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2018.7.12
「今日はどのウチに帰ろっかなぁ」
ほろ酔いの仕事仲間がそう言うのを聞いて耳を疑った。
「そんなにたくさん家があるの?」と冷やかすと、「実は5軒あるんですよ」との答えが返ってきた。大手情報サービス会社に勤務する30代前半のキャリアウーマンである彼女は、同世代の女性友達5人で都内各地に賃貸住宅を借り、仕事が終わった場所や翌日の勤務場所に合わせて、都合がいい部屋に帰るという生活をかれこれ1年以上も続けているという。
「横浜、吉祥寺、南千住、どこで飲んでも帰るのに困りません!」と笑う姿を見て、「借り方」も「仕事の仕方」もずいぶん変わったものだと驚いた。賃料は5人で分けるため、都内に一部屋借りるのと同程度の負担で済む。その上5部屋借りる「お得感」を味わえると言う。
「一人ひと部屋なんて誰が決めたんですか」と笑いながら斬り込んでくる彼女に、思わず納得。一夫多妻ならぬ、「一人多部屋」は、新たな「空室対策」になるやもと思った次第だ。
少し前から「二地域住居」が、静かなブームとなっているのを思い出した。ウィークデイは都心で働き、週末になると田舎に借りた一軒家に住む、など2つの地域に居を構える人々をいう。
「農業が好きだから」「サーフィンを楽しみたいから」「実家の近くにいたいから」、と動機は十人十色。地方の古い家を3〜4世帯がシェアし、リビングやトイレは共同で使用しながら、個室は別々に借りて過ごすという人々も存在する。ひと家族が年に数回しか行かない別荘を持つより合理的で経済的な方法だ。職業は、ライターやデザイナーなどパソコン一台あればどこでも仕事できるフリーランスが多く、「住む場所」にとらわれない生活を楽しんでいるという。
今年3月には「二地域住居のすすめ〜2つの地域で同時に暮らすと見えてくるもの〜」と題した講演会(主催:一般社団法人不動産流通経営協会)も開催され、詰め掛けた250名の聴講者たちが、発表された豊かな暮らしぶりに耳を傾けたそうだ。
米国でも「暮らし方」に関連した新しい動きが生まれている。「タイニーハウスムーブメント」と呼ばれる運動をご存知だろうか。アメリカンドリームに代表される「広くて大きな家」を否定し、「小さくても本当に必要な物」だけに囲まれて暮らすという考え方だ。2007〜09年に全米で問題となったサブプライムローン破綻とその後の住宅危機を境に広がったという。日本でも「ミニマリスト」と呼ばれる「持たない暮らし」を実践する人々を中心に共感の輪が広がっている。
こうした「借り方」や「暮らし方」、「仕事の仕方」の変化は、今やSNSを通じてあっという間に拡散し、若者たちの「いいね!」を獲得するようになった。社会の動きに耳を傾ければ、次の賃貸経営に活かせるヒントが見えてくる。
※「武蔵TIMES 平成30年/6月号」(発行:武蔵コーポレーション)に掲載された「吉松こころの不動産最前線」に加筆修正を加えたものです。
(Hello News編集部 吉松こころ)