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2018.08.09

♯市場・トレンド

不動産会社のデータ活用術を読み解く

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スマホをかざすだけで玄関が開き、部屋の明かりが時間や天候に合わせて最適な色合いで灯る。室内のあらゆるものがインターネットにつながったことで、人々の生活はより便利になった。

イギリスのSF作家、アーサー・C・クラークは「十分に進化したテクノロジーは魔術に値する」と言ったが、昨今の進化はまさに魔法のように私たちの暮らしを変えている。

今回は、家の探し方、買い方、売り方について、テクノロジーの力でビッグデータを活用している独自サービスを開発し、不動産業界に乗り込んできた3社を取材した。

空き家問題を解決。AIで気軽に自宅査定

「自宅を売ったら一体、いくらくらいになるのだろうか……」

そんな疑問に答えてくれるのは、コラビット(東京都港区)が運営する無料の自宅査定サイト「HowMa」だ。このサービスの特長は、自宅を登録し、査定ボタンを押すだけで、一般公開されている120万件の情報をもとに、AIが独自のアルゴリズムで自宅の価格を推測。ユーザーが希望すれば、そのままWeb上で一般媒介契約を結ぶことができ、販売価格を決めれば、売りに出すこともできる。また、提携している不動産会社6社がユーザーの代わりに売却を進めてくれることで、手間なく高く売却することが可能となる。賃貸に出した時の賃料や、将来の予測査定金額などもAIにより導き出され、グラフで確認することができる。

同社CEO、浅海剛さん(38)によると、「気軽に引っ越しできるのは賃貸に住んでいる人だけの特権ではありません。持ち家の人だって気軽に住み替えできるよう、このサービスを発案しました」と語る。

開発のきっかけは、浅海さんが自宅の査定を不動産会社に出したところ、予想外に高額な値段が提示されたことだった。その時、浅海さんは「私と同じように、自宅には価値がないと思い込み、売るタイミングを逃している人が他にもいるのではないか」と考えた。そして、自宅査定サイトを作ろうと思い立つ。

同時に、社会課題に取り組めるという考えも浅海さんの背中を押した。

国土交通省が発表した2013年の中古住宅の流通戸数は16万9,000戸。全体の住宅供給数のなかで中古住宅の占める割合は14.7%しかない。アメリカでは90.3%(2009年)が中古住宅の占める割合であることから、いかに日本が新築重視で中古住宅の流通が活発でないかがわかる。

「私たちのミッションは、家を買った人は気軽に引っ越しできないという常識を変えることです」

浅海さんは、もし気軽に自宅の値段を知ることができ、手間をかけずに売却することができれば、中古住宅市場が活性化するのではないかと考える。

独学で開発した物件査定の回答システム

売り主が物件を高く売れる仕組みを作りたいと、3カ月もの間、寝る間も惜しみ、独学でプログラミング言語を習得。「査定ロボット(仮)」を開発したのは、経営コンサルティング会社、ネット・アド・ベンチャー(東京都墨田区)の代表取締役、相澤雅紀さん(53)だ。「査定ロボット」は、不動産売却査定サイトに登録されている査定待ちの物件に対して、自動で一括査定を行うことができるという、不動産会社向けのサービスだ。

「都心の物件への査定は多くの不動産会社が行っているが、地方の物件を査定する不動産会社はほとんどいません。売り上げにならないからです。しかし、これでは地方活性化など夢のまた夢。だから私は、都心も地方も関係なく、登録されている物件を自動で査定できる仕組みを作りました」と語った。

相澤さんはまず、人間が手作業で行っていた作業をロボットに任せ、自動化を図ることができる「RPA」という仕組みを学んだ。そして、AIやWeb開発で主に使われているパイソン言語を覚え、1ヶ月かけて「査定ロボット」のプログラム化に成功する。当時を振り返り、「こんなに勉強したのは受験生の時以来です」という。

このシステムを使えば、本来、不動産会社が1件あたり手作業で30分ほどかけていた価格査定が、1~2分で済む。査定後は物件オーナーにメールで結果を知らせることもできる。

査定方法は、データベースに集約した不動産会社専用の物件情報データベース「レインズ」に登録された過去の取引履歴40万件から類似の情報を引き出し、それをもとに予測値を算出。その結果を査定ロボットが不動産売却サイトの物件オーナーに回答するというもの。査定にかかる時間と費用を抑えることで、売り主が高く売れる仕組みを作り出す。また、査定されずに埋もれている物件に価値を与えることができ、地方における中古住宅の流通にも繋げていく狙いだ。

