- 賃貸暦
- : 14年
- 趣味
- : 登山
- 休日の過ごし方
- : 街歩き
- 住んでみたい場所(国)
- : 神戸
- あなたにとって賃貸とは
- : 住み替えが自由にできる良さがある。ただし、日本は初期費用が高く、簡単ではないのが残念。
ヘヤミセテ
IKEA港北
向かったのは、神奈川県保土ヶ谷市、横浜市営地下鉄ブルーライン沿線にある住宅街。高台に建つ築20年の賃貸アパートに住むのは、ベルギー生まれのスレイカさん。IKEA港北で働くインテリアデザイナーだ。
2004年にノルウェーのイケアで働き始めてから13年、自他共に認めるイケア大好き人間である。
「初めてのアルバイトも就職もイケアだったの。私はイケアに育てられたようなもの」と話すスレイカさんの部屋は、確かに“イケア愛”に溢れていたが、一方で日本ならではのインテリアも盛りだくさんだった。
玄関を開けるとすぐ目に飛び込んできたのは、富士山が描かれた絵馬と登頂記念のタオルだった。壁には、同じく富士山が描かれたタペストリーも飾られていた。
「日本と言えば富士山、私は富士山が大好きで、これまでに2回登ったのよ」。
趣味は登山で、休みが来ると山登りに出かけている。かつて住んだ神戸では、地域の山登りサークルにも所属していたほどで、溝の口に引っ越してきた今も、一緒に登ってくれるグループを探している。
リビングからバスルームに続く扉には、銭湯といえばだれもが真っ先に思い浮かべるであろう、「ゆ」の暖簾。また、ソファルームにも大量の銭湯グッズが飾られていた。聞けばスレイカさんは、ベルギーでの大学生時代、卒業論文のテーマに「現代と江戸時代における銭湯の違い」を挙げたほどの銭湯好きだった。
極めつけは、寝室(寝具はもちろん布団である)に置かれた階段箪笥(かいだんだんす)の上に飾られた「こけし」と「だるま」だ。ライトアップされたこの一角は、写真のとおり、少々不気味。スレイカさんによると、その理由は階段箪笥にあるという。
「日本の伝統文化が詰まった、この階段箪笥が好きで、大学の卒業記念に自分へのご褒美で買ったんです。私のお気に入りの家具です」。
日本人の部屋で、富士山や銭湯グッズ、こけしやだるまなどを見ることはあまりない。もし飾ってあったとしても、オシャレというよりは「古い」という印象が先立つのではないかと思う。
しかし、外国人にとっては違う。それらは日本文化を感じる重要な暮らしのアイテムであり、自分が今、日本に住んでいて、日本で働いているという実感そのものなのだ。それは日本人が、ユニオンジャックのポスターを貼ったり、アイラブNYのTシャツを着たりするのと同じような感覚かもしれない。
スレイカさんはイケアのインテリアデザイナーらしく、それらを北欧風の家具と組み合わせることで、自分だけの空間を作り出した。
イケアで大人気のトラ模様のラグと、白いダイニングテーブルセットの後ろに、富士山のタペストリーがあっても全く違和感がないのは、彼女のインテリアセンスによるものだろう。
スレイカさんが日本にやってきたのは2014年のこと。
日本に興味を持ち始めたきっかけは、小学生時代までさかのぼる。
「小さい頃、ベルギーに住んでいる日本人の女の子が持っていたお弁当箱を忘れることができません。かわいい猫のキャラクターが描いてあって、中身も私のお弁当とはまるで違っていました。今、思えばそれが日本食の“キャラ弁”というものだったのですが、私にとってはそれが不思議でならず・・・。それが日本文化を知りたいと思うようになったきっかけだったと思います。そして日本を知るうちに好きになっていきました」
大学に進みデザインを学ぶと、卒業後はノルウェーのイケアに就職した。大人になった後も、ずっと心の中に「猫のお弁当箱」を生き続けていた。
ある日、スレイカさんは行動を起こすことを決意。ベルギーに戻ってもう一度大学に入学し、日本語科で日本語を学ぶことを決めたのだ。2014年、スレイカさん28歳の時だった。
上司にも相談し、正社員からアルバイトになり、勤務時間の融通が利くよう生活も変えた。
日本語が話せるようになるにつれ、日本への愛はどんどん深まっていった。
卒業後、自ら希望を出し、念願の日本での勤務が決まったのだ。
来日して今年で4年目を迎えた。
3カ月前までIKEA神戸で働いていたスレイカさんだが、
「せっかく日本で働いているんだから東京にも行きたい。関東に住んでみたい」と、IKEA港北に異動願を出し、この物件に引っ越してきたという。
店舗まで歩ける距離に、2LDKという間取りと広さ、静かな立地が決め手となった。
今、日本では北欧モダンやヴィンテージアメリカン、バリ風といった、ひとつの文化や時代に統一した家具を配置することがもてはやされているという。しかし、スレイカさんの部屋を見ていると、好きな部屋に、好きなものを飾りながらも上手にバランスをとることの良さを知ることができる。
彼女は今、日本での生活がとっても楽しいという。部屋というものはそこに暮らす人の人生を映し出し、生きる活力になる大きなファクターなのだと、改めて考えさせられた。
(Hello News編集部 鈴木規文)