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2020.01.23

♯連載

【第1回】Jリートは日本の不動産を救うか?!市場規模17兆円の現況を徹底

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【ファシリテーター】
西村明彦さん
1990年大学卒業後、山一證券を経て不動産会社、ファンド会社などで様々な職種を経験。2009年に商業用不動産コンサルティング専業の(株)不動産戦略研究所を創業し現在に至る。プロ間のブローカレッジと相続対策の助言を得意としている。

【登場人物】
田中さん(男性、50歳):不動産アセットマネージャー
西村さん(男性、52歳):ベテランの大手証券マン
清水さん(男性、63歳):マンション大家で不動産ファンドアレルギー
かな子さん(女性、29歳):株式投資歴5年、Jリート初心者のOL
まなぶ君(男性、20歳):投資クラブ所属の大学生
あゆみさん(女性、20歳):投資クラブ所属の大学生

 

吉松(司会)
本日はお集まりいただき、ありがとうございます。この勉強会は、Jリートの魅力や現物不動産との違い、今後の発展の可能性などを議論してもらうためのものです。ご自身の意見を自由におっしゃってください。勉強会リーダーはベテラン証券マンでJリートにも明るい西村さんにお願いします。それでは早速お願いいたします。

清水
まず、Jリートについて簡単に教えてもらえませんか。

西村
いきなりよい質問ですね。Jリートは、上場している不動産です(※1)。要するに証券取引所を通じて誰しも購入や売却が出来る金融商品の一つです。
(※1)

田中
かなりざっくりですね(笑)。ただ西村さんの言い方で良いと思います。付け加えるとすれば、証券化された優良不動産を沢山保有している投資法人とも表現します。投資家は、個別不動産ではなく、投資法人の投資口を売り買いします。

かな子
では不動産会社ではなく証券会社を通じて取引(売買)するのですか?

西村
その通りです。

かな子
取引手数料は?

西村
不動産売買の3%以内ではなく(※2)、投資額に各証券会社が規定している手数料率を掛けた金額を払うことになります。株の売買と同じとお考えください。
(※2)
【仲介手数料の上限額】

公益社団法人全日本不動産協会HPより抜粋

あゆみ
Jリートの売買が証券会社が窓口になると、不動産会社は困りませんか?

西村
かなりよい質問です。ご指摘通り、我々証券業界としてはとてもありがたいです。しかし現在のところ、東証一部上場企業の時価総額が約600兆円であるのに対して、Jリートは17兆円に過ぎず、証券界の実利インパクトはまだまだ小さいと言えます。

田中
Jリートの投資法人には役員がいますが、実態は不動産資産を保有するだけのビークル(器)に過ぎません。実際には運用会社という株式会社が全て差配しています。運用会社の多くはスポンサー企業が株主です。

まなぶ
主たるスポンサー会社やグループはどこでしょうか?

田中
三井不動産、三菱地所、東急不動産、積水ハウスなどの大手不動産、住宅会社等になります。中には、宿泊型施設に特化した星のリゾートがスポンサーのJリートや、イオングループがスポンサーでイオンモールなどのショッピングセンターを専門とする施設のJリートなどもあります。

かな子
なんとなくわかってきました。要するに、不動産会社が業界の利益誘導を目的にJリートを作って、証券会社とグルになっているのでしょうか?

西村
(苦笑)結果としては否定出来ないくらい盛り上がっていますが、歴史からいうとそうでもありません。勉強会を有意義にする為に大事なところなので少し説明します。
私が高校生当時の1985年前後は情報化時代と叫ばれ、マスコミ業界の出版、報道、広告代理店などが儲かる時代でした。リクルートはその中の風雲児だったわけです。情報化時代、日本はバブル景気になり次は証券化時代になるといわれました。株式の様に物や投資対象が証券化されることで投資金額が庶民の手の届くレベルまで下がり、投資家の数が増える事で日本経済が発展拡大して経済大国への道をひた走る、みたいな世相でした。つまり証券業界は花形産業でした。
今となっては、野村証券が世界最大の金融機関であったことは人々の記憶から忘れ去られてしまいましたが…。そういった状況もあり、私も老舗の証券会社に入りました。すると私を見る女性の眼が変わりました。これは本当です(笑)。