今はまだ相澤さんひとりで運営しているため、コンサルティングを務める東京・浅草の不動産会社1社のみの利用にとどめているが、体制が整い次第、不動産会社に向けて普及させたいと考えている。今は少しずつシステムを改修中だという。

物件の査定待ちをしているオーナーは、不動産会社に査定してもらわないことには売却することはできない。売却を望むオーナーに対して、不動産会社が査定に二の足を踏んでいては日本の不動産業界は進歩しないという想いのもと、相澤さんは査定から回答までの流れを自動化した。査定ロボットを世に広めることで、不動産会社の負担軽減を担い、物件の売却を後押しする。

AIとビッグデータで物件の将来価値を算出 

収益物件の購入、運用、売却までを一貫して分析できるツールがある。不動産会社のリーウェイズ(東京都渋谷区)が2017年6月から提供している「Gate.」(ゲート)だ。

「Gate.」は、不動産ポータルサイトなどから集めた不動産情報をもとに、専用に開発したAIで分析をする。10年がかりで集めた情報は約5,800万件を超えるという。 こうした情報をもとに収益物件の購入判断や、管理の仕方、運用時に発生する費用などを予測する。このため、最終的にどのタイミングで売却すれば収益が確定できるかまで、投資判断に必要な複雑な情報が瞬時にわかるという。

出口戦略抜きで不動産投資をする人はいないだろう。投資用物件を購入する際、将来にわたっての価値がどう編かするかが重要な判断要素になる。 例えば、現時点で物件価格と表面利回りが同じ2棟の収益物件があったとする。この2物件を10年後に売却しようとした時、同じ価格で売却できるとは限らない。

こうした将来の価格予測は難しいが、「Gate.」では、物件価格の推移や家賃下落率なども交え、最長50年後までの価値を予測できる。さらに、保有している間の利回りもわかる。投資家は不動産会社から提案される情報だけではなく、過去のビッグデータに基づいた「Gate.」の予想を踏まえたうえで、判断ができるのだ。

「Gate.」は、投資家だけではなく、収益物件を販売する不動産会社にとっても画期的なツールといえる。同社社長の巻口成憲さんは、自身で仕入れ物件を見極めるのに苦労したことが開発のきっかけになったと振り返る。巻口さんは「不動産会社では、投資家へ収益物件の提案資料を作るために、ポータルサイトなどから膨大な情報を調べあげています。この作業に半日を費やすこともあります。しかし、「Gate.」を使えば数秒で提案資料が作成できます」とその効果を強調する。

利用料金はプロ向けに分析回数は無制限の月額2万円からのプランと、一回の分析が1,000円から利用できる個人投資家向けのプランがある。

巻口さんは、「Gate.」の開発を通じて、不透明な日本の不動産市場を変えたいと考えている。根底にあるのは情報の流通を通じて、不動産市場をもっと拡大させたいという考え。アメリカでは、「MLS」という物件データベースがあり、一般の消費者でも物件価格や物件写真のほか、登記情報、修繕・売買履歴などを閲覧できる。一方で、日本では国内の不動産物件情報が集約されたデータベース「レインズ」ですら、一般消費者には開放されておらず、登録した不動産会社しか閲覧できない。アメリカの不動産市場を調べていた際、このような差を知ったといい、日本もアメリカのように情報がオープンになれば不動産市場はもっと広がると確信。不動産会社を経営するかたわら、開発を行ってきた。

 

取材した3社から見えてきたことは、不動産業界には物件や顧客情報など、様々なビッグデータが存在しているということだ。そして、この3社はこれらのビッグデータの重要性を理解し、ビジネスに活かしている。

古くは1873年、“地租改正”が施行され、土地の所有権が法的に認められたことにより、不動産に関する様々なデータが集められるようになった。それから時が経ち、不動産業が生まれ、企業がそれぞれデータを持つようになり、1990年に「レインズ」が誕生。WEBサーバー上で不動産情報が一括管理されるようになる。つまり、不動産業界に関するデータは、145年前から少しずつ蓄積されているということだ。

まだまだ眠っているであろう、これらのビッグデータは、今後どのような利便性を私たちにもたらしてくれるのだろうか。

(Hello News編集部 鈴木規文・須藤恵弥子)

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