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2019.06.27

♯連載

【第1回】ボロビル再生請負人のつぶやき

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第1回「ボロビルでよくない?」

当社(株式会社オリエンタル・サン)は、この4月に設立したばかりの池袋の不動産屋で、都心5区を中心としたオフィス管理を行っている。事業責任者の私は、2004年に不動産業界に入ってから、一貫して事業用物件(店舗・オフィス物件)、特にボロビル再生を中心に活動してきた。本誌に連載の機会を得たので、しばしお付き合いいただきたい。

【筆者プロフィール】

山田武男
1980年横浜生まれ。茨城のニュータウン育ち。東京農業大学造園科学科卒。2004年に不動産業界に就職して以来、数社の不動産事業に従事。店舗、オフィス、ホテル等の事業用不動産を中心に、数十件の築古ビルを再生、運営に関わっている。築古ビルの空室に若手アーティストの展示場所として活用するイベントを18回開催するなど、ビル再生、地域への関与を模索し続けている。2019年4月、不動産会社(株)オリエンタル・サン設立に参画し、現在取締役。

さらばスペック競争

自分が経験してきたこの15年で、オフィス業界は激変している。

私が入社した2004年は、90年バブル崩壊の不況が長く続いた時期で、外資を中心としたハゲタカが東京のビルを買い漁っていた時代だった。

大規模ビルの空室率は6%を超えていた。その後、ファンドバブルと言われる2007年頃は1%程度まで下がったが、その崩壊から空室率はグングン上がり、3.11の震災の頃には、再び空室率8%ほどに上昇し、条件の不利な中小ビルの空室率は10%を大きく超えていた。ちなみに現在(2019年5月)、東京主要5区の平均空室率は1.88%。

明治時代、丸の内に三菱一号館ができてから、六本木ヒルズの建設に至るまで、時代ごとにハイスペックビルが供給されてきた。前述の空室を作らないためには、その時代の最先端のビルを作らなければならなかったのだ。

良いオフィスのイメージといえば、OAフロアに大きな電気容量があったり、駅近だったり、セキュリティシステム完備のシステム天井のきれいな部屋だったり、、、といったところだろうか。

しかし、こうしたイメージを持つ読者は既に時代遅れといえるだろう。いくつかの設備はまだ現役と言えるかもしれないが、通信技術の発達とともにオフィスはかなり変わっていった。

通信イノベーションとスペック型競争の崩壊

OAフロアは、コンセントの有無こそ重要だとしても、Wi-FiやBluetoothといった無線技術により、オフィスを埋め尽くしていたケーブルの数は減っていった。コンセントでさえバッテリー容量の向上とともに必要なくなるかもしれない。置くだけで充電のできる携帯電話ポートが登場するなど、ケーブルレスは進むばかりだ。

また、電気容量についても、PCや各設備の省エネ性能が向上することで、かつてほど求められなくなった。例えば、筆者の管理物件で20Aの小型オフィスがある。数年前までは賃貸物件としての商品化は難しかったのが、少ない電気容量でも気にしないテナントが現れている。

給湯室でさえなくて良いという人もいる。コンビニ網が発達したおかげで、5分以内にコンビニがあれば、冷蔵庫や電子レンジさえ必要ないというのだ。

他にも、サーバーのクラウド化が進んだことで、壁を埋め尽くしていたキャビネットや袖机も今ではすっかり見なくなった。IT企業では、手元に紙資料を持つ社員は無能とされるからだ。

若い会社はとにかく物を持っていない。そうなると、ビルのスペックすら限定的なものでよくなってしまう。

かつて中小ビルには高嶺の花だった監視カメラやオートロックも、ウェブカメラやスマートロックが登場したことで、安価に入手できるようになってしまった。

天井もタイルカーペットもスケルトンオフィスには邪魔なようだ。

オフィスが必要なくなる日

働き方改革の一環として、企業でのリモートワークが進んでいることで、自宅勤務が許され、会議もウェブカメラで参加したりする時代だ。連絡手段がチャットで十分だったりすると、ワーキングスペース自体が必要ないということになる。

また、クラウドワークが進むと、PJ(プロジェクト)ごとの事業参加になるだろう。すると、会社という場すらなくなるかもしれない。もはや何が残るのか分からなくなってきた。

現代日本において、終身雇用や年金受給が怪しくなりそうなニュースが流れていることから、働き方改革が一回りすると、会社もオフィスもなくなってしまうかもしれない、と日々妄想しているが、読者のみなさんはどう思うだろうか。

オフィス業界のサブスクリプションモデルは進むのか?

老舗のサービスオフィスは以前から、入居すると世界各都市で運営するオフィスを利用可能なサービスを運用している。最近では、大規模に参入してきたサービスオフィス運営者も同様のサービスを展開しているようだ。

住宅では、「ミニマリスト」と呼ばれる、家具や洋服などを極端に持たない人が注目され、中には、カバン一つでほぼホテル暮らしのような人もいるそうだ。

 

オフィスは仕事の場であり、前述のように書類が減っていく中では、ミニマリストのような企業やビジネスマンが増えていくことが考えられる。すでに筆者の周りにも特定の勤務先を持たず、複数の名刺をもって活躍する人材が見受けられる。

こうした人々には、世界各都市、日本各地にある会員制のビジネスラウンジのようなもので十分なのかもしれない。

多くの人が、賃貸借契約という重たい契約をしなくてよいワークスタイルに気づいた時、オフィスのサブスクリプションモデルは進むといえる。

次号では、この“サブスクモデル”について考えたい。

(ボロビル再生請負人 山田武男)

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