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2021.03.18

♯ホテル

コロナ禍で誕生した動くホテル

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「あの方らしい発想だな」と思った。

省エネが今のように盛んに叫ばれていない頃から、「省エネだ、エコロジーが大事だ!」と言っていた。3・11で仲間が被災すると、それに災害対策への熱意が加わり、建築を通してどう社会に貢献するかをブレずに訴えていた。

「帯広の男は芯が強いなあ」と、会うたびに思わされてきた。

北海道から出た会社、ヒーローライフカンパニーの日﨑哲仁社長だ。

強い思いを持っているのに、ホームページの社長の顔写真を見ると天地がひっくり返っている。日﨑社長は宣伝下手の、典型的な技術屋なのだ。

メイドイン栃木の動くホテル

「動くホテル」と聞いて、何のこっちゃと思った。写真を見ると、タイヤが付いている。なるほど、車のように移動できるらしい。税法上も「車両」扱いとなり、償却期間は4年だという。

「Trail innと言います。需要があるところに移動するのが特徴です」

教えてくれたのは、副本部長の和田綾さん。「数字に追われる営業です」と朗らかに笑うが、一級建築士だ。

Trail innは、コンテナのような形状だが、構造は木造だ。ヒーローライフカンパニーの栃木工場で自社製造されている。木造にしたのは、公道を移動する際、道路交通法上の過積載に当たらないよう重量を考えて設計されているからだという。



「住みやすさと機能性のバランスはかなりこだわっています」(和田さん)

1ユニットと呼ばれる室内は約13㎡。中には、キッチン、お風呂、洗濯機置き場、Wi-Fiが備わり、長期滞在にも向いている。万一災害が発生した際、被災地に移動して、応急仮説住宅や医療従事者、救助隊の宿舎として活躍する。現在のようなコロナ禍にあっては、療養施設やPCR検査の部屋、テレワークスペースとしても期待されているという。


すぐに生活できる環境が整う室内

2月19日には、3月のオープンを控えた栃木県那須塩原市の現場で完成披露式が開催された。当日の視察イベントには、那須塩原市長も駆けつけた。全部で36戸が稼働し、Trail innとしては、この那須塩原が第一号目のプロジェクトとなる。近隣には工場が多く、技術者や作業員の宿泊を想定している。


Trail inn那須塩原

投資家を募集

Trail innは、1ユニットから購入可能だ。費用は、1ユニット530万円(税別)で、10年間、家賃固定で同社が借り上げる。車両扱いとなるため、固定資産税は掛からず、自動車税が課せられる。想定利回りは、8.5%で、10年後には賃貸借の更新、買取、売却などを選択できる。オプションで買取保証制度を付保することもできるとあって、前述の那須塩原の案件でもあっという間に買い手がついた。

今後広く投資家を集め、工場地帯や宿泊利便の悪い郊外地域での開発を進める。2025年までには、100カ所、1000室の稼働を目指すという。また、Trail inn設置用の敷地(200〜900坪)についても、事業用の定期借地として募集している。

ヒーローライフカンパニーは、1997年の創業で、全国で2万戸以上供給されたRC造の賃貸マンション、ヒーローマンションのフランチャイズ本部でもある。

かつて、同じくRC造の賃貸マンションブランドとして有名な「ユーミーマンション」と共に、「北のヒーロー、南のユーミー」と謳われ、しのぎを削った時代もあった。

省エネやエコロジー、災害対策などいつも社会にとって良いものを考える職人気質の日﨑社長だが、その経営は常に順風満帆というわけではなかった。

しかし、コロナ禍にあって、いち早く療養用の部屋やPCR検査室としても活用できるTrail innを開発したのは、その苦難の過程で、生き残る術をたくましく身につけてきた日﨑社長ならではの発想と行動力の為せる技とも言える。

今後の活動と、動くホテルの展開に注目したい。


敷地内には同じくコンテナを活用した食堂がある

(Hello News編集部 吉松こころ)

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