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2020.09.03
♯町おこし
石田竜一さんが、東京と故郷・福井を行き来する生活を始めて6年になる。
学生時代、福井弁で話すのがコンプレックスで、福井人であることを忘れて過ごしてきた。しかし、40歳を過ぎたあたりから地元を思う気持ちが強くなり、帰郷のたびに目の当たりにする福井駅前のさびれた惨状に、なんとかできないものかと思うようになる。
福井駅前の様子
人通りの少ない商店街
本業は中小ビルの再生で、2008年4月に会社を興して以来、東京では20棟以上のビルリフォームを行ってきた。創業の2008年はリーマン・ショックが起きた年。前年の2007年秋口頃から噴出したアメリカの住宅バブル崩壊の余波は、東京の中古ビル市場にも押し寄せていた。価値が下がり、投げ売りされたボロビルが大量に出回っていた時期だ。ひと目見て「これはダメだ」と匙を投げるようなオンボロビルでも、片付けをしリノベーションをして手を掛ければ蘇る、そんな成功体験はこの時に積み重ねた。
廃墟のようだったビルが入居者を惹きつけ、賑わい出す。そして高収益を生み出す優良物件に生まれ変わっていく。「かつて自分が経験したことが、今の福井に応用できるかもしれない」。石田さんは自らの活動を「タイムマシンモデル」と名付け、まずは1棟、福井駅前に立つ築47年のビルを借り上げた。
借り上げ当時のニシワキビル
4階建てのそのビル「ニシワキビル」は、数年以上にわたり借り手がいなかった。かつて入居していた1階の居酒屋、2階のスナック、3階のダンスホールは、朽ちた看板やミラーボールを残し退去。4階はオーナーが自宅として住んでいたが、維持費を捻出できずエレベーターも止まっている状態だった。
当時の設備が遺されたままの居酒屋(1階)
スナックには放置されたカウンターテーブルが(2階)
ミラーボールなどが残ったままのダンスホール(3階)
「せっかく親が建ててくれたビルなので売るに売れない。だからと言って改修する費用もないんです」
こう話す現所有者と相談し、1〜3階合わせて10万円で借り上げることを決めた。面積は300坪あるため、坪あたりに換算すると330円という格安。オーナーからしてみたら、それまでの家賃収入は0円だったわけだから双方に利点がある。現在、1階にはカフェが入居し、地元出身の女性が切り盛りしているという。2階、3階も街づくりに賛同する企業が入居した。
リノベーションは自分たちの手で行っている
壁に黄色のペンキを塗っている様子
1階にあった居酒屋の解体作業
リノベーションを行い、居酒屋からオシャレなカフェに変身
3階のダンスホールはイベント会場に
次に石田さんが考えているのはビルの所有だ。やはり福井駅前で持て余され、値段もつかないと言われる築55年のビルを300万円で購入する計画だという。
「コロナで場所の概念が変わりました。月の半分は東京で仕事をして、もう半分は福井で、という人が出てくると思う。そういう人たちの受け皿となるようなシェアオフィスを作りたい」(石田さん)
地方都市での不動産再生や集客には、東京で行うそれの倍以上の労力と時間を要す。それでいて得られる賃料は3分の1程度。この問題をクリアするには規模を出すことが必須だ。
昨年5月には、会社名を福井弁で「ヤンチャ」を意味するテナワンに変更した。今後、福井での投資を加速し、複数のビルを所有しながら駅前の賑わいを取り戻す活動に力を入れていく。
「面白い場所を作り、稼いだお金をまた街に再投資する、そんな循環を作りたい」(石田さん)
(写真提供:石田竜一さん)
(Hello News編集部 吉松こころ)
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