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2019.12.19

♯連載

【第4回】ボロビル再生請負人のつぶやき

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【筆者プロフィール】

山田武男
1980年横浜生まれ。茨城のニュータウン育ち。東京農業大学造園科学科卒。2004年に不動産業界に就職して以来、数社の不動産事業に従事。店舗、オフィス、ホテル等の事業用不動産を中心に、数十件の築古ビルを再生、運営に関わっている。築古ビルの空室に若手アーティストの展示場所として活用するイベントを18回開催するなど、ビル再生、地域への関与を模索し続けている。2019年4月、不動産会社(株)オリエンタル・サン設立に参画し、現在取締役。

第4回「小型家具付きオフィスの作り方~クレア神田ビルの場合~」

今年、当社は開業と同時に小型家具付きオフィスのサブリース事業に取り組み始めた。

15年以上、オフィスの提供に関わってきた私の集大成ともいえるこの事業だが、実は拍子抜けするほど簡単にできるので、皆さまにその方法を伝授したいと思う。

CREA神田ビル62号室

当社の管理物件「CREA神田ビル(クレアカンダ)」は、1960年に新築された、エレベーターのない6階建てのオフィスビルだ。その6階にある一部屋(62号室)が当社のサブリース第1号である。


62号室の室内


独占できるルーフバルコニーが売り

今年の9月に月額8万5000円で、家具付き、光熱費込み、インターネット付きのオフィスをオープン。面積は8㎡ほどで、契約は1年間の施設利用契約とした。

当初は、外国人経営者が「経営管理ビザ」を取得するためのオフィスとして使えるよう、家具付きで企画し、英語字幕の動画なども用意していたのだが、募集開始からほどなくして、日本人のメディア関係のベンチャー企業が入居した。

≪募集用動画≫

都会のいたるところに隠れオフィスあり

このCREA神田ビルだが、神田駅徒歩2分と非常に便利なところにあり、エレベーターなしとはいえ、2017年にリニューアルした下層階のオフィスは満室が続いている。

62号室は、以前から倉庫や飲食店のバックオフィスとして使われてきたのだが、8㎡のオフィスとして貸し出すには、賃料を安くせざるをえず、かつエレベーターなしの6階ということもあり、数年前に入居者が退去してからは、手付かずで放置されてきた部屋だった。


62号室の改装前の写真


以前は倉庫や飲食店のバックオフィスとして使われていた

こうした部屋は、大きなビルでも見られ、分割により中途半端になってしまったサイズの部屋や窓のない事務所、オーナールーム、今は使っていない管理室、機械を撤去してできた部屋など、工夫次第で貸せる部屋は都心にはまだまだある。

一般賃貸とサービスオフィスの違い

そこで、そうした物件に当社が手を挙げたわけだが、我々もどこまで賃料が伸びるかは未知数だった。

参考にしたのは、神田周辺のサービスオフィス。10㎡ほどでも20万程度はするため、10万円をきったら破格なのではないかと考え、恐る恐る8万5000円をつけた。すると、即完となった。


内装費は20万円程度

一般賃貸では、数万円にしかならない部屋も、設備やサービス次第では、10万円を超す賃料にもなるということが分かった。

ちなみにこの部屋の内装費は、小さい部屋のためエアコンは最小サイズで十分。材工はネット通販で4万6000円ほどで仕入れたため、家具を入れても20万円ほどで抑えられた。

マンションとオフィスの兼用

起業して間もない会社は、自宅を仕事場にしたり、20㎡ほどのマンションやアパートの一室を借りて開業することが多い。

最近では素敵な内装のコワーキングスペースやシェアオフィスもあるが、荷物が置けない、固定席がない、部屋が狭いなどの理由で、マンションオフィスを選択する層が少なからずいる。また、社長が潔癖症だったりすることもあるそうだ。そう考えると、世間の認識ほど、日本人は開放的な意識の民族ではないらしい。

事業がノっているとき

しかし、マンションオフィスに居を構えている企業の事業が成長してくると、銀行からのウケや取引先の印象が悪くなる、ということも考えられる。人材採用にも不利だろう。人を招いた時に、ユニットバスの前を通るようでは会社の格が落ちるというものだ。

すると企業は移転を計画しようとするが、移転ができるということは事業がノっている時。本業が忙しい。事業が成長しているから当たり前だ。そんな時は、家具を買うのも面倒だったりする。費用も嵩む。登記や郵送物の変更手続きもあるし、ただでさえ本業が忙しいのに慣れない移転作業ははかどらない。

そこで、そういう方々は「居抜きオフィス」の専門サイトを見つけた時は飛びつきたくなるのだ。

しかもノッてる企業は、すぐにまた拡張となり、契約期間の2年も消化せずに再び移転となることが多い。そのたびに支払う礼金、仲介手数料、原状回復費は、大きな負担となっており、新オフィスのレイアウト変更によって什器備品を捨てる企業も少なくないと聞く。


家具を買うだけでも一苦労

居ぬきの効用

昨今、居抜き専門サイトが次々にオープンしている。

オーナー、退去テナント、入居テナントの利害が一致する「居抜き」は、一挙両得どころか、トリプル得だ。

ただ、残置物の買い取り交渉や原状回復義務の引継ぎなどの調整によるトラブルがあったり、原状回復したがるオーナーも多かったりするため、物件は常に品薄状態になっている。

かっこいいオフィスってなんだ!?

オフィス業界では、「デザインオフィス」を紹介するサイトが百花繚乱だ。様々なデザイナーがワークスペースに趣向を凝らし、お洒落な雑誌にもオフィスが紹介されていたりする。

ただ、デザインオフィスで働きたいというのは、社長さんの本音ではないのではないか、というのが私の印象だ。

経営とは、資金難との戦いであり、オフィスは「そこそこ」かっこよければよい。人によっては、「清潔」であれば十分という社長さんも多い。もちろん、決算対策で2年ごとに大きな内装費を使うIT企業や士業の経営者もいるが、大半の社長さんは、「そこそこ」で良いのだ。

ベンチャー経営者が様々な経営課題に向かう中で、移転プロジェクトは「しなくてよい努力」であり、「そこそこカッコいい家具付きオフィス」が待ち望まれているのではないだろうか。

私は、こうした経営者の応援団として、来年もたくさんのオフィスを提供していきたいと考えている。

そういえば、CREA神田ビル2階に24㎡の家具付きオフィスを企画中だが、どなたかご興味ある方はいらっしゃるだろうか?


来年も小型家具付きオフィスを多数企画する予定だ

次回は、ビルメンテナンス業界の状況についてお伝えしたい。

(ボロビル再生請負人 山田武男)

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