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2020.04.16

♯賃貸経営

家賃保証会社だって大変だ!!

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アメリカで広がる家賃不払い運動

日本経済新聞は、4月2日の夕刊で、こう報じた。

新型コロナウイルスの感染拡大で失業者が急増するなか、米国で家賃の支払い猶予を求める運動が広がっている。(中略)運動を主導するのは米国で感染が広がった3月に活動を始めた団体「レント・ストライキ2020」。全米の州知事に「家賃や住宅ローン、光熱費の請求を2カ月間停止」するように求めている。実現しない場合は「家賃不払い運動を起こす」とし、ツイッターのフォロワー数は1万4000人に達する。
ニューヨーク市の不動産サイトが先月実施したアンケート調査によると新型コロナの影響で仕事ができなくなった場合、39%のニューヨーク在住者が家賃を支払えないと答えた。同市では人口の6割以上に当たる540万人が賃貸住宅に住んでいる。3月分の家賃や光熱費が4月1日に支払期限を迎える人も多く収入が減るなかでの賃料負担は死活問題だ。(後略)

文末に〈賃料負担は死活問題〉とあるが、それは賃貸住宅を提供しているオーナーも同じだ。多くは銀行から借り入れをして賃貸経営をしている。

オーナーだけではない。家賃の保証会社(家賃債務保証会社)だって同じはずだ。

賃貸住宅を借りる際、連帯保証人は必須だが、核家族化などの影響で身内から保証人を出すことが難しくなってきている。近年では、保証会社を利用する人が賃借人全体の70〜80%に上るとも言われ、保証会社なしに賃貸物件への入居は立ち行かないのが現状だ。不動産会社の中には、申し込みの100%で保証会社を利用するよう促しているところも増えている。今後、国内でアメリカのような家賃滞納が増えれば、保証会社は大きな重荷を負うことになりかねない。


家賃の支払いに関する、アメリカ・イギリス・ドイツ・シンガポールの対応

テレビ等では「家賃負担が重い」「家賃を猶予して」と悲痛な表情で語る飲食店オーナーや一般市民の姿が繰り返し放映されている。

保証会社のビジネスモデルは、多くが家賃の50%の費用保証料で、約24か月間の滞納家賃を入居者に代わってオーナーに支払うというもの。中には家賃だけでなく、原状回復費用や共益費、水道代などもカバーしているプランもある。つまり、決して利幅が高いわけではなく、薄利の商売なのだ。

加えて最近は、人の移動が減っているため、新たな引っ越し需要も生まれにくく、新規の申し込みが減っていくことも想定される。

そんな今だからこそ、今回はあまり語られることのない家賃回収の現場で働く人々にスポットを当て、紹介したいと思う。

電話に出た瞬間「うるせーな」

以前、私はある福岡の保証会社で、家賃が滞った人たちに電話をかけるコールセンターの現場を取材したことがある。

保証会社はときに、「取り立て屋」「追い出し屋」などと呼ばれ、生活者の敵のように扱われることがある。マスコミも、家賃を滞納した社会的弱者を部屋から追い出す非情な集団のように書き、非難する。

しかし私が出会った保証会社で働く人々は、特殊な人なんていない。どこにでもいる普通のビジネスマン。男性もいれば女性もいる。中にはお腹の大きくふくらんだ妊婦さんもいた。いかめしい顔をし、怒鳴り散らすような人は一人もいない。世間が抱いている保証会社のイメージとは全く違う。自分たちは部屋を借りやすくるためのセーフティーネットなんだという自負を持ち、仕事に取り組む人ばかりだった。


※写真はイメージです

電話をかけていた社員の一人、野口さん(仮名)に声を掛けた。毎日朝9時から夕方6時きっかりまで、家賃の支払いを促す電話を掛けている。9時の1秒前になることも、6時を1秒回ることもない。それが「自主ルール」だからだ。

彼は毎月1000人以上の滞納者に電話をかけているという。電話がつながるのは1~2割程度。ほとんどが常習的に滞納を繰り返している人で携帯電話の画面の番号から督促だと分かり、出た瞬間、「うるせーな」と食って掛かってくることもある。

「感情的になっている人に感情で返しても絶対に支払ってはくれない」

これが野口さんがいつも思っていることだ。

家賃を滞納する人は、ケガや病気で突然仕事を失ってしまった人、シングルマザーになった人、ギャンブルにはまり家賃が二の次になっている人など、さまざまな背景を抱えている。

