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2019.09.26

♯賃貸仲介・管理

“気軽に入退去”が進む一方で、変わらぬ原復の現場

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エアビーやOYOの登場で、「人が簡単にスイッチできる時代」=「気楽に引っ越しできる時代」がやってきた。しがらみのない外国資本がけん引する民泊やマンスリーといった貸し方は、日本人の住まい観をあれよあれよという間に変えていく可能性がある。

しかし、館内に清掃スタッフが常勤しているホテルと異なり、民泊やマンスリーは、外部から清掃や原状回復のスタッフを集めてこなければならないという課題がある。普段あまり着目されることのないその問題について考えたい。

原状回復の職人、育つには10年かかる

年間3万件以上の原状回復を行う専門会社の幹部はこう言う。

「管理会社の社員さんは、内装や外装とか、リフォームや建設に関する知見がない方が多く、そういう方がいくら現場を見て回っても、退去精算の計算ができません。瑕疵、故意・過失が見抜けないし、見抜けてもどう直せばいいのか分からない。だから見積もりが出せません。“もうお宅(原状回復会社)に任せるからやって”みたいな管理会社は多いと思います」

彼らが言うには、建物管理とリフォームは異なり、リフォームの中でも一般リフォームと原状回復とは異なるそうだ。

「原状回復工事の場合、きれいに仕上げるのは当然。それに住めるかどうかの判断が必要です。床なりする、ギシギシする、これはお風呂交換ですよね、と提案する、その判断力プラススピードが求められます。こういう人が育つには10年はかかります。しかしどこも人手不足で、現場は疲弊しているから若い人間から辞めていく。民泊やマンスリーの運営会社もこの点は課題になっていくのではないでしょうか」

前述の幹部が言うには、約1,000件の原状回復に携わると大体のことが分かり、10年間くらい経験すれば、熟練と言われる職人に育っていくという。彼らには経験値に加えて設備、建材メーカーの商品群に対する知識とメーカーとやりとりする交渉力などが求められる。およそ10年で物件の構造や設備、仕様も変わっていくため、知識は常にアップグレードされていかなければならない。

これに退去立会いが加わると、入居者とオーナー、管理会社の間に立って、全員が納得する落とし所を短期間で見つけ、工事を完了させる調整力も必要とされる。

「原状回復の職人は、修行僧みたいな人が多い所以です。一物件として同じケースはないです。皆、もくもくと取り組んでいますが、そういう仕事を若い人はしたがらない」

どれほど借り方・貸し方が多様化し、自動化や機械化が進んでも、原状回復の部分は人の手が要る。

現状では、大手の管理会社ほど働き方改革で残業ができないため、下請けの負担は増える一方。立会い、見積もり作成、オーナーや入居者への電話連絡といったことまで原状回復会社が代行している現場もある。原状回復会社側にも問題はあり、仕事が欲しいばかりに、代行する業務に対して対価を求めない傾向がある。

普段ほとんど注目されることのない原状回復の現場。実際には、人手不足、厳しい労務環境にさらされている。「人が簡単にスイッチできる」仕組みは、スマホやネットで急速に発展できるが、この現場はそう簡単に変われない。

海外マネーの投資を呼び込むには、日本国内の不動産の価値が適正に維持されることはとても大事で、良質な原状回復工事はそれを下支えしているとも言える。今後、こういった原状回復工事の制度そのものを変えるような動きが出てくるかもしれない。

(Hello News編集部 吉松こころ)

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