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2018.11.15

♯市場・トレンド

「隔たりあり」不動産会社の外国人対応

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外国人と不動産会社の目線をあわせるのは難しい

「日本人ではない」と分かると、話しさえせずに差別や特別視する不動産会社が存在する。「不動産会社をまわって部屋探しをしていた時、僕の外見を見て、外国人が来たという感じで身構えられることがあった。外国人だからという理由で入居を拒否されたりすることも何度かあった」と自身の体験を語るイギリス人のトビーさん。最終的に部屋は見つかったが、こういった対応に憤りを隠せないという。今回は、不動産会社の外国人の対応と、その現状を外国人や不動産会社の話を元に探っていく。

一般的に来日したばかりの外国人は、部屋探しに苦労している人が多いようだ。外国人向け不動産情報サイトを運営するリアルエステートジャパンの北川泰浩さんによると「部屋探しに必要な最低限の知識や日本特有の不動産ルールを知らない人ために、出だしからつまずくんです」という。例えば、日本の不動産事情や相場感を知らないがゆえに、「六本木に40平米で家賃が5万円程度のマンションに住みたい」「2LDKの賃貸を3人でシェアしたい」といった質問を不動産会社に平気で投げかけてしまう。こういった問い合わせを受けた不動産会社は、面倒だからと返信をしない。

同社が運営する外国人向け不動産情報サイト「realestate.co.jp」の外国人ユーザーに行ったアンケート(2017年)でも、「問い合わせメールを送っても返信がなかった」という声があった。この他に「日本語が少し話せるにも関わらず拒絶反応する不動産会社が多かった」と、前出のトビー同様の経験をした回答者もいた。

言葉の壁が対応時の足かせに

外国人の証言やアンケートからわかるのは、外国人に対して不親切な対応をする不動産会社が一定数存在しているということだ。では、不動産会社では外国人顧客に対して、どのような対応を行っているのだろうか。国土交通省が不動産会社に行った「平成27年度不動産市場の国際化への対応調査業務アンケート調査」を元に実態を見ていく。

まず、10年前と比較した外国人顧客との賃貸取引量については、60.8%が増加したと回答した。なんと半数以上の不動産会社で取引量が増えていた。一方で、外国人顧客への対応マニュアルを整備しているかを聞いたところ、「整備している」13.3%、「整備していないが整備する予定だ」28.3%、「整備していない・整備する予定はない」は58.3%だった。つまり、外国人顧客は増えているにも関わらず、彼らに対応できる体制を整えている不動産会社は、1割強しかいなかった。また、物件資料の作成については「外国人客向け物件資料を作成している」17.5%、「まだ作成していないが今後作成する予定がある」8.8%、「作成していない、日本人向けの物件資料を渡している」73.7%となり、これも対応マニュアルと似たような結果となった。

そもそも、外国人を迎える体制やマニュアルが整っていないのは明らかだが、では逆に不動産会社の目線になった時、ネックとなっているのは何だろうか。不動産会社が外国人との不動産取引で困っている点について、アンケート調査(全日東京アカデミー・2014年)を行ったところ、「日本語が理解できない外国人入居者とは意思疎通ができない」ことが多く、これが問題を引き起こしている要因であることがわかった。

アンケートから得られた回答によると、「契約に至るまでの基本的な情報のやり取りで、口頭での意思疎通がままならない」、「日本語が少しわかる場合でも、細かいニュアンスまで伝わらない」という声があった。そして一番の問題は、「重要事項説明書の内容を理解してもらえないこと」にある。口頭で理解してもらえない場合、文書を外国語で作る必要があるが、それも「費用がかかる」 として、簡単にはできないのが現状だ。中には、礼金や更新料の各種支払いについて、「慣習の異なる外国人の理解を得られず支払いに応じてもらえなかった」という回答もあった。

外国人専門不動産会社の登場

多くの不動産会社が、外国人顧客への対応に苦戦する中、外国人を専門に様々な事業を展開する企業がある。家賃保証や不動産賃貸仲介などを行うグローバルトラストネットワークス(東京都豊島区・以下GTN)だ。同社の仲介店舗では、日本語での対応はもちろんのこと、英語・中国語・韓国語・ベトナム語・ネパール語に対応できるスタッフが常駐している。

契約時には入居者に対し、契約から退去までにありがちな外国人が陥りやすい日常生活のトラブルを回避するための動画を見せている。動画は、日本語・英語・中国語・韓国語・ベトナム語・ネパール語の6カ国語で作られ、「家賃は前払い」「契約者名義での家賃振込み」「ゴミ出しルール遵守徹底」 といった基本的な事柄を10分程度で解説するというもの。GTN代表取締役社長の後藤裕幸さんによると、理解不足から生じるトラブルを減らすために、母国と日本ではルールが違うということがわかる内容になっているという。

加えて同社は、外国人専門の家賃保証サービス「TRUST NET21」も展開。サービスの一環として、「お金の振込方法や家賃の支払い方法がわからない」「部屋の設備が故障したので管理会社に説明してほしい」「解約方法がわからない」といった疑問を電話一本で解決できるサポートを、無料で行っている。

外国人にとってやっかいなのは、部屋探しだけではなく契約時も同じだろう。大半の物件では、連帯保証人が必要とされるが、外国人が日本人の連帯保証人を見つけるのは至難の業だ。最近はGTNのような外国人向けの家賃保証会社も出てきており、状況は比較的改善されてきている。実際に、アメリカ人のネイトさんは、賃貸住宅を契約する際に保証人がいなかったため、保証会社を利用したところ、スムーズに契約できたと話す。

相互理解が大事

情報発信をすることで、外国人をサポートする企業もある。前出の外国人向け不動産情報サイト「リアルエステートジャパン」では、プロの外国人ライターが外国人の目線で、日本式の生活習慣や、日本独自の慣習である敷金・礼金の説明といった部屋探しに必要な情報を英語で発信している。「日本に来た以上、外国人も必要最低限の知識を身に着ける必要があるし、その手助けになればいい」と同社の北川さんは説明する。

とはいえ、不動産会社の84.3%(不動産適正取引推進機構調べ)が従事者数5人未満の小規模な会社で占められている中、多くの会社にとっては、外国人顧客に対応するための人的余裕や金銭的余裕がないというのが現実だろう。だが、完璧な対応ができなくても、面倒くさがらずに向き合うべきだ。今後も増え続ける外国人居住者のためにも、自社では対応できないと放棄するのではなく、外部のサービスをうまく活用したり、自社でチャレンジしたりするうちに分かってくることもあるだろう。住まいという生活の基本にかかわる業界だけに、その行動が社会に及ぼすインパクトは大きいはずだ。

(Hello News編集部 須藤恵弥子)

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