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2020.01.16

♯新しい暮らし方

<後編>不動産ではなくコミュニティに投資する時代がくる~門司港サルベージ計画~

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【筆者プロフィール】
ヤマグチリマ
住宅業界の取材・ライティングの経験を生かし、執筆活動を行う。主にコミュニティ、地域創生などの取材・執筆を行う。

「不動産」というと、利回り、投資回収、税金対策…といったお金に関係する単語を思い浮かべることが多い。

しかし、現在では「不動産」の捉え方に変化が起き始めている。

金銭的なリターンのみではなく、不動産を通して「他のもの」に価値を見出す動きがある。

今回は、2019年12月開催の「コミュニティに投資する時代」と銘打たれたイベントの一部、今回は前編に続き、後編を紹介する。

1.門司港への投資(株式会社オリエンタル・サン取締役 山田武男さん)(前編
─門司港とは
─門司港の地価

2.「街を引き上げる」投資(合同会社ポルト代表 菊池勇太さん)(前編
─事業紹介
「Porto=港」のように多様な人と文化が交ざり、新たな文化を発信していきたい
─なぜやり始めたか
「顔が見える温かな経済」を作りたい
─街の引き上げ方
魅力的なコンテンツを作り、街を活性化させる
─不動産投資とは何か
投資は「人」への投資

3.「不動産でデザインする」とは(ロケットサービス株式会社 CEO/エグゼクティブプロデューサー 藤田毅さん)(後編)
北九州への移住
北九州の投資で見た「不動産とは何か」というテーマ
不動産でデザインする

「不動産でデザインする」

【スピーカー】
藤田毅さん ロケットサービス株式会社
福岡県北九州市出身。武蔵野美術大学建築学科を卒業後、工務店、広告系の会社を経て独立。東京で14棟140室のシェアハウスの企画運営を行うかたわら、各地域での不動産開発に携わる。3年前に北九州に移住。

─北九州への移住


北九州市に物件を購入した経緯を話す藤田さん

武蔵野美術大学に進学し、大学から東京を拠点に活動してきた藤田さんが、現在なぜ北九州に拠点を移したか、まずは経緯を語った。

「大学卒業後、就職を経て独立してからの10年で会社を3つ立ち上げました。5年で売上総額が約1億円になり、3年前には3億円になり、ある程度の事業規模になりました。移住のきっかけになった出来事は、その頃、東京・赤坂の物件を4000万円で購入したことでした」

当時、Airbnb(エアビーアンドビー)の物件が市場に少なく、民泊で回すことを考え投資した。しかし、ちょうどその後のタイミングで「住宅宿泊事業法(民泊新法)」による規制が開始されたのだという。シェアハウスを運営している立場上、コンプライアンスにリスクがあることは避けようと、売却を決意。すると、購入金額の2倍の8000万円で買い手がついた。

「嬉しかった反面、この出来事がきっかけで、このまま東京で仕事をしていて良いのかと考えるようになりました。僕たちのスキルがどこまで上がったかはわからないまま、物件は2倍の価格をつけました。もしかすると今後、それが自分たちの生活費や家賃に跳ね返ってくるのではないかという、危機感と恐怖感が大きく先行するようになりました」

このままでは社長業をやっているだけでは危機的な状況になるのではという感覚が走った藤田さん。今まで東京のみで仕事をしてきたが、別のフィールドについて考えた時に、海外も可能性はあるが、まずは地方で何かできることはないかと考え、2人目の子供が生まれたタイミングで、仕事だけではなくライフタイム全体を考慮し、北九州に移住したのだという。

北九州に戻り、手がけた事業は多々ある。ものや場所を作ったり、まちづくりの活動をするなどし、その結果、収益として形になったものが不動産投資だった。

「今までの不動産に関係する知識を、東京ではない場所でも使えた、というのが再確認できたというのが収穫でした」

─北九州の投資で見た「不動産とは何か」というテーマ

藤田さんは冒頭の門司港の物件に関わる前に、北九州でビルを1棟購入した。延べ床面積300平米で、価格は450万円。その日のうちに買い付けたという。物件には「フジタのビル」と名付けた。


