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2020.02.27

♯ボロビル再生

【第5回】東京・池袋のボロビル再生請負人

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【筆者プロフィール】

山田武男
1980年横浜生まれ。茨城のニュータウン育ち。東京農業大学造園科学科卒。2004年に不動産業界に就職して以来、数社の不動産事業に従事。店舗、オフィス、ホテル等の事業用不動産を中心に、数十件の築古ビルを再生、運営に関わっている。築古ビルの空室に若手アーティストの展示場所として活用するイベントを18回開催するなど、ビル再生、地域への関与を模索し続けている。2019年4月、不動産会社(株)オリエンタル・サン設立に参画し、現在取締役。

第5回「あなたの知らないビルメンの世界」

ビル管理は大きく分けると二つの種類がある。「賃貸管理(ビルメンテナンス〈BM〉)」と「建物管理」だ。

オーナーによっては自主管理している人が多く、賃貸管理を依頼せずに建物管理のみ発注するケースが散見される。そこで今回は、ビル経営では切っても切れない「賃貸管理(以下、ビルメン)」の世界をご紹介したい。

1.ビルメンテナンスとはなにか

以下、ビルメン業界の代表的な職種をご紹介したい。

1-①:総合管理
様々な建物管理の職種の司令塔が総合管理だ。大手の冠を掲げた◯◯ビルマネジメント、◯ビルシステムなどがそうだ。中小の管理会社も数多くあり、選択肢は多い。各職種に分離発注してコストダウンする方法もあるが、やはり1社に発注して、各職種を監督させ、定期メンテナンスをスケジューリングするほうが安心だ。

1-②:電気管理技術者
一定規模以上のビルは、屋上にキュービクルを置き、電力会社から高圧受電をし、電圧を調整して各テナントに配電している。非常に危険な設備であり、テナントの活動に関わる重要な設備のため、毎月1回の月次点検、年1回の年次点検が有資格者により行われる。

CMで有名な関東電気保安協会(KDH)に発注するビルが多いが、実は民間の検査会社も複数ある。KDHと相見積もりすればコストダウンの可能性がある。他にも、電気使用量の監視装置を使った節電提案をする会社などがあり、より高度なコンサルティングを受けることも可能だ。


キュービクル式高圧受電設備
※発電所から変電所を通して送られてくる電気を、100 Vや200 Vに降圧する受電設備を収めた金属製の箱のこと

1-③:消防設備点検
一定の基準以上のビルには、自動火災報知設備がある。年に2回の煙感知器、差動式感知器の点検風景は、皆さんも見たことがあるのではないだろうか。筆者の経験では、よほどの悪徳業者でない限り、相見積もりをとってもコストはほとんど同じだ。たまに修繕工事が必要になることもあるので、信頼できる業者に依頼することをおすすめする。


年に2回の点検が必須の火災報知器

1-④:エレベーター管理
エレベーターの管理には、メーカーと独立系がある。月次点検と年次点検があり、違反すると建築基準法違反になるので注意が必要だ。新築当初は、メーカー管理を依頼するビルが多いものの、しばらくすると独立系の点検業者に変更するオーナーもいる。一概にどちらが安いとは言えないが、途中でメーカーから独立系に変更する時は、点検の是正(故障)項目の修繕を終えていなければならない。

1-⑤:日常清掃、定期清掃
清掃はどのような頻度、密度でやるかは、各ビルの自由だ。中には、オーナー自身が清掃を行うビルもある。毎日、毎週の清掃に加え、月1回の機械洗浄、ワックスがけをするのが定期清掃だ。機械を買って自分で行う強者オーナーもいたりする。また、清掃を依頼する場合、毎回丁寧に掃除してくれる人に出会ったら、その人を大事にしたほうが良い。優秀な清掃員はどの管理会社も取り合いだ。今や、清掃員が勤務地や清掃場所を選んでいる、という話も聞く。たまにドリンクやお菓子の差し入れをするくらいなら安い投資ではないだろうか。

