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2020.11.12

♯ボロビル再生

【第7回】東京・池袋のボロビル再生請負人

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【筆者プロフィール】

山田武男
1980年横浜生まれ。茨城のニュータウン育ち。東京農業大学造園科学科卒。2004年に不動産業界に就職して以来、数社の不動産事業に従事。店舗、オフィス、ホテル等の事業用不動産を中心に、数十件の築古ビルを再生、運営に関わっている。築古ビルの空室に若手アーティストの展示場所として活用するイベントを18回開催するなど、ビル再生、地域への関与を模索し続けている。2019年4月、不動産会社(株)オリエンタル・サン設立に参画し、現在取締役。

「本社移転、借りるか?買うか?」

1.コロナ禍のオフィス市況

最近、不動産業ではない知り合いに会うたび、「ニュースで見たけど、コロナでオフィスはいらなくなるんでしょ?」「オフィス不況でしょ?」と聞かれることが多い。

残念ながら、現場で活動している我々からするとそうした傾向は薄い。超高層ビルに入っているような大企業は知らないが、中小企業は相変わらずオフィスが必要な状況だ。

確かに、縮小移転の話は増えていて、6月あたりから内見数が伸びている。本格的に不況に突入する前に“固定費”を抑えたい経営者の意向が反映されているのだろう。

なので、現場の私の意見は、コロナ対策でオフィスを狭くしているのではなくて、「売上減の対策として固定費を下げているので、オフィス面積を減らしている」というものだ。
※筆者の実感値のため、統計上の情報などお持ちの方はぜひご意見をお聞かせいただきたい。

2.本社移転の相談

さて本題の本社移転。

最近、70坪クラスのオフィスを借りている老舗企業(社員30名程度)からご移転の相談を受けた。直近でのご移転というよりは、数年内で移転するかどうかのご相談といった内容だ。

コロナ前だったので、オフィス市況は絶好調で、賃料最高値をつける中、その企業は、新宿近辺のオフィスを10年ほど借りており、近隣の水準より坪単価1,000円程は安いように思えた。

縮小移転のお話だったが、移転先の賃料は値上がりしかねないので、直近でのご移転はあまりオススメはできなかった。

しかし、組織改革を行う上でも数年以内の移転は必要な様子。とくに日中不在の営業職のデスクは固定費を押し上げており、フリーアドレス化に興味があるようだった。

3.本社機能とはなにか

ここで、改めて本社機能とは何かを考えてみよう。

・バックオフィス機能
人事や総務、経理など、中小企業でも10名弱のバックオフィス部門があり、どんなにクラウド化を進めても、絶体に必要な帳票類、クラウド化できない資料などはある。また、経営から近いところこれらの部門を置きたい経営者も多い。

・来客機能
表敬訪問から営業まで、とりあえず企業に訪問する場所が必要だ。毎回、喫茶店というわけにはいかない。

・金融機関対策
起業して1、2年で最初にオフィスを借りる理由の半分くらいが金融機関対策だ。自宅兼用オフィスで起業しても、口座の開設や融資申し込みなどで、自宅だとどうしても信用が足りず、小さくてもオフィスを借りるニーズがある。また、企業の取引開始の際の与信でも、オフィスの有無については問われるようだ。

・採用
人材を採用するとき、どんなオフィスで働くかは重要な要素だ。面接に行った時、ワンルームマンションに通されて断った、という話を聞く。オフィスの雰囲気や、社員の様子、清潔さなどが見られており、休憩施設などの福利厚生的な要素も面接者の目に触れて好印象を与えることも多い。筆者の経験だと、窓のある明るいスペースでの面接は好印象なことが多い。

4.10年借りてるなら買ったらどうか?

上記企業への私のアドバイスは、「区分オフィス買ったらどうですか?」であった。

聞いている印象だと、堅実経営で内部留保がそれなりに溜まっていそうだったし、融資も受けられそうだった。借りると高いが、買うと安く買えるかもしれない、というアイディアだ。

過去支払った賃料を計算すると1億円を大きく超えることも分かり、今後も企業が存続することを考えると、十分に検討に値すると思われた。

・流通価格が安い
住宅と違い、事業用区分所有物件は流通価格が安めなのだ。プロしか扱えないという印象で、流通しづらいというのが理由と思われる。最近ではボルテックス社が積極的にサブリースの区分オフィスを販売しており、徐々に区分オフィスが知られてきた。

・賃貸と併用もありえる
以前私が関わった取引では、70坪の区分オフィスで40坪を自社の本社用として使い、残りの30坪を賃貸用に貸し、ローン返済に充てる、という物件があった。購入した企業は20年以上の歴史がある中小企業で、満期保険金の対策として購入したのだった。

5.どうせ借りるなら一棟オフィスはいかが?

前述のような区分オフィスも良いが、私のおすすめは一棟オフィスだ。「いつかは建てたい自社ビル」は、夢のような話だが、意外と現実的な話でもある。

・猫オフィスを実現した企業
「猫の飼えるオフィスがほしい」「犬を連れていけるオフィス」というオーダーは、年に1、2度ある定番の要望だが、その実現は極めて難しい。一般のオフィスは、「ペット禁止」は書くまでもなく常識だからだ。
※つまり、ペット可オフィスは成約間違いなし、と思われる。

以前相談を受けたIT企業は、社長が猫大好きで、社員さんも猫好きが集まっていた。オフィスは常に猫が闊歩している楽しいオフィスだった。

移転の条件は、「猫OK、駐車場1台」という厳しいものだったが、そこで思いついたのが、ペット可の豪邸だ。

住宅募集でのオフィス申込は、貸主は寝耳に水なのだが、原状回復は住宅よりもオフィスの方がしっかりとしてもらえるし、与信は個人よりも強かったりするので、ある意味いいことずくめだったりする。

豪邸は賃料が高額で、成約に時間がかかることも貸主の背中を押したようだ。

企業としても一棟を好きに使え、キッチンが大きくて、社長さんが夕飯に腕をふるう、ようなこともあり、満足度の高い取引だった。

・一棟ショウルームとなったビル

写真のビルは池袋にある工務店の本社ビルだが、ワンフロア20㎡をきる4階建ての狭小なビルだ。商店街沿道で立地は良いが、築古・狭小で、価格は工事費込みでも都心の一戸建て程度の価格だった。

ビル内の壁を様々な仕様のクロス、タイルなどで飾っているため、本社で商談をする時は仕上がりの雰囲気を顧客に説明しやすい。

一棟ビル改修工事を主力とするこの企業では、本社ビルの存在自体がプレゼンに説得力があるため、営業に弾みがついているようだ。

ちなみに家賃約10万円の1階には、ネイルサロンが入居し、ローン返済の一助となっている。

6.本社とはその企業そのものを表現

オフィスは企業の顔であり、どんなに零細な企業でも目に見える形として存在するのが本社だ。

筆者は10坪未満の小型オフィスを企画することも多いが、室内の仕様に投資が難しくても、テナント案内板や入口は企業の顔とみられるため、整えることをオーナーにお薦めしている。また、前述した通り、入社希望者から、金融機関、取引先まで、社内をよく見ているもの。壁の掲示物から、オフィス家具のセンスまで、その企業の性格をよく表しているので、意識して扱いたい。

なんとなく借りてしまったそのオフィス、改めて本社とは、、、と思って眺めてみてはいかがだろうか?

次回は、当社の「地域再生事業、2年目の軌跡」について書きたい。

(ボロビル再生請負人 山田武男)

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