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2018.09.20

♯海外取材

誰も教えてくれない「イノベーションの条件」~前編~

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21世紀に入って早18年。「イノベーション」という言葉を目にしない日はない。各種メディアだけでなく、企業の会議や政府の政策、科学技術、ありとあらゆる場所で「わが社の商品にはもっとイノベーションが必要だ!」「日本の産業にイノベーションを!」「教育にイノベーションや変革を!」という声が上がっている。しかし、誰もイノベーションの作り方なんてわかっていないように感じる。

そもそもイノベーションって何?イノベーションが生まれ、育まれるのに「必要な条件」なんてあるのだろうか――。

今回は、「最もイノベーションが起こっていそう」と思われる起業(スタートアップ)業界のイベント“Startup Weekend”を参考に、参加者側を経験し、その後は4年続けて運営スタッフ、オーガナイザーのひとりとしてイベントに関わってきた私個人の視点から、イノベーションについて考えていきたい。

フィリピン・セブで行われた企業イベント

 

7月半ば、ビーチリゾートとして有名なフィリピン・セブ島の市街地にあるコワーキングスペースでは、みな真剣な面持ちで次々と発表される「ビジネスプラン」に聞き入っていた。発表時間はぴったり5分。たとえ話を終えていない場合でも、時間がくれば「はい、それまで」と司会者が中断を促す。

発表者は全部で9チーム。ビジネスプランはIT系、ファッション系、教育系、農業…と様々だ。例えば、フィリピンの技術者を雇用し、日本人向けのプログラミング教室を経営したいというビジネスプランもあれば、海外からの旅行者が、手ぶらで気楽に旅行できるようにという発想から生まれたコラボビジネス、日本のクリエーターがフィリピン人のイラストを描くというサービスも発表された。

制限時間内での発表が終わると、4人の審査員が矢継ぎ早に質問を浴びせる。

「相当な設備投資が必要なプランですね。数年間は赤字になってしまうのが見えているが、資金計画はどうなっていますか?技術者はどうやって育成する予定ですか?」

「このモデルでよくわからないのは、相談に乗るメンター側が何の目的でサービスに登録するかなんですよね、金銭的なインセンティブがあるのでしょうか」

「そもそもこのサービスで解決したいのはフィリピンの課題?それとも日本の課題?顧客は誰?」

鋭い質問が続くが、口ごもる発表者はほとんどいない。痛いところを突かれたとしても、悪あがきに見えてしまっても、誰もが諦めない。前日に行った灼熱のビーチや、現地のショッピングモールで実施したアンケート結果を使って、必死で回答する。そうやって5分間の発表と5分間の質疑応答、合計10分間のピッチを終えた発表者たちは、足早に観覧席へと戻る。1分もしないうちに、次の発表が始まるからだ。そんなやりとりが2時間ほど続いた。

――一体、彼らは何者なのだろう?ここで何をしているのか?それを知るには2日前、金曜の夜に時間を戻す必要がある。

48時間で起業を経験するためにやってきた参加者

この場の主役は、約30名の日本人、約10名のフィリピン人の発表者だ。彼らに共通することは、金曜の夜から日曜の夜までの48時間で起業準備をするため、セブへやってきたということ。その他の共通点はあまりない。 

彼らの本業は様々である。誰もが知る大手広告代理店勤務やいわゆる渋谷のIT系所属者もいる。そうかと思えば、フリーランスのデザイナーやエンジニア、「フリーランスというよりフリーターです」というようなタイプや学生までいる。日本での住所は東京、北海道、兵庫…と様々で、男性ばかりでなく女性も多い。20代、30代が中心とはいえ「子育てがひと段落したので、自分らしく人生の第2ステージをつくりたい」という50代の女性、「若者や起業家を応援したい。ビジネスパートナーや投資家として」なんていう40代の男性もいる。起業したことのある人は少ない。誰もが起業初心者なのだ。

フィリピン側の参加者は、このイベントのスポンサーである現地企業の関係者が多い。個人的に興味があるからというのはもちろん、スポンサー企業が人材育成の機会として、この場に送り込んでいる人物が多く、日本人や日本文化に通じる人財だといえる。

そんな彼らがセブ市の中心部にあるコワーキングスペースに集結した。早い人だと2日前に現地入りして、街を散策しながらの調査を開始する。忙しい人なら金曜夜の開始直前に羽田から飛行機に飛び乗って、セブ・マクタン空港から直接タクシーでかけつける。

つまり、ほぼ全員が初対面だ。繰り返すが、共通点は「セブ島で起業を体験したい」、「心ひそかに温めてきたビジネスプランを検証したい」という想いだけである。そんな40人が、どうやって48時間後に審査員を相手にした「本気のビジネスプラン」を発表するに至るのか?

当然、種も仕掛けもある。まずは「始まり」の30分間を見てみよう。

開始30分前。「イノベーション」の仕掛けとは

そもそもこのイベントは、“Startup Weekend Tokyo”(本部はアメリカ)というNPO法人が運営している。5~6名の日本人スタッフがセブまで駆けつけ、全員が無給で企画・運営を行う。特徴は、いつでもどこでもビールを片手に始まって、ビールを片手に終わる。受付を済ませたら、着席などせず、まずは、ビール。飲まない人でもオレンジジュースやお茶を片手に、セブの地元レストランで作られたフィリピン料理のケータリングを食べながら、その場で出会ったばかりの仲間と談笑する。

  

スーツを着て現れ、名刺交換しようと構えている人などいない。形式とは無縁なのだ。軽い自己紹介はするだろうが、主な会話の内容は、ここに来るまでの道のりで経験したことや、なぜここに来たのか、何を期待しているのか、ということ。

初対面のはずでも、すでにあちらこちらで、アルコールで赤く染まった顔に笑みがこぼれている。会場に流れる陽気なBGMに交じって時折、大きな笑い声さえ響いている――そう、みんなリラックスしているのだ。

「この場を楽しもう」というリラックスした場の空気が漂っている。そして同じ目的や価値観を持って集まった参加者の、いわば「未来の同志」という暗黙の了解による安心感が自然と沸き起こっている。そういった要素が、この後に続く「ピッチ」という初めの難関に向けた緊張感を解きほぐし、パフォーマンスを上げる役割を果たしている。

料理があっという間になくなった。今やテーブルの上のビールは空き缶ばかり。さぁ、いよいよプログラムが始まる。初日のプログラムは残り2時間ほど。この和やかな空気から、一体、どうやって研ぎ澄まされた最終プレゼンにたどりつくのだろうか。その答えのひとつが、もうすぐわかる。1時間もしないうちに「ピッチ」の時間が待っているからだ。

(灘仁美)

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