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2019.08.22

♯賃貸経営♯市場・トレンド

悪条件もなんのその!満室稼働のハンモック付き賃貸住宅

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新宿駅から電車に乗り西へ向かうこと約30分。東京都と神奈川県の境にある町田駅を降り、歩くことさらに約20分。立地としては決して良いとは言えないその場所に、即満室になった賃貸住宅がある。「STAPLE HOUSE KOGASAKA(ステープルハウスコガサカ)」だ。賃貸住宅を選ぶときの第一条件としてあげられる「立地」は、ステープルハウスには関係ないようだ。その秘密を聞いた。

スペース貸しで通常賃料の2倍を実現

「STAPLE HOUSE KOGASAKA(ステープルハウスコガサカ)」の内覧会&セミナーが、7月20日に開催された。主催したのは、コンセプトエール(東京都豊島区)とクリーク・アンド・リバー社(東京都港区)の2社。

同物件は、2018年9月に竣工した戸建てガレージハウスで駅徒歩約20分という条件ながら、募集開始直後に、入居が決まった“大ヒット物件”だ。

敷地面積391.46㎡に対して3棟の戸建てガレージハウスが建っている。外観は、普通の一軒家に見えるが、中に入ると驚きの連続だ。

まず、車庫のシャッターをあげると、25.325㎡ほどのガレージが広がる。

車やバイク好きな人を想定して設計していることから、ガレージ内は作業をするのに十分なスペースが確保されている。壁はDIY可能になっており、車いじりに必要な用具を収納できる棚やフックなどを好きな場所に取り付けられるようになっている。

ガレージから室内に上がるとすぐ37.71㎡のリビング、ダイニング、キッチンと続く。リビング部分は2階がなく天井までの高さが4.752mほどある。日本の住宅の一般的な天井高は、2.4mと言われており、その2倍近い高さがあるというわけだ。

さらに、ダイニングの上部分にも面白い仕掛けが。4畳半の広さに特注のロープで作ったネットが張られており、総重量130㎏まで耐えられるハンモックになっているのだ。

ハンモックの網目は細かく、大人はもちろん、小学生低学年くらいの子供でも歩いた時に足が抜けない程度のサイズ。

寝転んでみると、弾力があり、まるでウォーターベッドのようだ。床がないため、最初の一歩を踏み出す時は少し恐怖を感じるが、慣れると開放感があり、自然に笑顔が溢れる。さらにハンモック面に対して垂直にもネットが張られており、公園にあるアスレチック遊具がそのまま家の中にあるかのようだ。

2階部分はハンモックスペースの他に、32.29㎡の寝室が設けられている。

当初、不動産会社から提示された賃料が13万5000円だったが、オーナーの意向で16万円と約2割高く設定した。

それでも3棟のうち、2棟を賃貸として募集したところ、すぐに入居者が決まった。そこでオーナーは残りの1棟を一般の賃貸住宅ではなく、最近話題の「時間貸し」にすることにチャレンジしようと考えた。新築物件を時間貸しにすることは、珍しい。立地が悪いことからもスタートするまでは、利用してくれるかどうか、不安が募ったという。

しかし、スタートしてみるとびっくりするほどの高稼働。10カ月運営したところ、350万円もの売り上げがあがった。1カ月あたりにすると、35万円の計算だ。他の2棟の家賃16万円の約2倍にも上る。

利用用途は、イベントや会食、パーティーなどが中心。運営したことで新たな発見もあった。遊びで利用するだけでなく、趣味や仕事など用途が多岐に渡ったことだ。女性二人のボードゲーム、家族や結婚の写真撮影、妊婦とこれから生まれてくる赤ちゃんを主役にしたパーティー、ベビーシャワーなど想定を越える予約が相次いだ。

時間貸しは、メリットもあれば、デメリットもあった。案件によって利用時間や時間帯が異なるため、掃除、ゴミ出しはオーナー自ら行うことに。平日は、会社帰りに掃除をすることもあったそうだ。