野村証券の日本橋本社(HPより抜粋)

悲劇が始まったのは1990年(平成2年)からの株式バブル崩壊。不動産価格の下落が鮮明になったのは1992年と言われていますが、1990年から潜在的に下がり始めていたとみています。今でも株が下がればJリートも下がります。その後、空前の不動産不良債権が膨らみ都銀なども経営難に陥ります。
1997年くらいから2001年くらいまでの間に、不動産不良債権投資に長けた米国の投資会社(ハゲタカファンド)が日本の銀行が持つ不良債権をバーゲンセールで何兆円も買い漁りました。簿価100だったビルや土地を5〜20で引き取っていくイメージです。ハゲタカは短期転売で5〜20簿価のビルや土地を日系不動産会社や日系ファンドに10〜50で売却していきました。
その当時、日本には今の様な商業用不動産が流通するインフラは無かったし、巨額の商業用不動産を継続的に買受出来る国産機関投資家やファンドは少数でした。そこで国策として、米国リートを参考にしたJリートマーケットを作り(※3)、不良債権の処理を急いだのです。2001年に三井不動産と三菱地所を母体とするJリートが発足して、ようやく16年が経過しようとしています。
(※3)
<「財界」1/15号表紙>

Jリート創設の陣頭指揮を執った、2020年1月に「財界賞」を受賞した三井不動産の岩佐弘道会長

清水
なるほど、日本の不良債権処理にはJリートは必然だったんやね。

田中
米国の上場リート誕生は日本の上場リートに先立つ事40年も前です。米国も不良債権で苦しんだ過去があり日本も米国のロールモデルを頼った格好です。

かな子
Jリートはつまり法的投資法人であり、実際の運用はスポンサー傘下の運用会社ということでしたが、投資家に対するガバナンスやコンプライアンスは大丈夫なのでしょうか?運用会社はスポンサーからの天下りですよね?

西村
かな子さんは非常に意識が高い投資家さんですね。かな子さんの様な投資家が増えていけば日本の投資マーケットは今度こそ本当に成長していくでしょう。
私の横に座っている田中さんは某商社スポンサーの大手住宅系リート運用会社の運用部長です。齢50歳、東京大学工学部で都市工学を学び、JR東海の不動産開発部門を経て2002年に現会社に移籍。まさしく住宅系Jリートの生き字引のような存在です。見た目の通り実直、誠実なお人柄です。かな子さん、Jリート運用会社職員は田中さんのような方が多いとお考えください。

かな子
それは意外ですが非常に安心しました。不動産と聞くと何故か胡散臭い感じがしてしまい、女性特有の猜疑心が働いてしまいます。

田中
お褒めに預かり光栄です。ちなみに私は、たまたま某商社の天下りではありませんが、スポンサーからの天下りが当たり前の業界ではありますね(苦笑)

清水
ではスポンサーが保有する不動産を高くJリートに押し付けるというのは本当なのですか?

田中
Jリート組入資産の8割をスポンサーに頼っています。スポンサーだから当たり前と言えば当たり前です。当然、物件取得に当たっては厳然たるデューディリジェンス(物的、法的調査)を行います。証券化の前提では、第三者による鑑定評価、建物調査、土壌汚染調査、信託銀行による不動産調査なども必ず行わねばなりません。
また、スポンサーと運用会社間にはファイアウォール(※4)のルールがあり、社内外においてモラルハザードを起こさないように守秘義務が徹底されています。そんなことなのでJリートにおいてはスポンサーと運用会社間のガバナンス欠如は起きにくいとお考えください。
(※4)外部ネットワークからの不正アクセスやサイバー攻撃を防ぐこと

西村
わかりやすく本音で話すと、今の大手クラスの不動産会社は証券会社より信用度は高いですよ。証券会社ではコンプライアンス違反が頻発しますが、Jリート運用会社を舞台にした不正はあまり聞いたことがありません。金融分野では、先輩に当たる銀行や証券の不正事例を学べる立場の不動産業界はラッキーでした。

清水
証券会社の人が言うから、やたら説得力がありますね。ところでJリートで働く方々の給料は、普通の不動産会社より給料も高いんでしょうね?

第二回に続く。

(Hello News編集部)

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