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2020.04.23

♯インタビュー

コロナと戦う介護従事者たち

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2020年4月23日(木)付けの朝日新聞朝刊一面にこんな見出しがあった。

「フランス介護崩壊 死者4割が集中 残された遺体 職員は勤務拒否」

記事には想像を絶する介護現場の様子が記されていた。

パリ郊外では、80人の介護施設入居者のうち30人が死亡。業者が引き受けるまで3日以上置き去りにされた遺体もあったという。フランスでは、感染による死者1万7920人(16日時点)のうち、6860人が高齢者などを受け入れる施設の入居者だったとある。

また、ドイツ北部にある人口1300人の町リュンペルの介護施設については、陽性のまま認知症患者の対応にあたる職員、さらにイタリア北部ロンバルディア州ミラノでは3月26日まで防護服もなかったと話す職員の実情を報じている。記事には「全く孤独だった」という言葉が紹介されており、胸を打つ。

日本の介護現場は、現段階では崩壊とまでは行っていないだろうが、現場にいる人々は想定外の事態に悩み、苦しんでいる。今回は、その声を紹介する。

埼玉の介護施設(デイケア)に聞いた(2020年4月22日)

現状を教えてください。

「緊急事態宣言」発令後から、施設を閉鎖しています。閉鎖前の段階では、利用者さんにお迎えのバスに乗車する際に検温をしてもらったり、マスクを着けてもらったりしていました。また、私たちも常にアルコール消毒を行い、一般の方の出入りを禁止するなどし、細心の注意を払っていました。

閉鎖後、利用者さんやそのご家族からどんな問い合わせがきますか。

一番多いのは、「運動が足りてないので、どういうふうに健康を維持していけばいいのか」という問い合わせです。また、「親が1人でお風呂に入れない場合、どうすればいいのか」という質問もよく届きます。

問い合わせにはどのように対応しているのですか。

「来てほしい」という問い合わせについては、訪問介護をすることによって感染リスクも高まるため、基本的には控えている状態です。ですが、お風呂に関しては、ショートステイが可能なところを紹介したり、例外的に訪問介護でお伺いすることもあります。運動に関しては、事前にお渡ししていた「運動のやり方」というパンフレットを見ていただき、「各自でできる範囲で行ってみてください」とお伝えしています。

今後の見通しはどうですか。

「緊急事態宣言」が解除されたら、運営を再開する予定ですが、通われる方の人数を制限するなど、今後は日頃から三密を避けることも考えないといけないかもしれません。例えば、週4回通われている方に回数を減らしてもらったり、滞在時間を短くしてもらったりすることですかね。私たちにできることを臨機応変にやっていくしかないというのが正直な思いです。

母親(92歳)が鹿児島県にいる、千葉県在住の女性に聞いた(2020年4月22日)

現状を教えてください。

これまでは、近くに住んでいる親戚が母の面倒を見てくれていました。また、私も2~3カ月に1回は、母に会いに鹿児島に帰ったりしていました。しかしコロナの影響で、親戚から急に「しばらくは距離を置かせてください」と連絡がありまして…。掃除をお願いしていた業者さんも来てくれなくなり、今は私が鹿児島に帰り、母の世話をしています。

困っていることはありませんか。

帰省先の鹿児島では色々な人から「ばい菌」扱いされて困っています。介護支援センターの方は、関東からやってきて、ここでコロナを蔓延させないかを心配しているんだと思います。母に付き添って病院に行った時も、「院内には入らないで車の中で待っていてください」と言われたこともあります。一番、嫌な気持ちになったのは、母を待つ間、私は椅子に座っていたのですが、帰ろうと席を立った瞬間、私が座っていた椅子を職員の方がアルコールで拭きまくっていたこと。これはショックでした。体温は36度で熱もないのに。

