- 出身地
- : 東京都
- 賃貸暦
- : 4年
- 趣味
- : 街歩き
- 休日の過ごし方
- : 漫画、新しい商業施設めぐり、キャンプ
- 住んでみたい場所(国)
- : ニューヨーク
- あなたにとって賃貸とは
- : 自分ひとりでは作れない価値を求める場所
ヘヤミセテ
メーカー勤務
「シェアハウスは今の家で3軒目で、それぞれ街も家賃も規模も違います。そのため、住人の属性やライフスタイルにも違いがあり、刺激のある暮らしには事欠きません」
そう語るのは、メーカー勤務の30歳、奈緒子(仮名)さんだ。
奈緒子さんは、10万円~15万円ほどの家賃で住めるシェアハウスを探していたところ、今の住まいを見つけた。敷金と仲介手数料はなしだったが、入居する前に家賃1カ月分の礼金と保証金5万円がかかったという。
シェアハウスがある場所は、JR山手線「神田」駅から徒歩6分。毎日飲み歩いたとしても、全ての店を制覇するまで3カ月はかかりそうな、のんべえにはたまらない誘惑の多い商店街を抜けた先に、奈緒子さんが住む築56年のシェアハウスがある。
ビジネス街のため土日は人が少ない神田駅周辺でも、商店街は人通りが絶えない
「この商店街を通ると、帰り道に一杯だけと飲みたくなってしまうので避けたいところなのですが……、にぎやかな雰囲気が好きな性分なので、いつも、ついついこの道を通ってしまうんです」
奈緒子さん曰く、商店街の路肩に目を向ければ、いつも同じ客引きの男性や、日ごとに替わる女子大生が立っていて、毎日歩いても飽きないそうだ。また、つまずくと声をかけてくれたり、店を覗き込むと店員が微笑んで誘ってくれたりして、奈緒子さんはこの商店街に人の温かさを感じている。
“人”と接することが好きな奈緒子さんにとって、こうした街の雰囲気もこのシェアハウスに住もうと決めた理由のひとつだという。
このシェアハウスは9階建てのシェア型複合施設で、3階以降の住居スペースに男女合わせて約50人が住む。地下と2階はレンタルスペースとシェアラウンジで、最上階は住居・テナントの入居者が使用できるラウンジになっている。
ラウンジを含む共有部には、打ち合わせスペースや、来客用のソファセット、裸足でくつろげるカーペットスペース、100インチのスクリーンが備え付けられたシアタールームなど、様々な設備が整っている。そのため、個室が狭くても、共有部に行けばのびのび過ごせるよう配慮された作りになっている。
シャワー・風呂やトイレ、ランドリーも共有だが、週に3~4回の清掃が入るため、常に清潔に保たれているのが嬉しい。
裸足で上がるリラックススペース
自室に行くには、厳重なセキュリティチェックがある。
1階のエントランスでカードキーをかざして、エレベーターに乗って自室のあるフロアに行く。フロアに着いたら再びカードキーで廊下の扉を開ける。さらに、自室にはテンキーにパスを打ち込んで解錠するタイプのドアロックが付いている。
奈緒子さんは「色々な人が出入りする場所なので、セキュリティが堅いのは安心です」と言う。
防音のシアタールームでは、楽器の練習をする住人もいるという
ラウンジにあるカウンターキッチンでは、他の住人と夕飯を作る時間が重なると、作った料理をその場にいる人同士でシェアすることもあるという。つまみ片手にお酒を飲みに来る住人もいるなど、ここでの過ごし方は様々だ。
「このキッチンを使って、住人がイベントを企画することもあります。この前は、ごはんに合う究極のおかずを1品ずつ持ち寄って、感想を言いながら食べるという会に参加しました。その場でバーナーを使ったカツオの炙りや、数時間前から煮込んだ筑前煮、スパイスからミックスしたオリジナルカレーなど、皆が腕によりをかけて作っていました。私はそのあたりで買ってきたおかずを出しただけだったので、ちょっと肩身が狭かったのですが…」
また、奈緒子さんは続けてこう言った。
「人と人との繋がりを求めている人たちが集まるシェアハウスだからこそ、こういうイベントが開催できるんだと思います。それにカウンターキッチンは、単身向けの賃貸ではあまり見かけないですよね。誰かの目があることでやる気につながるんだと思います。凝った料理を作る住人を見かけることも多いですよ。私は食べる専門ですけど」と笑った。
「ラウンジには、平日は夜、土日は昼と夜に人が集まります。場が盛り上がると、そのまま早朝まで飲んでいることも珍しくありませんが、土日の午前や夕方の時間帯は1人もいない時もあり、びっくりするほど静かです」