そういった細かい手間が積み重なることから、オーナーは一般賃貸に切り替えることを決め9月からは新しい入居者が入居するという。家賃は、19万5000円に設定した。

ハンモック付き賃貸との出会い

内覧会&セミナーの当日は、大人から子供までそのハンモックを存分に楽しんでいた。

「毎日ここで寝てもいいくらい。とても気持ちいい」と興奮気味に話す参加者もあった。

二部制になっており、オーナーや管理会社など約30名が参加し、物件を隅々から熱心に見学していた。

イベントの主催者である久保田大介さんは、賃貸住宅を管理するPM工房社(東京都豊島区)を経営し、2019年7月には、新たに賃貸住宅オーナー向けのコンサルティングを行うコンセプトエールを設立した。コンセプト型賃貸住宅に特化し、オーナーの賃貸経営をサポートしていく予定だ。コンセプト賃貸とは、物件にテーマを持たせて企画した賃貸住宅のことをいう。

「賃貸市場にはたくさんの顧客がいます。しかし、賃貸業界側がその要望を満たせていません。ニーズをしっかり汲み取りコンセプト賃貸住宅を普及させて行けば、この市場には計り知れない可能性があると思います」とコンセプト賃貸の重要性を熱く語る久保田さんは「Mr.コンセプト賃貸」と呼べるほどの賃貸大好き人間だ。

大学では演劇学科を専攻した。演劇で、観客に感動を与える時と同じ感覚でコンセプト賃貸の演出にも取り組んでいるのだろう。久保田さんが編集長を務めるウェブマガジン「ワクワク賃貸®︎」は、そんな思いが詰まった集大成のようなサイトになっている。サイトでは、久保田さんが妄想するワクワクするような賃貸住宅を紹介したり、世界にあるユニークな賃貸住宅を掲載したりしている。

その中でも久保田さんが特に注目していたのが、ロシアの建築家が企画したハンモックが付いている賃貸住宅だった。「いつか自分が企画してこのような面白い賃貸住宅を作りたい!!!!」と強く思っていたそう。

ある日、久保田さんは衝撃的な記事を目にする。2018年の年末のことだ。日本にあるハンモック賃貸住宅、ステープルハウスが紹介されていたのだ。

「先を越された!!!!」といったんは悔しい気持ちになったが、すぐさまその賃貸住宅を企画していた会社、クリーク・アンド・リバー社に連絡をした。

企画の責任者として出会ったのが同社の鈴木謙一さんだった。一級建築士でありながら、なんとこのステープルハウスのオーナーでもあった。二人は対面を果たし、コンセプト賃貸住宅への想いや考え方などを話しているうちにすっかり意気投合し、一緒に仕事をしたいと思うようになり、今回のコラボイベントに至った。

ステープルハウスは、鈴木さんの実家があった場所に建っている。相続対策と土地の有効活用を目的に、自らプロデュースを行ったのだ。

賃貸住宅を建設するにあたって、鈴木さんが懸念したのが、「立地」だった。最寄駅から遠く、郊外で決して良い条件ではなかった。さらに周辺は、生産緑地が多く、数年後には賃貸住宅が増えると予想されていた。

生まれ育った者としては、「土地を手放したくない」「地域に貢献したい」という思いがある。一方で、地域全体高齢化が進み、地域のお祭りなどもなくなってしまっているという問題点があった。

そこで、解決策として、住み手が望むライフスタイルを見極め、自由で大きな生活空間を作ろうと考えたという。今回は、ガレージハウスを採用した。さらにハンモックをつけることで特徴的な空間を作ることができた。このような賃貸住宅を建てることで新たな住民を呼び込み、地域の価値を上げていく。また、10~15年後の変化は予想できないため、大規模で戸数のある賃貸住宅を建設するリスクと相続トラブル回避の考えから、3棟の戸建て賃貸住宅というゴールに行き着いた。

今の時代、住み手が住みたいと思う空間づくりが重要といろんなところで耳にする機会が増えた。実際にステープルハウスを取材し、ガレージとして利用できる広い土間や遊び心が散りばめられたハンモックなど、住む人自身が暮らしを創造していける点が、入居者の心を掴んだのだろうと感じた。

(Hello News編集部 山口晶子)

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