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COLUMN

コラム

2019.02.14

♯海外マーケット♯市場・トレンド

市場規模1000億円。めくるめくハラルの世界~日本の企業編~

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2020年にはムスリムの訪日観光客が140万人にのぼると言われているなか、日本企業はムスリムへの食事の提供に対して、どのような取り組みを行っているのだろうか。前号では日本国内のハラル市場の現状についてお伝えしたが、今週はハラルに挑戦する日本の企業を紹介する。

ハラル認証を取得している日本企業

2015年6月、食品メーカー大手のキューピーはハラル認証を取得したマヨネーズを日本国内向けに発売した。

味の素はうま味調味料のハラル認証を取得し、中東への輸出を行っている。

農林水産省の資料によると、他にもお米や、粉末だし、牛肉加工食品など、大手を中心とした企業が続々とハラル認証を得て、市場へ参入しているということが分かる。ハラル商品を製造するための専用の設備を新規に調達した場合、事業費の1/2 の補助金を支給される国からの補助金や助成金制度も増加を後押ししている。

こうした状況の中で、2018年4月、和紙繊維製品販売という全くの異業種からハラル事業に参入した企業がある。設立12年を迎えるキュアテックス(東京都世田谷区)だ。狙いは何か。同社会長の藤代政己さん話を聞いた。

日本のホテルにハラルフードを届ける

きっかけは、創業から手掛けている和紙繊維製品をシンガポールに輸出したのが始まりだった。輸出のノウハウを活かし、海外販路の開拓サポート事業を展開。すると、海外展開における実績が認められ、シンガポールと強いつながりを持つ同社に、経済産業省から日本の食材を海外に売り込んでほしいと声を掛けられたのだ。そこで、日本の食材をシンガポール流にアレンジして現地で販売することにした。しかしこの事業は一筋縄ではいかなかった。当時の様子を藤代さんはこう語った。

「シンガポールは多国籍国家だから、ムスリムも多く住んでいます。そのため、ハラル認証を取得しなければどんなに美味しい料理を提供しても全く売れないということがわかりました」

そこで、どうすれば自社で作った料理をシンガポールで販売できるかということを徹底的に調査した。その中で、藤代さんはマレーシアにあるレストランの社長と知り合い、そのレストランが抱えている悩みを知ることになった。そのレストランでは、ラマダンの時期に毎日押し寄せてくる500人ほどのムスリムに対して、一品一品料理を作っていては間に合わないため、セントラルキッチンを作ったという。そこでまとめて作った料理を真空パックにして提供していたが、今度はラマダンの時期が終わるとムスリムの来客が減るため、セントラルキッチンの稼働率が落ち、生産効率も下がっていたのである。

その話を聞いた藤代さんは「2020年には東京オリンピックもあり、日本にもたくさんのムスリムが訪れるに違いない。だからラマダンの時期が終わり、稼働が止まっているセントラルキッチンを利用して日本に輸出してみよう」と考えたのだ。

こうして2018年4月に立ち上がった同社のハラル事業は、現在、熊本県天草市にセントラルキッチンを構え、ハラル認証機関からハラル認証も得て、日本のホテル2社にハラルフードを提供している。ソースは前述したマレーシアのレストランから輸入し、肉や魚、野菜などの食材は日本で調達。カレーはもちろん、日本食まで手掛けているそうだ。今後はここで作った食品をマレーシアに逆輸出し、ハラルフードの海外展開を目指していきたいと、藤代さんは今後の展望を語った。

ハラルを提供する飲食店では

「お客さんの7割はムスリムで、多くの方が週に何回も来るような常連さん。ここ1~2年で観光客も増え、一晩で20組以上来る日もあります」

こう話すのは、東京都新宿区内にあるイスラム料理専門店で働くシェフ歴10年の田沢浩太さん(36/仮名)だ。田沢さんはハラル需要に対して、供給が足りていない状況ではないかという。というのも、観光で来ているムスリムが3日連続で来店するのもよくある話とのこと。

「理由を聞いたら、食べるものは至るところにあるけれど、それがハラルなのかどうか分からないから食べられないんだと言うんです。せっかく旅行に来てくれているのに、食事を楽しめないなんて悲しいですよね」(田沢)

また、ハラルフードを提供するにあたって苦労していることも多いと頭を悩ませている。同店のメインターゲットはムスリムだが、そこだけに絞ってしまうと売上も落ちると考え、日本人客にも来店してもらえる努力をしている。しかし、しょう油やみりん、酢にはアルコールが含まれており、これらを料理に使うことはできない。そのため、日頃からそういった調味料に慣れ親しんでいる日本人客の胃袋を満足させるには、多くの工夫が必要とのこと。また、ハラル認証を受けている材料は、日本ではまだ流通が盛んではないため、通常の食材に比べて割高になっていることも多いという。

アルコール飲料についても、店内で提供することができないので、ターゲットはかなり絞られていると話す。

「ハラルフードを提供している現場の意見としては、お酒が出せないため客単価は上がりませんし、料理にも制限があるので、簡単に採算が取れるビジネスではないなというのが本音です。日本人のお客さんも来てくれますが、リピートしてくれるかというと難しいところです。だから、需要はあるのにハラルフードを提供する飲食店の数が増えないのではないでしょうか」と田沢さんは分析した。

また、「そうは言っても誰かがハラルフードを提供しないと、ムスリムは日本で食べるものがなくなってしまいます。だから私は、これからも彼らに美味しい料理を提供できるよう、今は頑張っていきたいと思います」

ハラルに向き合うことが重要

観光立国を目指す国の政策により、2020年以降もムスリムの訪日観光客は増えることだろう。それにともない、ムスリムの食事についても多くの企業がビジネスチャンスと捉え、ハラル市場に乗り込んできている。しかし、ハラルを提供している店にもかかわらず、豚肉のメニューも同じキッチンで調理していたり、アルコールの提供が行われていたりと、ムスリムにとっていかにハラルが重要なことかという認識に欠けている企業があるのも事実だ。

そうした中で、ムスリムが安心できる料理を提供できる企業というのは、ハラル事業に対して確固たる信念を持ち、社会問題として取り組めていることができている企業ではないだろうか。ハラルを通して、他国の文化に向き合い、受け入れ、その期待に応えるというのは、とても難しいこと。そこにビジネスを求めるということは、相応の覚悟が必要になると考える。

(Hello News編集部 鈴木規文)

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