1-⑥:原状回復、修繕工事
住宅もオフィスにとって、切っても切れない管理の課題は、原状回復工事だ。大手ほど高いのはご存じだろうが、重要なのは多能工を見つけること。筆者の肌感覚でも、腕の良い職人はどんどん減っている上、もはや、施工日すら施主が選べない状況になっている。新入居の日程は余裕をもって設定するほうが安全かもしれない。気に入った職人がいたら、ラブコールを送り続けて大事にすることをお薦めする。間違っても高飛車な物言いは厳禁だ。
※原状回復関連の記事はこちら⇒「“気軽に入退去”が進む一方で、変わらぬ原復の現場」


原状回復工事でエアコンを清掃している様子

2.テコでも動かない牙城

管理業界に入って、まず最初にびっくりしたのが、テコでも動かない牙城を築いている大手冠のBM会社だ。そのブランドは半端ではない。

会社によっては、中小ビルでも「○○システム」といった、大手冠のBM会社の集中監視システムを導入することはある。電気水道メーターの自動検針ができ、管理室の端末が光熱費を計算し、各テナントの請求書作成ができ、その場でプリントができる。

一見すごいシステムに見えるが、メーターから信号を拾って1階で集中検針する仕組みは「隔測メーター」といって以前からある方法だ。また、端末は通常のデスクトップPCで、プリンターは通常のインクジェットプリンターを使う。

しかし、驚いたのはその価格。たしか200万円弱はしたはず…。おまけに年間のメンテナンスコストには40万円もかかる。

通常、人員を使って毎月検針するのは月に数千円~1万円ほど。請求書の発行業務にいたってはエクセルで十分なはずだが(督促業務を除く)、なぜ多くのオーナーが大手冠のBM会社に依頼するのだろうか。

なお、このシステムが故障し、エンジニアが修理に来たとしても、そのエンジニアは説明書をその場で読み、「私も初めて触るものでして…」というようなことも多々あるといったことを付け加えておく。

3.システム変更を恐れるオーナーたち

当然、我々のような中小の管理会社は、コストダウンをメリットに挙げて営業をかけるわけだが、上記ビルのオーナーに言われたのは、「先代が何か考えがあって導入したシステムだし、何かビルに影響が出ては困る」とのこと。

まるで、映画の古代遺跡に出てくる盗掘者を寄せ付けないための呪いのようだ(その石に触ると良からぬことが起きる…)。

また、毎日のように大手のBM会社に対し、「なにもやってくれない!」と文句を言ってるオーナーもいたが、いざBM会社の変更を進言すると「でもやっぱり今までやってくれていたし」となるのだ。

つまり、オーナーは長く続いたシステムの変化が怖いのだ。筆者はこれを「大手BMの呪い」と呼んでいる。。

4.誰を頼るべきか?来るべき大規模修繕に向けて

そうは言っても10年に1回は必ず来る大規模修繕。保有棟数が少ない個人オーナーにとっては、なかなか頼る相手が見つからないのではないだろうか。

屋上、外壁修繕、配管更新ともなると、知らずに発注して、想定より1000万円も高い…という見積もりもざらだ。

やはりそういう時に頼りになるのは建物管理会社である。選ぶ際は、がめつく自社の見積もりを押し付けるのではなく、他社受注の時でも、真摯に対応してくれる管理会社が良いだろう(見積もりの精査や工事の指導などには報酬をつけたいところ)。

もちろん普段のお付き合いを丁寧にしておくのは言うまでもない。いつも辛くあたっていたら、いざ大事の時に、ドライな対応をされないとも限らない。


10年に1回は必ずくる大規模修繕

世間一般的には地味な職種だと認識されているかもしれないが、BMの世界は奥が深い。建物の寿命の鍵を握っていると言っても過言ではないからだ。

もしどう接して良いか分からないというオーナーがいたら、普段お会いされているBM担当とお茶でもしたらいかがだろうか。

次回はお金をかけずにビルをPRする方法について掘りさげげたい。

(ボロビル再生請負人 山田武男)

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