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COLUMN

コラム

2018.06.21

♯民泊・簡易宿所

<前編>地方都市で簡易宿所をスタートして1年の男性が少しずつわかってきたホストの役割

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「こんにちは。いろんな記事を拝見しています。田舎の方で民泊のホストとして数ヵ所運営しています」

熊本市に住むMさんからメッセンジャーにこんなメッセージが送られてきたのは、今年3月のことだった。それ以来、何度かメールのやり取りをしている。その過程でわかったことがある。テレビなどで騒がれたり問題視されている民泊ホストの姿と、実際のそれとの間には少し隔たりがあるのではないか、ということだ。ゲストとの対応に時に悩み、時に発見しながら、民泊経営を軌道に乗せつつあるMさんの日常を紹介する。

1年間で1279人が宿泊

「民泊といいましても、違法でやるような根性はありませんので、簡易宿泊所として許可を受けてやっています。まあ、それが普通だとは思いますが・・・」

Mさんが経営するのは、築38年、2Kの賃貸住宅ふた部屋。定員はひと部屋あたり5名。どちらも簡易宿泊所の許可を得ている。

民泊を始めたのは、1年前。本業は別にあり、熊本市内の医療機関に勤務している。音楽が好きで、熊本や福岡で活動するバンドのプロデューサーの顔も持つ。民泊経営は空いている時間で行ってきたが、最近は不動産を持つオーナーから運営の依頼を受けたり、企画を頼まれることも増えた。6月には中古の一軒家が2棟と、飲食ビルのワンフロアを簡易宿所としてオープンさせる計画だ。

この1年の間で、Mさんの民泊を利用した人は、1279人。(2泊した場合は、2人とカウントしている)。利用者の国籍は、中国(香港) 276人 、中国(台湾) 225人、 日本 190人、 韓国 132人、 フィリピン 128人、 シンガポール 66人、 アメリカ 38人、 中国(マカオ) 33人、 中国 31人 タイ 30人 ドイツ 27人 オーストラリア 20人 フランス 18人 カナダ 15人 マレーシア 14人 イギリス 12人 スペイン 9人 イタリア 8人 オマーン 4人 ギリシャ32人だった。

平均の宿泊数は、1.5泊だが、最長では、28泊した人もいたという。

この1年間で色々なことがわかってきた。

まず、定員についてだが、5〜6、または6〜7人部屋のニーズが高い。

「夫婦、子供2名、おじいちゃん、おばあちゃん」
「夫婦、お父さん、お母さん、おばちゃん、おじちゃん」

など、2世帯、3世帯で泊まりに来る家庭が多いからだ。移動に使用されるミニバンも7人乗りが多いため、部屋もそれに合わせる人数が理想だとわかってきた。

「見ていると、アジア系の人たちは、親孝行で家族の仲がいいんですよ。3世帯が来ると、通常のホテル予約だと、3部屋とか2部屋に分かれてしまったり、禁煙だったり、朝食あり・なしだったり、なんか複雑過ぎるんじゃないかなと思います。民泊は一部屋にみんなで泊まれるし、自炊だとわかっているから探しやすい。基本は2人まで3900円で1人追加されると1700円ずつ加算されます。現在運営中の民泊は合計5人まで泊まれて、清掃費がプラス1700円になります」

意識しているのは、カプセルホテルより安くて、ネットカフェより高いという設定だ。

この1年間の月額平均売り上げは、ふた部屋で32万円。一部屋あたり、15万円から20万円といったところだ。稼働率が98%になるときもあり、賃貸住宅の賃料の3倍、4倍の数字をあげている。

なぜ、Mさんの民泊は評価されているのだろうか。

民泊とホテルの違いは、旅行者が母国を出発する前から旅が始まっていることだと、Mさんはいう。

その点を理解してゲストと接すれば、自然と、ホストととしての好感度は高まるという。

「桜の見頃は?」
「近くで花火大会はある?」
「熊本市内から阿蘇までの高速代金はいくら?」

そんな問い合わせメールがホストであるMさんの元には次々と届く。Mさんはグーグル翻訳を使ってそれらの質問に丁寧に答える。時には「桜の見頃はあと1週間あとだから、どうしても見たいならずらしたほうがいいですよ」ということもある。

