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2018.11.22

♯海外取材

「人が人間に戻れる街・ポートランド」で気づいたこと(中編)

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自分たちの街は、自分たちでつくる!

ポートランドという街は、街づくりにおいて、住民の参加意識が極めて高いということでも有名だ。ポートランドの街づくりに貢献し、住民同士のネットワークを作って市民参加の仕組みづくりを担ってきたてきたポートランド大学の教授、スティーブン・ジョンソン氏は、こう言った。

「どうしてみんな大学に行くんだい?一生懸命勉強して、企業に入り、いいお給料をもらうため?もちろんそれもあるけれど、いかに、自分の住んでる街に貢献できるか、そのために大学に行くんだよ」

これを教えてくれたのは、今回のツアーでコンダクターを務めた谷田部勝さんだ。ポートランドに移り住んで50年以上にもなるという。

2回目となる今回のコラムでは、住民主体の街づくりが現れるエピソードや事例を紹介する。

ささき三枝
広島県広島市出身。本業は、女優・歌手。
22歳で上京。一人暮らしを謳歌してきたが、昨年11月、突如、広島の実家を売り払い、埼玉へ移住してきた父77歳、母75歳と暮らすことに。十数年ぶりの親子3人での生活は苦労の連続。実家ロス、老後問題、介護、相続、親子関係、などなど、次々勃発する問題に頭を悩ます日々。そんな夢破れたアラフォー独身女の日常は、ブログで綴ることでストレスを発散している。

Blog「ささき家のみなさーん、きっと人生これからじゃない?」

①自分たちの考え方を形にする

写真は、「トム マッコール ウォーターフロント パーク」という公園だ。ここは、ポートランドで市民参加型のまちづくりが定着するきっかけになった出来事を記念し作られた。

1970年代、政府は、ポーランドの中央を流れるウィラメット川沿いの高速道路を拡張する計画を打ち出した。これに対し地元市民が、環境破壊につながると拒否したことから反対運動が勃発。計画は中止となったばかりか、既存の高速道路も撤去されることとなり、その跡地に設けられたのがこの公園だという。

高速道路なんて、政治家が勝手に決めて、知らない間にできるものだと思ってた私からしたら目から鱗のエピソードだ。

「今まであった道路さえ撤去させてしまうなんて、すごい!権力の決めたことを曲げることってできるんだ!」

その当時、民意を結集し、立ち上がった人たちを思い公園に立つと「私も頑張ろう、負けないよ!」という気持ちが自然と湧いてきた。

「なるほど、こういう思いが繋がれていくために、公園が作られたんだなあ」

もう一つ、パイオニア・コートハウス・スクエアという場所が、ポートランドの都心部にある。ここは公共の広場で、街の人々が大切にしているスポットだ。

それというのも、1970年代はじめ、この場所を、立体駐車場にしようという計画が持ち上がったが、またしても市民が反対。計画は一旦中止になったが、市長が変わると、今度は「立体駐車場を作らずにおけば、浮浪者のたまり場になる」と危惧を発表してわざと反対派を増やし、広場にするための資金が足りないように仕向けたのだ。

すると今度はポートランド市民が立ち上がった。

「フレンズ・オブ・パイオニア・スクウェア」という団体をつくり、今でいうクラウドファンディングのような形で、5万個のレンガを販売し、75万ドル集めた。そしてそのレンガを敷き詰めて、市民の力でこの広場を作ったのだという。レンガ一つずつに購入者の名前が刻まれ、当時の思いを今に繋げている。

「ポートランドっていう街は、行政主導じゃないからみんなに愛されているんだ。街って市長や市議会議員が作るものではないのかも……」

この写真は、市役所(City Hall)の議会に参加するポートランド市民の様子だ。

議会は、毎週水曜日に開かれる。議会に参加した人たちはそれぞれのバックボーンや職業をを聞かれることなく、誰でも3分間発言できるというルールがある。発言の様子は、ケーブルテレビを通じて、この場にいなかった人にも伝えられるという。平日の朝10時だというのに、椅子を埋め尽くす参加者の多さに、驚いてしまった。

今回の視察ツアーに参加した、家賃債務保証会社大手の全保連、林さんが

「ここにいる人たちは、仕事はどうしてるんでしょう。平日だし、若い人たちもたくさんいるじゃないですか」と質問した。

これを聞いた谷田部さんの答えは、

「会社が、こういう場所に参加することに理解をしているんですよ。社員は、議会に合わせて、仕事を調整したりするんですよ」

片手にスターバックスのコーヒーを持った若いお兄さんから、高齢者まで、多世代にわたる参加者たち。その表情からは、自分たちの街をよくしたいという思いがにじみ出ている。

