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2019.08.22

♯連載

【第2回】ボロビル再生請負人のつぶやき

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第2回「サブスクモデルってどうなの?」

当社(株式会社オリエンタル・サン)は、この4月に設立したばかりの池袋の不動産屋で、都心5区を中心としたオフィス管理を行っている。事業責任者の私は、2004年に不動産業界に入ってから、一貫して事業用物件(店舗・オフィス物件)、特にボロビルの再生を中心に活動してきた。本誌に連載の機会を得たので、しばしお付き合いいただきたい。

【筆者プロフィール】

山田武男
1980年横浜生まれ。茨城のニュータウン育ち。東京農業大学造園科学科卒。2004年に不動産業界に就職して以来、数社の不動産事業に従事。店舗、オフィス、ホテル等の事業用不動産を中心に、数十件の築古ビルを再生、運営に関わっている。築古ビルの空室に若手アーティストの展示場所として活用するイベントを18回開催するなど、ビル再生、地域への関与を模索し続けている。2019年4月、不動産会社(株)オリエンタル・サン設立に参画し、現在取締役。

サブスクリプションモデルとは?

世間は、サブスクリプションモデル(以下、サブスク)の話題で盛り上がっている。

サブスクは、定額の会費を取り、様々なサービスを提供する。「Wikipedia」によると、「利用者はモノを買い取るのではなく、モノの利用権を借りて利用した期間に応じて料金を支払う方式。コンピュータのソフトウェアの利用形態として採用されることも多い」と説明されている。

私は、自宅で動画配信サービス「Netflix」を利用している。

「Netflix」は、映画やドラマをウェブ配信しているのだが、アカウントさえあればどこでも楽しめるのがポイントだ。自宅のテレビはもちろん、スマホやタブレットなどでも「Netflix」のアプリが入っていれば、誰でも利用することができる。

最近は、子供の習い事の待ち時間に見たり、実家のテレビで暇をつぶしたりと、場所を変えて、多くのシーンで楽しんでいる。

見たい映画やドラマをいつでも見れるので、レンタルビデオを借りたり返却する手間が省けるのも良い。同様のサービスは「Amazon」も展開していて、両社でしのぎを削っている。

量としてとらえる

サブスクは、利用者を量としてとらえ、定額会員を大量に確保し、損益分岐点を目指すことが特徴だ。

前述の動画配信サービスは以前からあるが、大容量の光回線の普及とその利用料の低下が、発展の要因と考えている。

レンタルビデオと違い、ウェブは提供する数量に上限がないので、確保した会員の数だけサービス提供ができる。会員の増減はあるが、一定数の会員が定額を払っている限り、毎日の売上に一喜一憂する必要がない。

ちなみに、古くからあるサブスクモデルといえばスポーツクラブだが、その運営者と話をしたことがある。スポーツクラブの会員は、郊外の駅では一施設あたり3,000から4,000名程度いるそうだ。そのうち、毎週や毎日のように通う利用者は2割程度だという。決して安くない会費のはずだが、幽霊会員はそのことが気にならないらしい。

そういえば、私も先日「Netflix」を見ようとしたら、TVのリモコンが見つからず、まったく利用しない月があったが、利用料が無駄になっているにも関わらず、あまり気にならなかった。

サービス改善の努力

会員を量で確保する良さは、サービスの改善にある。

いやむしろ、サービス改善はサブスクモデルの肝であり、会員を減らさないための生命線とも言える。

「Netflix」でいえば、それは優良な動画作品の確保であり、同社ではオリジナル作品に大金を投じ、コンテンツ確保に努めているのだ。

ニコニコ動画なども、優良番組の創出のための投資で、あまり利益は出ないと聞く。

サブスクは、映像作品の新たな投資家であり、インターネットの世界で興行主となったのだ。

そもそも賃貸はサブスク

ここで不動産について考えてみると、賃貸業もサブスクモデルと捉えることができる。

前述のウェブサービスと違い、部屋数や床面積という上限はあるものの、毎月賃料として入ってくる定額収入はサブスクの利用料と同じだ。

当社の管理しているビルでは、電気代や水道代を定額にしているオフィスビルがある。

平均的なオフィスの光熱費を計算して、12カ月で割ったものを毎月請求している。

メーター検針した上で、清算するのがもっともフェアなはずだが、実は定額の入居者の方がクレームが少ない(ちなみに当社では、定額の入居者のメーターも検針することにしており、差が大きい場合は、一定期間の数字を観察し金額調整を行う)。

検針での請求は、真夏や真冬に冷暖房で電気代が跳ね上がり、クレームにつながることが多い。入居企業にとっては、賃料や光熱費などの固定費は、変動が少ない方が、経営がしやすいらしい。

各企業にとっては、本業に集中することが大事なのであり、光熱費に悩む時間を割くことは馬鹿らしいのだろう。

サブスクでサービス改善を

シェアオフィス大手「WeWork」では、ラウンジでビールが飲めるというし、会員は複数の拠点を利用できるらしい。様々な交流イベントを開催し、オフィスレイアウトについてはAIが自然と交流が生まれるような動線を設計したりできるようにと、投資を重ねているようだ。また、コワーキングやシェアを拡大することで、会員数を増やすことを可能にし、投資の原資を得ることにも成功している。

このようにサブスク企業は、サービスの改善にしのぎを削っているが、不動産賃貸業はどうだろうか。

賃貸収入は「不労所得」と言われ、寝てても入ってくるお金として、サービス改善の努力を怠ってきたように思う。

もちろん、外壁修繕や清掃など、不動産の維持としてメンテナンスは行ってきたのかもしれないが、人口減で部屋が余ってくると更なる努力が必要となるのではないだろうか。

将来的には、ビジネスコミュニティやスペースの一時利用など、不動産賃貸の周辺ビジネスを創出し、不動産業界全体として、入居テナントの快適性やビジネスの発展に寄与するようなサービス提供、改善に積極的に投資していくべきだろうと私は考える。

次号では、不動産に関する副業について考えたい。

(ボロビル再生請負人 山田武男)

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