今後はどうされますか。

介護支援センターの方などは、私に来て欲しくないのかもしれません。しかし、母は私に「帰って来て欲しい」と言うので、心を冷静に保って母のところに通うつもりです。私の失敗は、母に介護認定を受けさせていなかったことです。92才なのですが、とても元気なものですから、認定は通らないと思っていたので申請していなかったのです。要支援でもついていれば、この状況下でも制度を使って安全に介護してもらえていたのでしょうね。


写真はイメージです

別居してる認知症の母(88才)の介護をヘルパーさんに依頼している女性に聞いた(2020年4月22日)

「緊急事態宣言」発令後、生活に変化はありましたか。

私がお世話になっている介護事業社さんは、通常通りの運営をしてくださっているので、基本的には大きな変化はありません。ただ、私は仕事の関係で人と会うことも多いので、万一、母に感染させないために、なるべく母のところには行かないようにしています。いつも以上にヘルパーさんには頭が下がる思いです。

利用されている介護事業社さんが運営されていてよかったですね。

聞いた話によると、介護事業社さんは今、とにかく人手不足で、利用者さんがいるけれど休業したところもあり、その利用者のご家族はとても大変なようです。なかには自分たちで利用料を支払うから訪問介護をお願いしますと言った方もいたそうです。逆に、訪問介護されてる方から聞いたのは、家政婦のように扱われることもあり、仕事内容に悩んでいるみたいですね。モチベーションを維持していくことは難しいですよね、本当に。

現状について思うことはありますか。

コロナより怖いのは、この現状に家族が疲弊して、高齢者の生活パターンが崩れることですね。例えば、家族がこれ以上面倒見れないから、ショートステイを急に利用しだすと、高齢者の生活のリズムが乱れて認知症の症状が悪化したりすると言います。私も経験しましたが、悪化すると、戻りがどんどん遅くなるんですよね。でも、もちろん誰が悪いとかじゃないのが現状ですから、誰も責められません。

70代の両親(父、母)と同居しながら面倒を見ている40代女性(2020年4月22日)

現状について教えてください。

毎日報道されるニュースを見て、父のメンタルは若干弱っていますが、両親共に体調を壊すことなく維持しています。もともと活動のルーティーンがある2人ではないので、「緊急事態宣言」発令後も、母が週1回通っていたデイケアが閉じている以外は、生活自体にそんなに大きな変化はありません。逆にそれがよかったのかなと思うこともあります。引きこもりにならないように、感染リスクはあったとしても母と一緒にスーパーに行ったり、15分でもいいから喫茶店でコーヒーを飲んだり。父とは、ほぼ毎日散歩に付き合って、外に出すようにしています。コロナよりも体力が落ちて動けなくなることが怖いので、ジレンマですね。

こういう状況になって何か感じたことはありますか。

ケアマネさんも、非常事態で色々大変ですし、どうしていいのかわからないと言っているので仕方ないとは思いますが、もう少し想像力があると助かるなと感じることはあります。例えば、「どうですか?変わりないですか?」と電話で声をかけてくれるだけで、母の気持ちが和むこともありますし、デイケアで運動を担当していた方から「運動しましょうね」と電話で声を掛けてくれると、母も思い出して頑張ろうとするかもしれませんので。

大事なことは、何だと思いますか。

介護する側のメンタルケアですかね。もちろん高齢者を守っていくことは大事なことですが、介護する家族が疲弊しないように、どうバランスを保っていくかだと思います。家族がイライラすると、それが高齢者に伝わって、みんなの精神が悪くなりますから。私も普段は、外出することで、親との距離感を保つことでバランスを取っていますが、「逃げ場」がない今は、精神が崩壊しないようにすることを考えています。その新しい試みとして、Web会議システムなどを使って、介護に携わっている人とお互いを励ましあったりすることが、とても助けになっていますね。ハイテク技術に感謝です(笑)こうやって家族ではない人と、いかに助け合っていく癖をつけるか、それを考えるきっかけと捉えています。

(Hello News編集部 ささき三枝)

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