「ひえ〜、自分の会社や仕事よりも、街づくりが優先されるんだ〜。びっくり」

不意に議長が、「どこから来たんですか?」と声をかけてきた。

「日本です」。谷田部さんが答えると、にっこり微笑んだ。

「こんなアットホームな雰囲気だと、意見も言いやすくていいな」と私は思った。

②環境を守りながら経済を発展させる仕組み

ポートランドは、環境保護に力を入れて、尚且つ、そこに経済効果も生み出している。

谷田部さんは、語気を強め、「環境保護だけに力を注いでもだめ。経済活動がないと、コミュニティーが持続しない」といった。

この「持続可能な街づくり」、というのが、ポートランドのキーワードだ。写真のNew Seasons Marketは、地産地消をテーマに、主にオーガニックの野菜や食品を販売しているスーパーマーケット。年間に1店舗くらいのペースで出店しており、現在では市内に18店舗存在する。この店の出店計画が発表されると近隣に住む人々の導線が変わって、地価が上がるという話もあるくらいだ。

   

このスーパーでは、地域住民向けにイベントの開催が決まると、肉や魚を無料提供することもある。

魚の仕入れに際しては、漁の獲りすぎで魚自体の数が減っている海域で捕られたものは一切仕入れないなど、ポリシーが徹底している。また、利益の10%を地元のNGOや学校に寄付するなど、買い物をしているだけで地域に貢献できているような気持ちになれる仕掛けを構築していた。

常連客でもあるという谷田部さんは、

「店にあるものは、全て試すことができて、納得してから購入することができるんだよ。そうすることで、店員さんとのコミュニケーションも生まれるでしょ」

そんな姿勢に、感激してしまう。障がいがある私の母は、外出が億劫になりがち。だけれど、唯一、コンスタントに出かけるのは、スーパーだ。だから、そこで、交流が生まるなんてことがあれば、どんなに素敵なことだろう。

  

ここは、毎週土曜日、ダウンタウンにあるポートランド州立大学のキャンパス内で開催されるファーマーズマーケットで、市内では最大規模となる。毎回、140の農家が参加し、新鮮な食材や生花を販売している。

ポートランドは、1973年、オレゴン州土地利用法による「都市成長境界線」を定め、無秩序な住宅開発の拡大を抑えた。つまりどこでもかしこでも家を建てたり、商業施設を建てることはできないということ。

それにより、農地や自然が守られ、地産地消が成り立ち、このようなマーケットも盛んに行うことができるのだ。

   

ここでは、30分くらい自由行動だったので、ここに来ている現地の人たちにインタビューを試みた。拙い英語でドキドキだけど、いざチャレンジ!

この方は、今日は、娘が来れなくてなって一人で寂しいのよと言いながら、手作りのレモン、ラズベリー、ジンジャーなど、いろんな種類のビネガーを販売していた。

「どうぞ、たくさん試食して帰ってください」

ここのマーケットには最初お客さんで来ていたが、すっかりこの市場が気に入り、今や出店者側で参加しているそう。

この可愛らしい女性二人は、近くの飲食店で働いているそう。

「今日は、良い食材を探しにきたんです」

日本から来たというと、「去年、京都に遊びに行き、日本食の美味しさに感激した」と興奮気味で話してくれた。

素敵なカップルを発見。毎週末、このファーマーズマーケットに来るという。

「ここは、生産者の顔がわかるでしょ?だから、安心なのよ」

「私、ポートランドに来たのは初めてなんです。今日帰国するんですが、最後にこのマーケットに来れて嬉しいです」というと、「次はいつ来るの?」ですって。こういう会話があったかいな。

この二人は親子。「父の健康維持のために、散歩がてら、体の調子がいいとき来てるんだ」と息子さん。この後、時間あるなら、一緒に回ってあげようか?と誘ってくれたが、時間がなく、泣く泣く断念。

「こんな自然に参加したくなるような場所があったら、うちの(引きこもり気味の)父さんも元気になるんだろうな〜」

こんな明るい親子に会うと、ついつい、そんなことを思ってしまった。

自分たちの街は自分たちの手でつくるということは、そこに住む人たちにとって居心地のいい街、そして何より、楽しいと思える街だと思う。それを自らの行動で示している人や場所に出会うことができた。

ポートランドには過去に自分たちが経験した権力への抵抗と、それにより得た豊かな暮らしが、成功体験として現代にも承継されているのを感じた。

上からの押し着せではない、手作りの感覚。

そういったものが街の風土として流れている。

今回は取材できていないけれど、きっと学校教育や家庭の会話でもそういう考えが引き継がれているんだろうなあと思った。

ポートランドにこんな言葉がある。

「Keep Portland Weird」

これは、「みんなと違っていいじゃないか!ずっと変り者でいようよ!!」という意味だ。

次回は、そのことを感じられることに、焦点を当ててみたいと思う。

(Hello News編集部 ささき三枝)

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