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2019.07.18

♯連載♯お墓

「遺体ホテル」に「Amazonで坊さん検索」。様変わりする葬儀の常識と驚きの新スタイル

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生まれた土地で死んでいく。それが当たり前だった時代には、「先祖代々の墓」を一族で代々引き継いでいくことはそれほど難しいことではなかった。

しかし時代は移り変わり、都市部への人口集中や少子化高齢化、おひとりさまの増加などライフスタイルは著しく変化した。その結果、次世代へ墓を承継することが困難な時代に突入していった。

こうした昨今のお墓事情を、葬送業界に精通した終活コラムニスト、星なお美が4回に分けて紹介する。第3回となる今回は、時代と共に変わっていく葬儀の常識やスタイルについて考える。

【著者プロフィール】
終活コラムニスト 星なお美
ライフエンディング関連企業のマーケティング部門に属し、マネージャーとしてメンバーの育成に従事。お墓や葬儀にまつわるデータを活用しながら、業界に精通した立場から女性独自の目線で日本の様々な終活事情に切り込む。

2児の母として子育てに奮闘する傍ら、終活関連コラムの執筆も行っている。趣味は家族旅行、旅先で墓地・霊園の見学をするのも楽しみの一つ。

火葬場不足による変化

高齢社会の次にやってくるのは、多死社会だ。

厚生労働省の調査によると、死亡者数は増加の一途を辿っており、2000年は100万人弱だった年間死亡者数が、2020年には140万人に達すると推測されている。こうなると、次にやってくるのは、火葬場不足という問題だ。

現在、「遺体ホテル」のニーズが急速に高まっている。遺体ホテルとは、葬場に空きがなく、火葬までに日数がかかる場合に、故人を安全に預かってくれる、いわば遺体を宿泊させることができるホテル(遺体置き場)である。

例えば、病院で身内が亡くなると、すぐに病院から遺体の引き取りを頼まれるケースがほとんどだ。すると、残された者は、永遠の別れを惜しむ間もなく、葬儀社を探し、火葬するまでの間、遺体をどこかに運んでおかなくてはならない。

昔であれば、故人が安心できる場所に帰らせてあげたいという思いから、遺体を自宅に運んで安置するケースが多かった。しかし、マンションや賃貸住宅など、自宅に運ぶことが難しいケースが増えたことで、自宅安置を選ぶ人は減少傾向にあるのだ。

そうした理由から、遺体ホテルが人気を集めている。長期間に渡って安置することになってしまっても、室温調整により衛生的に故人を管理してもらえることや、エンバーミングという遺体の防腐処理を行ってもらえることも魅力のひとつである。

葬儀に対する考え方の変化

通常、葬儀は六曜のひとつ、友引に行うことは避けられてきた。縁起の悪い出来事に友を引き寄せると言い伝えられ、友引を定休日とする火葬場も多かったそうだ。しかし、葬儀の需要に対し供給が追い付かないことで、今では友引に稼働する火葬場が増えているという。一昔前なら考えられなかったことである。

また、日本人のライフスタイルや宗教観の変化によって、新たな葬儀スタイルが定着しつつある。

通夜や葬儀を行わず火葬のみを執り行う「直葬」や、通夜を省いて告別式のみを行う「一日葬」、家族や近親者のみで葬儀を行う「家族葬」などを選択する人が増えているのだ。他にも、葬儀は身内で行い、友人や同僚には集めたお別れ会を催すというスタイルも定番になりつつあるという。

地縁血縁の薄れも相まって、一昔前のように100人以上が参列する大規模な葬儀の件数が年々減少しているということからも、時代の変化を窺い知ることができる。

葬儀情報サイト「いい葬儀」によると、2013年の会葬者の平均人数は78人に対し、2017年には67人と、わずか4年で10人以上も減少しているという。

一方、不透明だと言われてきた葬儀費用やお布施については、インターネットの普及も後押しして明瞭化されつつある。

これまでは、お布施について相場感こそあるものの、費用が明確になっていないケースがほとんどだった。そのため、事前に葬儀費用を計算することが難しく、葬儀に掛かる費用が不透明で分かりづらいというイメージが世間に浸透してしまった。

そこで、このような問題を解決するため、葬儀や法要に必要な僧侶をインターネットで手配できる、サービスも出てきた。このサービスでは、「お気持ちで」という曖昧な基準を取っ払い、規模などによって葬儀費用が明瞭化されている。「お車代(交通費)」や「志(お返し)」も不要というのも大きなメリットだ。もちろん、宗派を指定することだって可能だ。

ネット通販大手Amazonでは、「お坊さん便」として全国1,300人の僧侶と提携している。

人生最期の演出を自分でプランニング

葬儀を行う側のスタイルや考え方が変わる一方で、葬儀をされる側の人間、つまり、生きているうちに終活に取り組む人も多くなってきた。

お墓を生前に購入したり、身の回りの整理をしておいたりすることで、死後に家族に迷惑を掛けないことはもちろん、自分らしい最期を迎えるための準備を行っている。

そんな中、生前に自身の葬儀を契約しておくことも珍しいことではないという。自分が元気なうちに生前葬をしたいという声を耳にする機会も増えた。

生前葬なら、どこの会場で、誰を呼んで、どういうお花に囲まれて、どんな音楽をかけ、どういう風に見送ってもらいたいかなど、結婚式や披露宴と同じように主人公の思い通りのプランを生前に決めておくことができる。

一昔前は、生前に自分の死を語ることはタブーとされてきたが、終活という言葉の浸透とともに、自分らしい最期を迎えるための演出を、自らプランニングできる時代が到来したと言えるだろう。

(終活コラムニスト 星なお美)

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