると思います。

ちなみに前出の調査では、パリが約60%、ニューヨークでは約50%です。日本で賃貸住宅のカスタマイズ物件が増加傾向にあることを考えると、まだまだ伸び代はあると感じます。

 ──夏水組さんとしてはどのようにこの市場を盛り上げていきますか。

私たちは、空間のプロデュース以外にも、インテリアショップ「Decor Interior Tokyo(デコールインテリアトーキョー)」を2016年4月から代官山で運営しています。「モノ売り」ではなく「コト売り」とよく言われますが、弊社でも「コト売り」を意識し、1カ月に数回、ワークショップを開催したり、お店に、インテリアのアドバイスができるコーディネーターを常駐させたりしています。普通に販売するだけでは、アマゾンや楽天と比較されたとき太刀打ちできませんからね。

 ──坂田さんが実店舗を通じて感じることはありますか。

オープン当初と比べると来店客に、賃貸住宅を所有するオーナーが増えてきました。わざわざ店舗に来られる方ですから情報に敏感な方が多いです。一昔前であれば、入退去時の原状回復は、不動産会社に全てお任せ。しかし、今は、「DIYが流行しているならば所有物件を自分でDIYしたい」と考え自分でしたり、壁紙やペンキを選んで購入し、リフォーム会社や工務店に渡して施工してもらったりする方もいるくらいです。

SNSや動画を有効に

 ──積極的なオーナーさんも増えてきたとはいえ、ただ壁紙を変えればいいものではありません。センスが重要だと思います。

確かに、センスを磨くのは容易ではありません。料理と同じで、自分でも美味しいものを食べに行ったり、実際に作って練習したりしなくては上達しません。DIYもインテリアがステキなお店やホテルを訪ねて感性を磨くなど自ら学び、実際に体験してみることが何より大切です。

 ──初心者からすると、やはりDIYのハードルは、高いと思います。ポイントやコツを教えてください。

まずは、初めての時は、一人ではなく、仲間と数人で行った方がいいと思います。また、SNSを見れば一般の方が自分のDIYを数多く投稿しています。例えば、LIMIA(リミア)やRoomClip(ルームクリップ)などを参考にするのもいいと思います。また、YouTube(ユーチューブ)などの動画も参考になります。海外のユーチューバーにはDIYを専門にやっている方もいるほどなので、私たちも参考にしています。SNSはDIYブームを影で支えていると言えるでしょう。

不動産会社と入居者の橋渡しに

 ──海外と比べるとまだまだですが、少しずつ市場が拡大しています。今後のDIYの課題はなんでしょう。

国土交通省が2年前に空き家有効活用を目的としたガイドラインになるDIY型賃貸借に関する契約書式例とガイドブックを作成しました。この動きは空き家の活用にもなるため、大変意味のある内容だったと思います。しかし、なかなか実用化されていないのが現状です。なぜなら、ガイドラインを使って不動産会社やオーナーが賃貸借契約書を結ぶ時に「別表」と呼ばれる仕様書を添付しなければならないのです。この仕様書は、未然にトラブルを防ぐために必要でDIYで利用する商品や施工方法などを記載します。賃貸借契約を結ぶ入居者は素人ですし、簡単には仕様書は作れません。不動産会社は、日々の業務が忙しく、仕様書まで作成できません。そうすると消費者は、ガイドラインに基づくDIY可能物件と聞いていたのに、仕様書の作り方がわからない、また、不動産会社は仕様書を作ってくれないという問題が生じています。

 ──実際に現場で利用してからわかることが多いものですね。解決方法としては策はあるのでしょうか。

ガイドラインを広めるために、国土交通省と一緒に取り組んでいる動きの一つが、インテリアショップとして私たちの店舗が不動産会社と入居者の間に入ってDIYをサポートすることです。具体的には、東京の場合、私たちがDIY可能物件のアドバイスを行います。店舗にいるコーディーネータが入居者の質問を受けつつ、当店で扱っている商品であればガイドラインに則った仕様書を作るサービスを行っています。この動きはスタートしたばかりで、実例は2〜3例。吉祥寺にある賃貸管理・仲介会社リベスト(荒井伸吉社長)が管理している西荻北ホープハウスがその対象物件です。国としては、このようなスキームを全国で進めたい考えで、私たちもそのモデルケースを増やしていきたいです。DIY物件を広めていくには、国も管理会社もオーナーも同じ方向見ていくことが大切だと思います。

(Hello News編集部 山口晶子)

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