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2020.05.14

♯インタビュー

<後編>旅人大家さんが見た「世界の働き方最前線」

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ロックダウン下のマニラの様子(写真提供:村瀬さん)

1年の半分を海外で過ごす、旅人大家さんこと村瀬裕治さんが見た世界の働き方最前線を聞くインタビューの後半です(インタビュー日:2020年3月22日)。

村瀬さんは、20代の頃、当時不動産業界で売上首位だった大京で、一級建築士として企画設計開発を担当しました。1990年から3年間は、Daikyo Development Pty.Ltdに出向し、オーストラリア・ゴールドゴーストのリゾート開発に携わりました。現在は、国内外に250室の賃貸住宅を持つ投資家として、日本と海外を行き来する日々を送っています。毎年200泊以上をホテルやカプセルホテルなどで過ごし、さらに移動では、陸海空を、LCC、クルーズ船、Uber、テゥクテゥクを駆使し、世界の都市を訪れています。自らの足で世界中の不動産、銀行、ホテル、そして大好きなスターバックスを巡る村瀬さん。その目に映る世界の働き方事情とはどういったものか、聞きました。


ベトナム・ホーチミンの市街地

 ──在宅ワークが進む日本では、「生産性」「成果主義」がしきりに叫ばれています。

生産性を上げるには、個人が責任と権利を持ち合わせることが大事です。現場を知らない「本社」に送る稟議書なんて、やめちゃいましょう。誰が申請者で誰が押印したかで事業決定するなんてナンセンス。そのうち人の引き出しから内緒で印鑑を出して押す人も出てきてしまいます(笑)。
稟議書は、海外では、“ACTION APPROVAL”といい、「業務承認・実行命令」です。そしてそれには、“ in charge(責任担当者) + Dead Line(締め切り)”が明記されています。
日本でヒットした『踊る大捜査線』『半沢直樹』『七つの会議』では生産性の低い会議のシーンや本社様・自己保身・隠蔽・忖度といった場面がたくさん出てきました。日本人からは共感を呼びましたが、外国人は唖然としていましたよ。生産性、成果向上を議論する前に、システムのリストラ(再構築)が必要です。

 ──面倒で遅い稟議書問題もさることながら、会議をして検討するだけして何もしないということも多いです。そんな日本人を海外では、「NATO」(No Action Talk Only)と呼ぶそうですね。

NATOは、アジアでは最大のイスラム国家、インドネシアでよく聞く言葉です。日本人の場合は、リスク探しが得意過ぎてチャンスが見えない。海外は、難題が多く、前例がないことほどチャンスと考えます。挑戦して、失敗しても、失敗を重ねた上に成功がある。成功も失敗もすべてが経験という感覚です。
きっと教育環境の違いが大きいのでしょう。際立つ・目立つ・人と違う行動をすると注意されてきましたから。だから、人の目を気にして、歩調を合わせる、横並び、現状維持、失敗も少ないが成長もない、無難に落ち着きたいNATOになってしまったのだと思います。


宿泊するのはカプセルホテルが多い

 ──「出る杭は打たれる」ですね。しかしそれでは、前例があること以外できなくなってしまいます。

銀行融資の場面でもよくあります。いわゆる名の通った大手プレハブメーカーの賃貸住宅のサブリースは利回りが低い、そして実際には30年も家賃を保証しないことを銀行員は知っています。しかし積極的に融資します。一方で無名な工務店が出した、高利回りで返済確実な事業計画に対しては、融資審査が厳しい。それは前例がないから。万が一返済が止まったら、本社、株主、世間から責任を問われるからでしょう。
極端な例えかもしれませんが、4度会社を潰した異人(Donald Trump)でも大統領になれるアメリカとは随分違いますね。打たれる杭、頼もしいです。

 ──海外では日本企業はどんな風な見られ方をしているのでしょう。

以前、上海で不動産仲介をしている日本人駐在員の方が、不動産開発案件の落札で、日本企業は入札にも参加できないと嘆いていました。日本本社に稟議書をあげたが、本社役員の中には現場調査どころか上海に行ったことがない人もいて、「入札金額は、日本円でもいいのかな?」なんて聞くありさま。日本の社長・会長さんに稟議書が届く頃にはゲームオーバー。とっくに落札され、案件は賞味期限切れのお寿司と同じに。
結果、現地では「日本の上場企業はムズカシイ。現地に精通している中小のオーナー会社に期待しよう」となっています。日本企業は、「遅い+面倒+高い」というイメージを一部では持たれてしまっています。

