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2018.09.06

♯女性の働き方を考える

外資系メーカー社長秘書からブラジルワイン輸入会社の社長になるまで

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30年間外資系の半導体メーカー企業に勤めバリバリのキャリアを築きながらもシングルマザーとして子育てに奮闘した女性、吉本眞理さん。彼女の生活は、ブラジルワインとの出会いによって、一変。ブラジルワインを日本に広めるため、女手ひとつで会社を経営する吉本さんに話を聞いた。

ブラジルワインとの出会い

日本では聞きなれないブラジルワインを輸入販売しているDRINK OF BRASIL(ドリンク オブ ブラジル)。吉本眞理さんが一人で経営している。輸入販売するのは、従業員500人をも抱えるブラジルワインの大手ワイナリーを経営するサルトン社のワインだ。

ブラジルワインと吉本さんの出会いは、8年前の2010年にさかのぼる。

友人がブラジルワインの魅力に魅せられたことがきっかけだった。クセがなくぶどうが主張しすぎず、料理に寄り添い、引き立てるブラジルワインを日本で広めたいと、会社を立ち上げ数社のワイナリーからワインを輸入し、販売していた。その友人を通じ、初めてブラジルワインと接することになる。吉本さんは当時外資系企業に勤めており、海外とのやり取りも多かったため、ボランティアで友人の事業を手伝っていた。

2年ほどたったある日、変化は突然やってきた。

その友人が食道癌を宣告されたのだ。余命2カ月と診断されながらもワインを広めたいという強い想いを持ち続け、友人は宣告から1年7カ月、病と闘いながら、仕事を続けた。

「人の想いは寿命をも伸ばすんだ」

吉本さんは懸命に生きようとする友の姿をみて知った。

2014年、友人が他界。吉本さんは悩みに悩み抜いた末、ブラジルワインに情熱を持ちながらも道半ばで亡くなった友の遺志を受け継ごうと、DRINK OF BRASILの代表に就任することを決めた。後押ししたのは、当時大学生だった一人息子の言葉だった。

「会社を辞めてもいいよ。今のような生活ができなくなっても応援するから」

もともとアメリカに本社がある外資系企業に勤務し、社内ネットワークを構築する技術職や社長秘書として活躍してきた吉本さん。21年前に離婚し、シングルマザーとなってからは、実力がモノをいう外資系企業が性に合った。残業や休日出勤も全て受け入れ働いた。

「保育園が18時までだったため、シッターさんにお迎えに行ってもらいました。そのあと、また別のシッターさんにお願いして帰宅するまで見てもらうという形をとっていました」

 休日出勤の時も、子育の面倒はベッビシッター任せ。息子には寂しい思いをさせたと思うが、それでも母1人子1人で生活できたのは、会社があったからだとできたと語る。

離婚してから会うことのなかった元夫だが、病気で急死したと知らせが届く。2009年のことだった。

元夫、ブラジルワインを引き合わせた友人、身近な人を二人も亡くした経験が、会社を引き継ぐという気持ちを決めさせた。

「人生何があるかわからない」

一念発起し、30年勤めた会社をやめた。2015年4月末のことだった。

100年以上続くワイナリー

その後2015年夏、単身でブラジルのワイナリー、サルトン社に向かった。単身での渡伯は不安だらけだったが、現地に行ったことで気持ちが固まった。

「ブラジルワインを日本で広めたい。この人たちと仕事をしたい」

ブラジルというと、“サンバ”や“サッカー”などアクティブなイメージが強い。また、治安が悪く、犯罪率が高い国というマイナスのイメージも大きい。しかし、サルトン社のあるリトルイタリーの町並みは、その名の通り、イタリアの田舎町のような風景が広がっていた。ブラジル最南端、ウルグアイにほど近いリオグランデ・ド・スル州を拠点にする。サルトン家は、100年以上ワイン造りをしており、年間9万人が来場する人気ワイナリーだ。1878年にイタリアから移住したサルトンファミリーが、家庭内で飲むワインとして製造を始めた。国境の近くという土地柄、旅人へワインをわけたことから口コミで広がり、ワイナリーの経営につながったという。

リトルイタリーは、街全体で親日家が多く、ワイナリーで働いているの人も親切で、仕事がしやすいと感じた。

「もしサルトン社がワインではなく鉛筆を売っていたら、私は、迷わず鉛筆を売っていました」と笑顔で話すほど、サルトン社の人々に魅了されたのだ。

会社を引き継いでから訪問した際には、ワイナリーの社長、ダニエル・サルトン氏までもが挨拶にきてくれた。

手探りでイベントを開催

今では、DRINK OF BRASILを通したブラジルワインは、ネットショップや20店舗ほどの飲食店で提供されている。しかし、会社を受け継いだ2015年当時は、全てが手探り状態。何をしていいのかさえわからなかった。広めるためには、知ってもらわなければならないと考え、イベントの開催を思い立った。そこで、吉本さんは、大胆な行動に出た。駐日ブラジル連邦共和国大使館に直接「飲食店向け試飲イベント」を持ち込んだのだ。予算は少ないが熱い想いを伝え協力してもらえないかとプレゼンを行ったところ成功し、開催が決定。

スタッフはいないため、女性の友人に声をかけて回った。女性だけの試飲イベント運営は「華やかでエレガントなイベントだ」と大使館スタッフからも好評で、約100名が来場。これがきっかけで今では同社主催のイベントには全て大使館が後援に入るほどとなった。現在、吉本さんは、展示会や飲食店コラボイベントを開催し、ブラジルワインのPRや新規飲食店の開催に全国を飛び回っている。

生産量世界14位のブラジルワイン

とはいえ、日本ではまだまだ無名。同じ南米ワインで有名なチリワインは、税金が安いことや、大手メーカーが参入して大量に購入し日本国内で瓶詰めを行うなどし、コストが軽減され、安価で飲めるワインとして日本に広がった。一方ブラジルワインは、関税が高く、利幅が低いのが現状。しかし、南半球のワイン五大生産地となっており、地理的にも恵まれている。生産量は、世界第14位となっている。
(出典:http://www.oiv.int/public/medias/5686/ptconj-octobre2017-en.pdf)

1位イタリア、2位フランス、3位スペインと上位は、日本でもおなじみの国だ。その他、オーストラリアやチリ、南アフリカなどが名を連ねる。実は、トップ4の生産量は、2016年から2017年で減少しているが、ブラジルは、前年比189%となり、増加している。

「この数字を見ると日本での拡大の可能性を感じます」

特別な日にブラジルワインを

日本でもブランド力をつけたいと考え、コンセプトは「エレガント」にした。サンバの時につけるカバッサをモチーフに瓶のステッカーのロゴをデザインしていると語る。

「日本で日常的にワインが飲まれるようになりました。暮らしの中でお祝い事や嬉しいことがあった日など特別な日に開けてもらえるようなそんなワインにしたいと思います」(吉本さん)

(Hello News編集部 山口晶子)

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