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2019.01.24

♯シニアビジネス♯インタビュー

高齢者住宅業界ぶっちゃけトーク〜前半〜

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日本の高齢者(65歳以上)の人口は、3,515万人(※)で全人口の27.7%となった。世界的にみても経験したことのない超高齢社会を私たちは生きている。一人暮らしの高齢者の増加による孤独死や住宅内での事故のニュースは、毎日にように耳に入ってくる。しかしながら、まだ誰も見たこともない世界だけに法整備やルール化は非常に難しい。高齢者住宅新聞社の小川真二郎さんとHello News代表の吉松こころが対談形式で語った。
(※)内閣府発表「平成30年版高齢社会白書」

後編はこちら⇒高齢者住宅業界ぶっちゃけトーク~後半~

小川真二郎さん
千葉県市川市出身。
株式会社高齢者住宅新聞社、編集部兼企画開発部デスク。
不動産業界紙記者、大手人材サービス会社を経て2012年7月より現職。全国の介護事業者、周辺メーカーへの取材活動の他、業界最大級のBtoBイベント「住まい×介護×医療展」の運営などを手掛けている。

吉松こころ
鹿児島伊佐市(旧大口市)出身。
株式会社全国賃貸住宅新聞社の取締役を経て独立。2015年4月に不動産業界の通信社、株式会社Hello Newsを設立した。不動産会社、建設業界で生きる人々を取材している。

インセンティブをつけて要介護度改善を後押し

吉松 今年の高齢者住宅市場のキーワードは何ですか?

小川 この業界、問題山積み・・・。強いて言うなら「人材不足」「財源不足」「効率化」かな。あと、目新しいトピックとしては、特別養護老人ホーム(以下、特養)の入所条件が2015年から変更になり「原則、要介護度3以上の人を入居させる」ということになったんです。当時、厚生労働省が2014年3月に特養の入居申込者が52万人いると発表しました。それにより特養不足が明確になり、改正されました。要介護度1、2の人々が絶対入居できないわけじゃないんだけど、原則ということで。

吉松 そうなると原則、介護度が高い人ばかり選んで入居させていくということ?

小川 特養は選別して入居させます。そうすると、要介護度2の人の行き場がなくなってしまうでしょう。だから有料老人ホームとかに行くしかなくなるわけだけど、有料老人ホームは入居に際してある程度の費用がかかってしまうからハードルは高くなるんです。

吉松 施設運営側が介護報酬に振り回されている感じがありますね。

小川 介護報酬は3年に1回改定があって、2018年度に改定があったのは知っていますよね。

吉松 今回の改定の特徴は?

小川 一番注目されていたところが、要介護度改善にインセンティブを付けたということです。

吉松 インセンティブをつけるとは?

小川 介護の世界では、要介護度が高い人ほど介護報酬が高いでしょう。だから、今までは要介護度が2から1になったら報酬は下がりました。けれども、身体としては、状態が改善しているということだから、それに対してインセンティブを付けるということです。

吉松 インセンティブと介護報酬と同じ意味ですか?

小川 インセンティブは簡単にいうと一時金。インセンティブを出すことで、要介護度の高い人を減らして、介護度を下げていこうという考えが、背景にはあります。

吉松 それは国の方針ということですか。

小川 昨年(2018年)10月22日に開いた未来投資会議で安倍晋三首相自ら、今後の介護にはパラダイムシフトを起こすと公言したんですよ。今までは介護度が重くなってた人に点数を付いてたけど、これからは介護度改善とか予防に力を入れていくと。

吉松 では現状とは逆に、介護度が低い人ほど、高い介護報酬を出すっていう可能性も出てきますか?

小川 それはないと思います。しかし、介護度の維持や改善をさせることに評価をしていく方針を安倍総理の口から発言したことは大きな前進だと思うよ。

サ高住運営だけでは赤字

吉松 2011年に高齢者住まい法が改正されて、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)の建設に補助金が出ることになりました。当初325億の予算が付いて補助金が出たと記憶しています。今は補助金はどうなっているでしょう。

小川 出ていますよ。平成30年度は年間305億円。

吉松 あの頃は、サ高住が次から次に建設されてて、今建てない奴は乗り遅れるぞ、みたいな雰囲気ありましたよね。実際のところ、経営面から見たとき収益は出ているのでしょうか?

小川 難しいですね。経営として成り立っていないところが多いんじゃないかなあ。サ高住の収支の計算は、賃貸住宅のそれと違うんですよ。例えば、賃貸物件で事業をやろうと思ったら、銀行の借り入れの返済は賃料を原資にして、その中から8割とかを返済に充てるでしょう。一般的なサ高住の場合、入居者からの賃料とかサービス費とかもらうだけだとトントンか返済に足りないんですよ。

吉松 ええっ。そうなんですか!賃貸住宅経営ではありえないことですね。収支が合わないって、例えば追加の設備投資とか人件費が必要だからということ?

小川 30室のサ高住を建てて年間5,000万円、銀行に返済があるとします。管理費とか含めた賃料収入だけでいくと、実際トントンくらいのケースが多いのです。これに人件費が加わると考えると収支が合わない。だから、それをどうするかというと、併設してるデイサービスや訪問介護の事業費で稼ぐのです。建設するときからその売り上げを見込んで事業計画を組んでるのが一般的ですよ。

吉松 もしも併設する介護サービスがない場合は?