 ──海外では、日本独自の言い回しや周りくどい表現に苦労するビジネスパーソンも多いとか。

日本語を一生懸命勉強した外国人であっても「死んでもわからない」と言われている日本語がいくつかあります。
「検討します」。→「なにもしないのね?」
「持ち帰ります」→「え?あなたはメッセンジャーだったの?」
「不快な思いをさせて申し訳ございません」→「私の気分ではなく事実確認をしているのです」。
初対面なのに、「お世話になっています」から始まるのも摩訶不思議。
日本は島国で言語は日本語だけ。世界197カ国、総人口78億人のなかでたった1.5%しか話さない言語です。「あうん」の呼吸で日本人だけが理解でき、ガラパゴス諸島と言われる所以ですね。「死んでもわからない」は悲しすぎるので「死ななくても済む」コミュニケーションができるには、はまだまだ時間が必要です。


ドイツ・デュースブルクにある1棟5戸の物件(中央)

 ──最近、テレワークをしている企業の間で印鑑問題が話題になっています。

実印、銀行印、契約印、認印、印鑑にも何種類もあります。おまけに「捨印」なんてのもありますから、海外企業からすれば混乱の極みです。
政府は緊急事態宣言発令中、不要不急の外出自粛をお願いしました。一方、(お上)お役所書類に押印するためだけに出社しなければならなかった民間人いたことは全くもって残念なこと。印鑑システム、なんとかしなければなりませんね。

 ──日本独自の商慣習や仕事のやり方が、自分達の首を絞めていることになっているのを感じます。村瀬さんは、海外で契約を結んだり商談をすることも多いと思いますが、その度に不便さを感じることも多いのでしょうね。

ビジネスに関して最重要なのは、2つの数字。「時間×金額」。これを押さえておけば海外投資の取引もなんとかなります。数字だけは世界共通で間違いはありません。
昨晩宿泊したSホテルの掲示が面白かったです。日本語と英語で書いてあったのですが、日本語の場合は、「いつも大変お世話になっております」といったことから始まり、最後の「ご協力のほど何卒宜しく…」まで8行書いてありました。
続いて書いてあった英語版は2行だけ。「2階に誰でも使えるビジネスセンターがあります」と。日本人の場合、文章でも、電話でも、メールでもやりとりの時間が数倍かかっています。
これを半分にすれば週休3〜4日だって可能ではなるんじゃないかと思います。実際、私は年間200日以上は県外、海外で仕事をしていますが、よく遊び、よく学んでいます。

 ──「週休3〜4日」とは驚きです。とはいえ、世界を知る投資家・村瀬さんの言葉だけに説得力があります。

日本企業、日本人の特徴として、終身雇用による安定が、のんびり体質を作り、本社上司のための余分な資料づくりや根回しの文化を育ててしまったのかもしれませんね。おまけに残業・休日手当があるのでゆっくりと仕事をする。欧米人ほど家族愛が強くないのも社内にいる時間が長くなる理由かな。
ドイツでは、有給休暇が30日、国民の祝日が9日、州の祝日が5日、土日が104日で合計148日がお休み。365日の41%に相当します。それでも一人の時間あたりの労働生産性は、66.6ドル(2015年)で、日本の45.5ドルを約46%も上回っています。様々な無駄を減らせば、日本も生産性を高めることは必ずできるはずです。


軍が厳しく監視するマニラ

インタビューを終えて

この記事をまとめている時、経団連が感染予防指針案として「週休3日」を検討しているというニュースを目にしました。世間では、「大企業だからできること」「ハッピーフライデーの二の舞」など批判的な反応も多かったようですが、村瀬さんの話を聞いていると、日本特有の無駄を省いていけば実現可能なのでは?と思えてきました。

2019年12月18日に発表された「労働生産性の国際比較」2019年版によると、日本の労働生産性は、「1人当り」と「時間当たり」で共に先進7カ国中の最下位。しかも20年以上もその状態が続いているそう。

村瀬さんは、今後のキーワードとして、「個人の権利と責任」を訴えていました。折もおり、在宅ワークが進む今日、「会社に属して仕事をする」から、「個人の成果で働く」へのシフトが進んでいます。どんな働き方を選択するのか。世界のスタンダードは、とうの昔から「管理されて働くではなく主体的に働く」、そして「給料をもらうから働くではなく、自身の力でサービスを提供しその対価で給料が発生する」です。働き方改革はもちろんのことですが、同時に働く側の意識改革も始まっているといえます。

(Hello News編集部 吉松こころ)

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