タクシー会社と交渉することもある。

入国前に観光場所を聞いておき、事前にタクシー会社と打合せをして料金の見積もりをとる。ゲストの了解が得られれば到着する日に駅や空港に迎えに行ってもらって、そのまま観光地を何カ所か回り最後に民泊まで連れてきてもらう。事前に観光する場所を決めているので、通訳いらずで、ゲストはタクシーのチャーター代金を支払うだけで済む。

困ったこともあった。

外国人向けの高速道路乗り放題パスというのがネクスト西日本のサービスにあったため、「これは喜ばれるサービスだ」と、予約したゲストたちに内容が記載されたURLを教えてあげた。

ところが、「3月の下旬で終わります」という表示を見つけ、慌ててネクスコ西日本に確認すると、「継続の予定ではありますが、現時点ではっきり決まっていません」との回答。

 「終わるなら終わる、続くなら続くとはっきりサイトに書いて欲しい」と1カ月以上電話で訴えたが、うやむやにされるばかり。ゲストから問い合わせが入っても明確に答えることができず、最終的には、サービス終了の可能性が捨てきれないことから、高速道路乗り放題バスがあると教えるのを辞めてしまった。

「おもてなしの国のはずなのに」。Mさんは思ったという。

例え100円の忘れ物でも送金する

「民泊あるある」の一つが落し物だ。

よくあるのがコイン。絨毯の上落ちている。Mさんはそれが例え100円であっても、次の宿泊先へ送るか、Airbnbの送金システムを使って返金しているという。小銭の場合、換金できないことからわざと置いていく可能性もあり、最近は、ユニセフの募金箱を置き始めた。

 

 

モノの場合は、次の宿泊先に送るか、空港のヤマトの営業所に送るという。

近隣住民に対する理解はどのように得ているのだろうか。

Mさんは、住民をむしろ民泊経営に巻き込む、という手法をとっている。具体的には清掃などの業務を、同じ物件に住んでいる人に委託しているのだ。

「簡単にいいますと、その物件に住む住民で子供が小さくて働きにいけない主婦やシングルマザーなどに清掃の依頼をします。時給は近隣のパート時給の1.5番~2倍程度に設定しています。同じマンションやアパート内での作業なので、通勤も楽ですし、清掃する間は部屋に子供を連れてきてもOKとしています」

また、住民には「挨拶手当」なるものも考えている。ゲストが来れば、あいさつをしたり親切にしてもらうようお願いをする。例えば、入り口で迷っているゲストがいれば部屋まで案内するよう、事前に頼んでおく。外国人が多いため簡単な英語は覚えてもらいたいと要請もする。その対価として、住民には、「挨拶手当」、つまり運営協力費を支払う、というものだ。現金の場合もあるし、金券の場合もある。オーナーには空室による損失がなく、通常の賃貸より高稼働が見込めるわけだからと納得してもらうという。

建物の家具や備品はイケアで購入しているが、内装にはそれほど手を加えていない。そのため、ふすまや壁には築38年の歴史が伝わる日焼けやシミがくっきりと残っている。

  

「募集サイトには、潔癖症の方はご遠慮ください、と書いています。隅々までリフォームして綺麗にしたら3700円では到底貸し出せません。価格を安く抑えるためには、やたらお金をかけないことが大事だと思っていますから古さには目をつむってもらいます。万一ゴキブリが出てもそれは旅の思い出、と言ってくださるような人たちが利用していると思います」

Mさんの民泊経営は、奇をてらったことは何もしていない。それでも一般賃貸で貸すより2倍以上の収益を生み出している。取り組みながら改善し、ホストである自分にできることとできないことは、明確に提示してきた。

 

「泊まっていった人からの感謝の手紙?そんなのはないですよ。私たちホストはゲストにとって単なる旅の1ページでしかありません。でもその1ページをよかったな、と思ってもらえる努力は、できる限りしているつもりです」

毎日、ドラマチックな出来事が起こるわけではない。けれど、泊まってくれた人には喜んでもらおうと努める。結果的に熊本や九州を好きになってもらい、観光客が増えれば自分たちの街も潤う。雇用を生むこともできる。そう思うMさんは、今後低価格の簡易宿所を九州圏内に600カ所作る計画を構想中だ。

後半では、Mさんが考える今後の展望と可能性について紹介する。

後編はこちらから

(Hello News編集部 吉松こころ)

(2018年9月6日:一部、加筆・修正を行いました)

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