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2019.08.08

♯新しい暮らし方♯市場・トレンド

しがらみ無しの不動産ベンチャーが変える未来

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徐々に早まる変革スピード

「Amazon」が、母国アメリカで不動産業に進出するという。2019年7月23日、そのニュースを聞いた業界関係者の多くが、「いよいよきたか」と思っただろう。同社と提携する不動産仲介会社「Realogy」と共に、家を探す人と地元仲介会社とを瞬時につなぐサービスを提供していくそうだ。

日本では、インド資本「OYO TECHNOLOGY & HOSPITALITY JAPAN(以下、OYO)」の話題がどこへ行っても持ちきりだ。同社が30分程度のスマホ操作で賃貸住宅を借りられる「OYO LIFE」をスタートさせたのは、2019年3月28日。サービス開始前の時点で、事前登録者数が1万3205人にものぼったことから、OYOの利便性が待ち望まれていたことがわかる。

7月30日〜31日に開催された「賃貸住宅フェア」では、不動産テックに関する特設コーナーが設けられていた。ビッグデータやAIを活用した不動産取引のセミナーは満員で、「取り残されてはまずいぞ」という気迫が漂っていた。

前述のOYOでは、従業員の営業ノルマと事業戦略を3カ月先までしか決めないという。3カ月したら再度、3カ月先の方針を決定する。それくらい業界の変革スピードが早まっており、言い換えると先が読みにくいとも言える。

20年前までは国内には2万3000店あった街の本屋が、いつしかAmazonによって淘汰され、気がついたら1万2000店(2018年)まで減少したことを考えると、古き習慣を重んじる不動産会社も同じ未来を辿る可能性も無きにしも非ずだ。

しがらみから抜け出すのは…

賃貸住宅を契約するには、不動産会社に行き、宅建士から対面で重要事項説明を受けたあと、賃貸借契約を結ぶ、というのが基本の流れだ。

賃貸住宅を借りるには、こうした段取りを経て契約するのが当然だと思っていたが、OYOは違った。

不動産会社に行き、その場で契約の手続きをしなくても済むよう、オーナーと入居者が直接契約を結べるようにしたのだ。入居後のトラブルや家賃滞納など直接契約のリスクについては、物件をサブリースして提供しているOYOが一括で対応する。それができるのは、ソフトバンクという巨大資本が後ろに控えているからだろう。2018年9月にソフトバンク・ビジョン・ファンドなどから1100億円強の資金調達を受けている。

OYOがサブリースする部屋には最新の家具が付いている。入居者とは、1カ月ごとの定期借家契約、または一時利用契約を結ぶため、手ぶらで入居できる気軽さと、引っ越しのしやすさも売りのひとつである。部屋を借りる時には多額の初期費用が必要で、ゆえになかなか引っ越せないと考えていた私たちの概念を覆した。

福岡で3万室を管理する三好不動産の笠清太執行役員は、こういったOYOの動きに対し、「消費者がどう動くかが答えだと思います。これから先は、余計なものや納得できないもの、面倒なものを省くことが、消費者には受け入れられる近道かもしれない」と語る。

思い込みを捨てる

働き方も暮らし方も多様化した今、なぜ人は同じ場所に住み続けなくてはいけないのか、ということに疑問を持ち、定額で全国住み放題の多拠点コリビングサービスを展開する企業も現れた。株式会社アドレスだ。

同社が提供する「ADDress(アドレス)」の会員になると、月4万円でアドレスが持っている全国の拠点(17カ所/2019年7月時点)に住めるようになる。家を会員同士でシェアすることから、拠点の移動に関しては細かいルールこそあれ、例えば、今日は東京の家に泊まって、明日は福岡に泊まって、来週からは札幌に泊まって、という暮らし方ができるのである。

では、なぜこんな契約ができるのだろうか。その理由は、各物件ごとに会員同士で共同賃貸借契約を結ぶからだという。「家は一つ」という思い込みを同社は捨てさせた。また、将来的には拠点から拠点までの交通費も定額にしようと考えているそうだ。

不動産業界では今、ユーザービリティを追求し、消費者ファーストのサービスを展開する企業が少しずつ増えようとしている。しかし、どんなに業界から注目を集め、画期的なサービスだと言われようが、そのサービスを使うかどうかを決めるのは、当たり前だが消費者である。

外資系企業や新規参入のベンチャー企業は、こういった不動産業界のしがらみに囚われていないだけに、消費者のことだけを考えたサービスを提供できる。今後、これらの企業が、業界に対してどのような変革をもたらすか、その動きに注目したい。

(Hello News編集部 鈴木規文)

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