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2019.06.20

♯シニアビジネス♯お墓

先祖代々の墓が役目を終える「墓じまい」。時代と共に変化するお墓の最新事情レポート

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生まれた土地で死んでいく。それが当たり前だった時代には、「先祖代々の墓」を一族で代々引き継いでいくことはそれほど難しいことではなかった。

しかし時代は移り変わり、都市部への人口集中や少子化高齢化、おひとりさまの増加などライフスタイルは著しく変化した。その結果、次世代へ墓を承継することが困難な時代に突入していった。

こうした昨今のお墓事情を、葬送業界に精通した星なお美が4回に分けて紹介する。第1回となる今回は、現在のお墓事情やトレンドについて考える。

【著者プロフィール】
星なお美
ライフエンディング関連企業のマーケティング部門に属し、マネージャーとしてメンバーの育成に従事。お墓や葬儀にまつわるデータを活用しながら、業界に精通した立場から女性独自の目線で日本の様々な終活事情に切り込む。

2児の母として子育てに奮闘する傍ら、終活関連コラムの執筆も行っている。趣味は家族旅行、旅先で墓地・霊園の見学をするのも楽しみの一つ。

日本のお墓の象徴「先祖代々の墓」

日本のお墓の象徴とも言える「先祖代々の墓」が建てられるようになったのは江戸中期で、それまではお墓を持てるのは権力者や武士などごく一部の富裕層だった。

しかし、明治時代に制定された「家制度」と同時期に、死者の葬法として「火葬」が一般的になったことで、庶民にも 「先祖代々の墓」が普及したと言われている。

この「先祖代々の墓」は、承継により次の代にそのお墓を引き継いでいく必要がある。

ところが、今の日本では進学や就職のタイミングで生まれ育った土地を離れて都市部に出ていくと、たいていの場合、その地で自分の家族を持つことになり、生まれ故郷に戻ることが困難になった。そのため、「先祖代々の墓」の管理や承継をどうするか頭を悩ませる人が増えているのが現状だ。

少子化、未婚率の増加がもたらすお墓の跡継ぎ問題

近年、未婚率の増加や、少子化など様々な影響から単独世帯数が増加している。平成27年に行われた国勢調査によると、単独世帯は1841万7922世帯で、一般世帯の34.6%を占めている。これは、日本の世帯の3軒の1軒が“おひとりさま”ということになる。

おひとりさまといっても、未婚で一人暮らしの若者から高齢者まで幅広いが、特に65歳以上の単独世帯数の増加が顕著である。定年を迎え「終活」を意識しはじめるシニア世代にとって、お墓の問題は他人事ではない。

加えて、自身が長男や一人っ子の場合は「先祖代々のお墓」をどうするかという問題はもちろんだが、自身の死後に入るお墓をどうするかという問題とも向き合わなければならなくなる。また、先祖代々の墓は、どんなに長く受け継がれてきたお墓であっても、承継者がいなくなると、永代使用権が取り消され「無縁墓」になってしまうのである。そうなると、いずれ霊園管理者がお墓に入っている遺骨を合祀し、墓石を撤去し墓地は更地に戻され、お墓そのものがなくなることになるのだ。

※永代使用権とは…永代使用料を支払うことで獲得できる墓地の土地を永代にわたって使用するための権利

無縁墓にさせないための「墓じまい」や「お墓の引っ越し」

お墓の後継ぎがいない場合、自分の代で先祖代々の墓がなくなってしまうのは、ご先祖様に申し訳ないと感じる人は少なくない。

一方で、跡継ぎに恵まれて次の代にお墓を承継できたとしても、居住地から離れた土地にあったり、会ったこともない先祖だったりすると、跡を継いだお墓を今後も担っていくことは、重荷になってしまう可能性もあるだろう。さらに、遠方への墓参りや墓掃除、管理費も負担しなければならないならなおさらである。

このようなケースでは、次世代に問題を先送りしているだけなのかもしれない。

こうした背景から、無縁墓になる前に遺骨を取り出し、墓を解体する「墓じまい(改葬)」を選択する人が増えている。

厚生労働省が発表した行政衛生報告例では、2016年度の改葬件数は97,317件だった。

墓じまい(改葬)には、遺骨の移動先が必要になるが、近年お墓の選択肢は増えていて、承継者不在でもお墓を永代にわたって供養してもらえる永代供養のお墓も増えている。

永代供養墓の中には、合祀タイプと呼ばれる他人の遺骨と一緒に納骨されるものや、見た目は先祖代々のお墓と同じような形のお墓で、個別に遺骨を管理するタイプもある。また、遺骨の移動先はお墓だけでなく、海洋散骨という手法も注目されている。

※永代供養とは…永代供養料を支払うことで、寺院や霊園などが供養と管理を永代に渡って行ってもらえる

ライフスタイルとともに多様化するお墓

「先祖代々の墓」が浸透した頃と今では、ライフスタイルが大きく変化している。昔ながらのお墓の持ち方や形式が時代に合わなくなった。それに伴い、寺院が檀家の総裁供養を執り行う檀家制度に疑問を感じ、世代交代のタイミングで離檀するケースが増加傾向にある。

また、ペットが家族として扱われるようになり、人とペットが一緒に入れるお墓も増えてきた。他にも、身寄りのないおひとりさまが生前に契約しておくと、死亡届の提出から火葬、納骨までをサポートしてくれる生前契約サービスなども登場している。血縁関係がなくても友達や同性カップルで入れるお墓や、ふるさと納税で墓参りを代行してくれるサービスもある。

ライフスタイルの多様化に伴って、時代にフィットするようお墓はそのフォルムや在り方を変えているのだろう。

(ライター 星なお美)

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