「フジタのビル」

「建物の中はボロボロでしたが、全体的にとてもかっこいい建物でした。東京だったら7000~8000万円する物件です。インフラが揃っていて、場所は商店街が近く、海にもすぐに行ける。すごく良い買い物をしたと思いましたが、使い道がなかなか決まりません。地方にはおいしいエリアや物件がたくさんありましたが、それを使って事業を展開しようとする法人また個人のプレーヤーがとても少なく、そのため、ここで事業をするのが難しいと感じました」

そして、1年が経って借り手がついた。地元の有名なアイスクリーム屋だという。3階建ての1階部分を20万円で貸した。収入は1年で240万円、購入金額の半分を回収する。初期投資は2つの理由からしていない。1つは、物件そのままの姿に魅力があり、リフォームする必要がないため。もう一つは、地方の商店街で開業すると助成金が給付され、事業者がその分を設備投資に回すことができるため。今回は約75万円分の補助が出たという。

   

「北九州での投資1件目だったので、よかったという安心感と、面白いという気持ちが生まれました。それならば自分で投資を拡大すればという話になるかもしれませんが、東京で経験したような成功パターンをこちらで何件も手がけたいということではありませんでした」

この経験を経て、「不動産とは何なのか」というテーマを自分の中でしっかり消化したいという気持ちが生まれたのだという。

「ここでわかったことは、不動産の知識を持っていれば、どこでも同じことができるということです。東京で仕事をするのがマストではなく、自分の労力を活かせるのは東京だけではない。他にもかっこいい物件、街は各所にあります。僕はもっと色々な場所でやりたいと思いますし、そういった状況を不動産関係の方、また投資を考えているみなさんに見てもらい、伝えられたら面白いことになるのではないかと考えました」

実際に、めぼしい物件があっても、自ら購入するのではなく、借り上げ覚悟で知人に勧めることもあるのだという。儲けるためだったら自分でやればいい。それだったら東京の物件の方がふさわしいことがあるかもしれない。しかし、藤田さんの考え方は違う。

「不動産は、本当はそこでの生活を作ったり、人を喜ばせたり、未来を作ることができます。それをやりたかったら、うまく働くように動くべきだと思って行動しています」

─不動産でデザインする

藤田さんの手掛ける物件は各所にある。北九州では他にも事業を手掛けている。

その1つはケバブ店だ。小倉の大きな観光名所に店を構え、トルコ人に実際の作り方を教わり、藤田さん自身が店頭に立ってケバブを焼いている。今では地域の憩いの場になっているという。

「飲食店の経営では、店のブランディングを考えるためとても面白いです。『デザインとは何か』を長年考えてきましたが、今回、大事なことに気付かされるきっかけになりました。以前、DIYショップを立ち上げたり、メーカーと商品開発をするなど、『消費する』デザインを作っていましたが、飲食店を始めて、『人に伝えたい』ためにデザインをすること、そして自分はそれを大切にしたい、ということが分かりました」

 
地域の住民で賑わうケバブ店

現在、東京でも物件を企画している最中だ。その名も「LOG inn Tokyo」。コミュニティ型のコワーキングスペースと、愛媛県・内子町のアンテナショップを出店する予定だという。物件のコンテンツを作るべく音頭を取るのは、内子町出身の学生起業家だ。


藤田さんと学生起業家

「彼のやろうとしていることと、僕が今やりたいことが近しかったため、現在一緒に手掛けています。これができるのは、不動産の知識を持っているからです。投資金額は本当に些細です。たとえば数百万円で、色々な場所で様々なコンテンツやコミュニティを起こすことができます。何かをやりたいと思っている人と一緒にできるかどうか、それを含めて自分が見極められるか、それを今後のライフスタイルとして、土地に縛られることなく各所でやっていきたいと思っています」

日本には様々な場所があり、その分だけ可能性があるため、それぞれに目を向けて、「面白い」「こういうところで仕事がしてみたい」「古墳がありそうだから買ってみよう」などと、場所を限定することなく目を向けていってほしい、と締めた。

イベントを終えて

投資のリターンに何を求めるか、その投資にどのような社会的責任を負わせるか、投資家のあり方を問われたイベントだった。

今回は、土地の価値が高く、街に対する明確なビジョンがありそれを実行するための行動力と知識と熱量を持ったプレーヤーがそろった、ある種条件が既に整った土地に見える。投資家としてその状態を見極めるのも、自ら作り上げるのも面白いかもしれない。

(ライター ヤマグチリマ)

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