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2019.05.30

♯市場・トレンド

「2022年問題」を考える。生産緑地農家が直面する3つの選択肢

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30年間の営農義務が定められた「生産緑地の指定」が解除される2022年まで、残り3年と迫ってきた。そこで懸念されるのが、農地から宅地への一斉転用だ。これにより土地価格の下落や住宅の供給過多など、不動産市場に及ぼす様々な影響が懸念されている。これらの問題を総じて「2022年問題」と呼ぶ。今回は、生産緑地に指定されている都市部の農地について、今後どのような選択肢があるのかを考えてみたい。

生産緑地法の改正

生産緑地とは、端的に言えば「生産緑地法によって指定を受けた、市街化区域内にある農地」をいう。もともと市街化区域は、都市の開発を目的に、宅地や商業施設などを増やすことを目的とした土地区分である。そのため、国は市街化区域の農地に、宅地並みの固定資産税と都市計画税を課すことを定め、街の都市化を促進しようとしてきた。その結果、重い税金に耐えられなくなった農家が次々と土地を手放し、宅地化されたことで、市街地から緑が消え、住環境が悪化。結果的に、社会問題にまで発展してしまったという経緯がある。

そこで国は、市街化区域内にある農地などの緑地を残そうと、1972年に「生産緑地法」を制定。都市部にある農地などの緑地の環境機能を考慮し、良好な都市環境を形成しようと考えた。ところが、その後の土地価格の上昇や、都市開発による土地不足が急激に進んだことで、1992年、生産緑地法の改正に踏み切ったのだ。

この改正により、生産緑地の指定を受け、30年間は農地・緑地として土地を維持するのであれば、引き続き農地評価として税制面で大幅な優遇が受けることができるよう定めた。

生産緑地の要件を満たしている農地では、固定資産税は宅地評価の約100分の1となる農地評価のそれで済む。このため、現在では都市部にある農地の多くが生産緑地に指定されていると言われているほどである。

生産緑地に指定されるには以下の要件が必要となる。

≪生産緑地の定義≫
1.公害又は災害の防止、農林漁業と調和した都市環境の保全等、良好な生活環境の確保に相当の効用があり、かつ、公共施設等の敷地の用に供する土地として適しているものであること。
2.500平方メートル以上の規模の区域であること。
3.用排水その他の状況を勘案して農林漁業の継続が可能な条件を備えていると認められるものであること。

上記3つの要件を満たす必要性があるが、改正後においても特に2の土地面積についての要件を満たせなかったり、30年間の営農義務を守ることを約束できなかったりする農家などでは、高い税負担に耐え切れずに用途転用してしまう人々も約半数ほどいた。

指定農家に与えられる選択肢

30年の営農義務を経て、2022年に解除されることになる生産緑地。都市部の農地が一斉に宅地に転用されたり、住宅が過剰になって空き家が増えたり、不動産価格が下落したりするのを恐れた国は、「2022年問題」の解決に向け、2017年に再び生産緑地法の改正を行った。

≪改正の内容≫
1.面積を500平方メートル以上から300平方メートルへと引き下げ
2.直売所や農家レストラン、製造・加工工場の設置が可能に
3.特定生産緑地制度

これらの改正により、今、生産緑地指定を受けている農家には3つの選択肢が与えられることになった。

≪特定生産緑地として引き続き農地として運用する≫
2022年時点で営農を希望する場合、引き続き生産緑地に指定してもらうことができる。新たに届け出を出し、特定生産緑地として指定されれば、10年間は税制上の優遇を受けたまま、農地として運用することが可能。ただし、農地維持の義務が発生するため、後継者の育成など次世代の働き手を確保する必要がある。

≪生産緑地を解除し、宅地として活用する≫
まず、オーナーから自治体に、土地の買い取りの申し出を行う。しかし、自治体には予算があるため、実際に買い取られるケースはほとんどないといわれる。その場合は、そのまま生産緑地が解除され、宅地に転用される。固定資産税が大きく上昇するため、税金の面で注意が必要だが、賃貸アパートやマンションを建てることで収入を得ることも可能だ。検討する際には、周囲の環境や人口動態を見据えながら、どれくらいの家賃収入が見込めるのか、固定資産税とのバランスをみながら注意していくことが必要である。

≪宅地に転用後、民間に土地を売却する≫
農地から宅地に転用した後に、民間に売却する。市場の動向によっては、売値が抑えられてしまう可能性もある。

上記3つの選択肢により、不動産市場に多大な影響が出るリスクは減ったといえるだろう。しかし、特定生産緑地として農家を続けるには、10年間の営農義務があるため、後継者問題などの課題も出てきた。

2022年まであと3年。指定農家は、今のうちに家族で相談し、どの選択肢を選ぶのかを考えておく必要がありそうだ。

・直近で相続が発生する可能性はないか?
・営農の場合は担い手がいるかどうか?
・近隣の環境はどうなっているか?
・手持ちの資産はどうなっているか?

これらの状況を踏まえ、最適な土地活用法を見い出すことが求められている。

(Hello News編集部)

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