「一人ひとりの暮らし向きや人生が良くなっていくよう策を講じたり考え長たりしながら話さないと、家賃は払ってくれない」。野口さんは黙って相手の言い分に耳を傾け、その上で分割払いや生活の立て直しの相談に乗っていた。

どう考えてもきつい仕事だと思ったが、「思いがけず嬉しい瞬間もあるんですよ」という。

「野口さん、遅れてごめん。さっきATMで払ってきたよ」

こんな連絡をくれる入居者との触れ合いが、ほっとひと息できる時でもある。

親同然に未払い家賃を立替え、悩みを聞くこともあるのだ。時に家族以上に、滞納者の人となりや生活ぶりを知る。その上で辛抱強く付き合う。それが保証会社で働く人々の日常だ。

「なんとか再生してほしい」

午前9時。もう一人のスタッフ、田中さん(仮名)の電話がオートコールで次々に滞納者へ電話をかけ始めた。ガチャ。

「○○さんですか?こちらお家賃の管理をしています○×保証会社の田中と申します。今月のお家賃の件でご連絡でした」

「はあ?家賃?別に、払ってないの私だけじゃないじゃん。なんで私だけに掛けてくんのよ、ほんっとむかつく、あんた何様なの?」

滞納者側に罪の意識はない。

「他の人も払ってないなら自分だけ払うのは馬鹿らしい」
「私が悪いんじゃない、時代が悪い、世の中が悪い」

臆せずにそう主張してくる滞納者はごまんといる。しかし田中さんは、動じることなく続ける。

「確かに、払っていないのは○○さんだけではないかもしれません。でも私たちは、○○さんだから入居審査をお通しましたし、お部屋をお貸しました。○○さんを信用してお部屋を貸したのです。なんとか支払っていただくことはできないでしょうか」

どこまでも低姿勢のまま、相手との会話は続いていく。

「払わない人にも事情があります。もしかしたらこの三日、ご飯を食べていないかもしれない。どうしようもない理由から、払えずにいるのもかもしれない。そういう人に払っていないのは悪いことだから払いなさい、というのはあまりにも酷なことです」

あまりにも滞納が長期にわたり、まったく入居者と連絡がつかない場合、警察立ち会いのもと室内に入ることがある。中に入ると、すでに亡くなっていたり、ガリガリに痩せた状態で見つかることも何度もあった。

もぬけの殻となった部屋で解読不能のメモやバラバラにばらまかれた現金、名刺を見たこともあった。今にも入居者の叫びが聞こえてきそうな部屋を見るたび、「なんとか再生する方法はなかったのだうか」と自問自答してきた。

なかなか電話に出てくれない難航案件の入居者の場合、たった一度つながった電話が最初で最後のチャンスになるかもしれない。一度で折り合いをつけ、生活を立て直し、自暴自棄にならないように話すことが大事であって本人を責めることは重要ではない、と田中さんはいう。だからこそ、一度でもつながった電話は、どんな暴言を浴びても自分からは絶対に切らない。

「督促の仕事は後ろ向きに見られがちですが、実は人情を解さないとできません。ですから、自分の仕事は嫌いではありません。それが続けてきた理由です」

保証会社の一般認知度は「約25%」

野口さんや田中さんの仕事は社会から必要とされながら、皮肉なことに、その業務内容への理解は全くといっていいほど進んでいない。

公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が2015年2月に行った実態調査によると、「内容を良く知っている」と答えたのは、わずか3.9%。「ある程度知っている」、「名称を聞いたことがある」を合わせても、全体の24.6%にとどまった。

仕事内容は「きつい、汚い、危険」。これに加えて「嫌われる」まで付いてくるから4Kと言ってもいい。「家賃を払えないならもっと安い物件に移った方がいいですよ」と説得したら、「追い出し屋がきた」と、消費者センターに駆け込まれたという笑えない話もある。

〈家賃債務保証をめぐる消費者からの相談件数〉

引用:国土交通省「家賃債務保証の現状」より

日に日に深刻化する今回のような状態は、非常事態だ。入居者も大変だが、家賃を支払ってほしいと訴えるオーナーも、滞納家賃を請求する保証会社も皆、同じ危険にさらされながら仕事をしている。滞納者保護ばかりに耳目が集まり、保証会社が置き去りのまま議論が進むことはあってはならないと思う。

(Hello News編集部 吉松こころ)

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