また、シェアハウスに住んでいるからといって、50人全員と交流できるのかというと、そうでもないらしい。
「ラウンジで会うのは、いつもの決まったメンバー、10~15人の内の数人です。他の人は、エレベーターでたまに会うくらい。まだ会ったことがない人もいますし、1、2カ月おきに会う人もいます。また、パートナーがいる時といない時で姿を現す回数が変わる人もいて、人それぞれです。私は、自分のペースでラウンジに顔を出したり、イベントに参加するようにしています。最初は自分のペースが分からず、いつ住人と交流しようかとそわそわしていましたが、今では気が向いた時に、と気楽に考えるようになりました」
キッチンにはIHクッキングヒーターが3台分設置されている
シェアハウスで出会って夫婦になり、大きめのタイプの部屋に2人で引っ越して住み続ける人や、結婚後に入居して別々の部屋に住んでいる夫婦もいるという。
「ここに引っ越してきてから、結婚観が大きく変わりました。今までは『結婚とはこうだ』『夫婦とはこうだ』と決めてかかっていた部分があり、自分には向かないからまだ一人でも良いかな、と遠巻きにして見ていたところがありました。ところが、結婚した後も他人と一緒に住むことを選んでも良いし、夫婦の部屋が同じでなくてもいいという『イレギュラー』が自然に起こっている現場を実際に見たことで、私の考えは変わりました。枠にとらわれようとせず、自分が心地良いと感じるライフスタイルを選んでも良いんだと、背中を押されたんです」
自転車置き場には、こだわりのある自転車が並ぶ
奈緒子さんの部屋は、約12㎡のこじんまりとしたスペースだ。鮮やかな緑色のソファ、頑丈な木製テーブルが部屋の半分を占めるが、黄色のクッションが空間を引き締めていることで、窮屈そうな感じはない。
これらの家具はすべて前職のWEBデザイナーから譲り受けたものだという。
全体的にシンプルな色使いだが、ポイントごとに差し色を置いている
深緑と黄色の組み合わせが鮮やかなソファ
「物をいただけること自体がとてもありがたいのに、色や素材のセンスもとても素敵で、すごく気に入っています」
テーブルの上にはラタン製のティッシュケースと小物入れがある。
他の入れ物もラタン製だ。
シンプルなデザインが好きな奈緒子さんは、素材を統一することで、なるべく部屋にいる時に意識が散らばらないようにしたのだという。
「私のお気に入りの小物はハリネズミのぬいぐるみです。左側は自分で買ったもので、右側は前職の退職時のプレゼントです。背中がポケットになっているのですが、いただいた時、その中には高級リップが入っていました。一番モテる色を店員さんに聞いて選んでくださったそうです(笑)」
テーブル下のかご収納は、中身が見えないようにテキスタイルで覆う
ベッドは備え付けで、リネンと布団は購入したという。何色ものパステルカラーで構成されたクッションが目を引く。
パステルカラーのキリンのクッションが、ベッド周りを明るくする
「ベッド周辺は落ち着けるようシンプルにしたい。でも、鮮やかな色が一点あると気持ちが明るくなるので、白にも馴染むパステルのキリンを置きました」
植物を置き、サンルームのような使い方をしている
部屋の奥にはインナーバルコニーがあり、植物や本、備え付けのデスクと椅子、冷蔵庫、洗濯機を置いている。
「この部屋は日当たりが良くないので、思いっきり太陽を浴びたい時は屋上に行きます。緑がたくさんあって、植物園のようです。人も滅多にこないので、ベンチに横になったり、ゆっくり日向ぼっこをする時もあります」
最後に、なぜこのシェアハウスを選んだのか、聞いてみた。
「東京の家賃はとても高いです。私の場合、ほとんど部屋にいないのに10万円前後のお金を払うのはもったいない気がしてしまって。でも付加価値のある部屋なら、納得してお金を払えると思ったんです。知らない人と住むということは、最初は慣れるためにパワーがいるし関係を維持することに配慮も必要です。ただ、普段知り合えないような、自分と異なる環境にいる人と、同じ家の住人ということで距離感を縮めて会話ができます。すると、知らなかった価値観に触れることができ、自分の考え方を更新することができます。それがとても貴重な体験で、毎日が刺激的です」
そして、「もちろん、人と人が関わることなので、良いことばかりではありませんが」と言葉を付け足して奈緒子さんは微笑んだ。
(ライター 山口ハイ)