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COLUMN

コラム

2018.07.03

ルポタージュ

超過密国家シンガポールの暮らしと住宅事情

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公用語は英語だが実際は…

シンガポールは、中国系・マレー系・インド系の異民族で構成されていることに加え、人口の約30%が外国人という多民族国家だ。観光客がひっきりなしに往来するチャイナタウンに足を運べば、中国寺院、モスク、ヒンドゥー教寺院と3つの宗教が隣り合う文化の交差点を目の当たりにできる。街を歩けば、イスラム教のガラベーヤやヒジャブ、ヒンドゥー教のサリーなどの伝統衣装に身を包んだ人々が行き交っている。

 

この地には、約3万人の日本人が住み、日本企業も多数進出している。街中には、ワタミ、吉野家、サイゼリヤなど馴染みのある大手外食チェーン店をはじめ、高島屋やユニクロの看板を見ることができる。日本と変わらぬ生活ができてしまうシンガポールの暮らしと住宅事情を探っていく。

駅などの表示板は、公用語である英語、マレー語、中国語、タミル語の4カ国で記されているが、会社や学校といった場では、主に英語が使われている。そのため、日常生活では誰しもが英語を使っていると思われがちだ。ところが実際は、相手によって言語を使い分けするというのが実情のようだ。

中華系シンガポール人のチューヤンさん(24)は、中華系の両親のもとで生まれ育った。そのため両親と会話をする時は中国語、外では英語を使っている。ただし、2つの言語を完璧に使いこなせるわけではなく、「中国語は話せるけど、読み書きは苦手。どちらかと言えば、英語の方が得意」と説明するチューヤンさん。

専業主婦の母、ウンカーキョウさん(55)は英語と中国語を使いこなすが、電気工事会社勤務の父、チョンキンヤンさん(54)は、そのむかし中華学校に通っていたため、英語はあまり話せないそうだ。

一方で、インド系シンガポール人のロビーさん(34)の家では、日常使っている言語を限定しておらず、英語、マレー語、タミル語のいずれかで会話をするといったケースもあるようだ。

結婚するまで実家暮らし

世界で3番目に人口密度が高いシンガポールでは、独身でひとり暮らしをするのはごく稀だ。「結婚前は実家暮らしでした。家賃が高いので独身の人はほぼ実家暮らしですよ」と話すのは、シンガポール人女性のRさん。シンガポールには単身向けの物件がほとんどない上、賃貸物件の家賃相場は、1LDKが20万円から、2LDKが24万円から(エイブル調べ)となっており高額だ。国民の月額平均給与は約32万円(シンガポール労働省調べ)をもってしても、おいそれと支払える額ではないことがわかる。

現在、両親と実家暮らしをしているチューヤンさんも「一人暮らしはお金がかかるから難しい。独身の友達はみんな実家暮らしだし、僕も結婚するまでは実家にいるつもり」という。

国土が狭いこともあり、大半の住宅は、公団住宅やコンドミニアムといった集合住宅が中心となる。一方で、数少ない戸建てに住むのは、ほんの一握りの富裕層に限られる。

そして国民の80%が住むのは、HDB(Housing & Development Board)と呼ばれる公団住宅だ。日本でいうURに近い。HDBは、1960年代に住宅不足解消やスラム街一掃のために建てられたものだ。日本貿易振興機構発行の「シンガポールスタイル」によると、現在は102万戸まで増えているそうだ。購入も可能でHDBの持ち家率は90%に達しているという。住宅購入時の政府の補助も手厚い。初めて物件を購入する場合で、月収4,000SPD(約32万円)未満の国民には補助金3万SPD(約243万円)が支給される。

1SPD=81円で換算

 

 

ただし、HDBの購入にはいくつかの条件がある。21歳以上の成人であること、また単身者の場合は35歳以上であること、世帯所得により部屋数タイプが限られるといった要件がある。なお、外国人の場合、HDBを購入することはできないが、借りることはできる。

一般的に、外国人はHDBよりも家賃が割高である民間のコンドミニアムに住んでいることが多い。そのかわり、ゲートには24時間体制のセキュリティガードが常駐し、敷地内にはプールやジム、公園やバーべキューピッドなど設備面での充実が図られている。

  

シンガポールでは政府主導で国民の住環境を整備してきたという歴史がある。HDBの登場以来、狭い国土でありながら、みなが自分の家を持てるようになった。限られた環境や条件の中での工夫を重ねた結果だといえる。

カプセルホテルが急増

そんな超過密国家シンガポールでは、ここ数年の間にカプセルホテルが急増している。しかも、箱で区切るだけの単なるカプセルホテルではなく、進化型のホテルまで登場している。例えば、シンガポールに3店舗を展開する「メット・ア・スペース・ポッド」は、宇宙をコンセプトにしたユニークなカプセルホテルだ。宇宙船を見立てたキャビンが並ぶ客室は、夜になると青や紫の光でライトアップされ、そこにはまるでテーマパークのようなわくわく感が漂っている。同ホテルのスタッフによると、ここ3年くらいでカプセルホテルが増えたといい、宿泊客の99%は外国人観光客だという。ホテル予約サイトのブッキングドットコムには、2018年6月時点で約20軒のカプセルホテルが掲載されている。

  

シンガポールはホテル代が高く、1泊1万円以上の出費は避けて通れない。しかし、カプセルホテルはコンパクトな分、価格も手ごろで一般的なビジネスホテルの半額程度で宿泊できることから、特にバックパッカーの間で重宝されているという。カプセルホテルが生まれた日本よりさらに土地が狭いシンガポールで流行るのは、ごく当然な流れなのだろう。狭い中でも工夫をこらすことで、ビジネスチャンスを広げられるという格好の例だ。

外国人が増えることの弊害

シンガポールは、世界中から人を受け入れることで発展してきた国だが、それが原因で弊害も生じている。これまで政府は、労働力を確保するため、外国人へ積極的にビザを出してきた。この結果、2000年からの18年間で外国人の数は2倍以上に膨れ上がった。

2013年には全人口に占める外国人の割合が42.9%まで達したことに加え、人口そのものも毎年増加しており、これが国民からの不満を買うこととなった。例えば、不動産価格の上昇や、道路・地下鉄の混雑といった日常生活に関わる問題が深刻化したことだ。さらに、世界中から優秀な外国人が集まることで、国民の大学進学や優良企業への就職門戸が狭められてしまうという問題がおきている。そこで、政府は2017年より外国人へのビザの発給要件を厳しくする措置に出るなど対応に乗り出し始めた。

自国の発展のために行ってきた政策が、時代の流れとともに、そぐわなくなることは往々にしてある。様々な問題に直面しながらも、シンガポールは走りながら改善を重ねることで成長し続けている。

(Hello News編集部 須藤恵弥子)

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