• facebook
  • twitter
  • line

ARTICLE

記事

2019.01.31

♯海外マーケット♯市場・トレンド

市場規模1000億円。めくるめくハラルの世界~日本市場編~

このエントリーをはてなブックマークに追加

国のインバウンド政策により、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年には、訪日観光客が4,000万人にまで拡大する見込みだ。様々な地域の人たちが日本を訪れることが予想される中、グローバルムスリムトラベルインデックスによると、イスラム教徒の観光客は140万人に上ると推測されている。前号では、ハラルフードの基本についてお伝えしたが、今号では日本国内のハラル市場の現状について紹介する。

日本にやってくるムスリム観光客

日本を訪れるムスリムのうちの60%はASEAN諸国、とりわけインドネシア人やマレーシア人、シンガポール人が多いというのはご存じだろうか。これらの地域から旅行客が増えているのは、2013年に国が打ち出した東南アジア向けのビザ緩和政策が理由として挙げられる。今までは、一度限りのビザや、限られた期間・回数しか認められないビザだった。しかし緩和により、期限内であれば何度でも来日できるようになった。また、円安やLCC便の増加が進んだことで、東南アジアから訪日観光客が来やすい環境が整い、自然とムスリムの観光客数も増えているのである。

観光庁によると、2016年の訪日観光客が飲食費に使った金額は、7,574億円だという。一人当たり約3万2,000円になる計算だ。この金額を2020年のムスリム観光客数140万人に当てはめると、448億円になる。つまり、448億円分のハラルフードが求められるという意味でもある。

そこで、前号で紹介したハラル認証が重要となるのだ。現在、日本でハラル認証を行っているのは、「日本ハラール協会」、「日本ムスリム協会」、「日本アジアハラール協会」など、2014年現在で12の機関・団体がある。日本でハラル認証を受けるには、これらの団体に届け出をし、認証を受けなければならない。厳しい審査と多額の費用が必要なため、認証を受けたものについては「ハラルである=安全である」という証拠になり、自信を持ってムスリムに食事を提供できるのである。ちなみに、日本国内でハラル認証を受けていたとしても、その商品を輸出する場合は、その国のハラル認証を受ける必要があるため、ハラルビジネスを始める場合は注意が必要だ。

日本国内での広がり

現在、日本国内でハラル認証を取得している企業は、認証機関が民間のため、正式な統計はないものとしつつも、「ハラルジャパン.jp」によると食品大手のキューピーや味の素、日清商会などは積極的にハラル認証を取得しているという。

また、提供側に目を向けると、ANAがインドネシア線など東南アジアへの路線を中心に機内食でハラル食を用意したり、成田国際空港や関西国際空港では、ハラルのケータリングや、うどんやそば店での取り扱いがあるという。行政では、京都市がムスリム有効観光都市として、ムスリム対応のレストランやホテルの情報をウェブサイトで掲載するなど、徐々にではあるが広がりをみせている。

国連世界観光機関の調査では、ムスリムが「旅行時になにを重視するか」という問いに対し、「ハラルフード」と答えた人が最も多かったという。しかし、ムスリム向けのレストラン検索サイト「ハラルグルメジャパン」で、ハラル認証メニューがある日本のレストランの数を調べてみると、全国に177店舗しか存在せず、これでは140万人のムスリム旅行客の胃袋を満たすことができるとはお世辞にも言えない現状だ。また、日本に旅行に来る際には、ハラルについての情報を得るために、アメリカのアプリ「Zabihah(ザビハー)」やポータルサイト「ハラールメディアジャパン」を利用しているともいう。こうしたことから、ムスリムにとって日本は、まだまだ食事に関して満足できる旅先ではないのかもしれない。

日本企業がイスラム教に対する理解や、ハラルについての知識を深める前に、国を挙げてのインバウンド政策が勇み足で進んでしまい、ムスリム観光客の数だけが増えてしまっているのだろうか。とはいえ、食料品に限らず日本の商品は、高い品質と安全性などの信頼を得ているのも事実。日本のハラル市場が年々拡大している今、ハラルフードを提供するための知識や設備などのインフラを構築できれば、ハラルを提供するレストランの数も増えていくと期待したい。

次号では、ハラルに挑戦する日本の企業について紹介する。

(Hello News編集部 鈴木規文)

このエントリーをはてなブックマークに追加
ページトップへ戻る