小川 賃料のみで採算を合うようにしなければならないけれど、実際にそんなサ高住は少ないと思います。

吉松 それはなぜですか。建てるときの建築費が高いのか、それとも、賃料が低く設定されるからですか。

小川 基本的には賃料を低く設定してるからです。

吉松 となると、事業としてやる意味はどこにあるのでしょう。

小川 デイサービスや訪問介護で稼ぐことを念頭に考えています。

吉松 それは意外です。

小川 先ほど話した高齢者住まい法の改正以前は、訪問介護やデイサービスは、訪問する住宅を1軒1軒回る時の移動が無駄と考えられていました。改正後は、例えば30室のサ高住を建てて、併設で訪問介護事業所をつけると、その時点で入居者の30人が見込み客として存在していることになります。

吉松 でも、そもそもデイサービスの目的は、家族が大変だからお風呂に入れてもらうとか、食事してもらうのでは。サ高住にいたら、サービスが付いてるのに、さらにデイサービスに行く動機って生まれるのですか。

小川 サ高住自体には介護サービスがついてないのです。併設のデイサービスに行くのは、半分義務みたいな。

吉松 えっ!?行きたくないのに行かなきゃいけないんですか。それって事業者側の都合じゃないの?

小川 実は、これは「囲い込み」といって、問題になりました。サ高住に住んだとしても、今まで自宅に居た時に通ってたデイサービスに行ってもいいのに、半ば強制で併設のデイサービスに通わせているという実態がある。「必ずここに行かなきゃいけない」というのは、本来のサ高住の制度としてはそぐわないわけです。

吉松 けれど、そうしないと事業者側の収支が回らないという問題もあるということですか。難しい現実ですね。

小川 この囲い込みの対策として「同一建物減算」という制度を設けました。要は、ここの併設のデイサービスの利用者が、同一建物内だと介護報酬の点数が下げられるというものです。

吉松 それも、安直だよね。だって、もしかしたら全員が好んで行きたいって手を挙げることもありますよね。

小川 そうなんです。悪徳サ高住運営会社と、優良サ高住運営会社があるのがこの業界。例えばシルバーウッド(下河原忠道社長)が運営しているサ高住なんかは、とても評判がいい。自由度があって、地域コミュニティにうまく溶け込んでいるというか、コミュニティを作り出している感じです。

吉松 そういった取り組みが、入居の動機付けになっているということですね。

小川 すごく満足度が高いのに、入居している人が併設のデイサービスに行くと、介護報酬が下げられるというのは、奇妙な話です。

吉松 世界をみても初めての経験をしてる日本の超高齢社会。半ば手探りになってしまうということですね。

小川 この業界は、複雑で難しいんです。

要介護度低いと報酬が低く賃金も安い

吉松 先日、NHKでサ高住の現場をレポートする番組がやっていましたが、入所者さんの徘徊が大変な問題になっているといっていました。

小川 取材で回っていると認知症で「家に帰る」と言って夜中に出ていくという話は結構、聞きますね。

吉松 認知症は、要介護度には関係ないんでしたっけ。

小川 関係ないです。

吉松 テレビでも、認知症になっても体力はあるから徘徊して遠くまで行かれてしまうと言ってました。そのサ高住では、所長がほぼ1人で24時間泊まり込んで業務をこなしていました。

小川 業界自体に人が入って来ないから人手不足は深刻。悲鳴をあげている現場も少なくありません。

吉松 人が集まってこない最大の理由はなんですか?

小川 給料が安い。

吉松 大変な労働なのにね・・・。働き手の男女比はどんな感じですか?

小川 女性のほうが多いと思う。

吉松 平均年齢は?

小川 40代、正社員とパートで構成されていて、パート比率が高い業界。

吉松 例えば20代の給料はどのくらいでしょう。

小川 20万円前半じゃないかな。

吉松 40代は?

小川 特養の施設長とかまでいけば、600万円ぐらいもらえる人もいると思います。けれども、いちヘルパーだと月額20万円台のイメージがありますね。勤続年数が長ければもうちょっともらるのだろうけれど、勤続年数が短い人ばかりだから。

吉松 それは離職率が高いということ?

小川 離職率は15〜16%で、他の産業が12〜13%だから、そこまで掛け離れて高いという訳でもないんですけど……。高いは高い。

吉松 一番抜本的な給料が安いという問題だけど、冒頭に話していた会社が利益をあげていないことが理由ですか?それとも、別の理由があるの?

小川 一番はやっぱり構造上の問題。いくら頑張っても、天井はほぼ決まっている。例えばデイサービスを1軒経営するとした時、ここで売り上げられる金額は最初でほぼ決まってしまうんです。利益をあげるには介護報酬を上げる方法があって、訪問介護に1回行くのが今まで2,000円だったのを、4,000円にするとかね。介護報酬自体の単価を上げるというのがまず基本。それ以外に、間接費の効率化があります。

吉松 間接費とは。

小川 デイサービスを例にあげます。デイサービス1カ所やっている会社と、同一エリアで10カ所やっている会社があるとします。欠員が出たといって、採用の広告を出すのに、1拠点しか運営していない会社も、10カ所運営している会社も出す広告の費用は同じ。これは、他の備品の購入やシステム導入にも当てはまることで、スケールメリットが全然違う。

吉松 小さくやっているところほど、間接費の負担が重いということですね。

小川 介護の業界は、圧倒的に小規模事業者が多いでしょう。よくいわれる業界のシェア率、例えば老人ホームの業界でいくと上位20社が占める業界シェアは10%程度。小さい規模の会社が多過ぎるんです。

吉松 小規模事業者でも本当に真心があったり、理念を持ってされているところも多いのに。辛い問題ですね。

後半は、「在宅介護の課題」「新しい介護ビジネスはあるのか?」「路上死と認知症」などについて語る。

後編はこちら⇒高齢者住宅業界ぶっちゃけトーク~後半~

(Hello News編集部 山口晶子)

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