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2021.06.10
♯賃貸経営
「賃貸住宅等の管理業務の適正化に関する法律」(以下、賃貸住宅管理業法)における賃貸住宅管理業の登録制度に係る部分の施行が、来週に迫った。
この1カ月、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会には、登録方法や制度の内容に対する質問がひっきりなしに来ていて、朝から夕方まで相談員は電話にかかりきりだったという。関係者によると、想定を超えた質問も多く、その都度、国交省に確認をとりながら回答しているそうだ。法務部門が整っているような大手管理会社からの問い合わせも多いようで、法律に則った業務を行うため、各社が神経を尖らせている証といえる。
「賃貸住宅管理業法」制定の背景には、「賃貸住宅が生活の基盤としての重要性を増している」という、喜ばしい実態がある。
私が新卒で賃貸業界の業界新聞に入社した頃、業界にはこんな風聞があった。
「親戚縁者の前で名刺を出すな」
不動産業界で働いていることを誇りに思えない時代があったのだ。
大きな金額が動くだけに、トラブルや詐欺が起きやすい。記憶に新しいところでは、約56億円の詐欺にあった積水ハウスの「地面師」事件や、多数のサラリーマン投資家が関わった「かぼちゃの馬車」事件もあった。後者は投資家の勉強不足が問題だと思うが、それにしても「不動産はわかりにくい」「専門用語が多い」という点を巧妙に使って騙そうとする人たちが多いのは否定できない。
今でも時に不動産会社が「不動産屋」と呼ばれてしまうのでは、「周旋屋」と言われた名残と、こうした悪い過去の記憶が残るからだろう。
今回の法律施行は、そんな賃貸業界に光を差している。
管理業は、入居者トラブルや家賃滞納など、時にクレーム産業と呼ばれるほど大変な仕事だ。
一方で、暮らしを支え、人生の節目節目、転機に訪れる家探しを手伝うエッセンシャルな仕事でもある。コロナ禍にあっては、人が長い時間を過ごす場所、家を支える「命の産業」、という人もいた。
今年3月、「人生フルーツ」という映画を見た。
スターツの創業者で、現会長の村石久二さんが奨めてくれた映画だ。
「人生フルーツ」の公式パンフレット
経済合理性を追う世の中にあって、自分で作った家と雑木林、畑の中で、食べ物や自然、命に感謝をしながら自給自足の暮らしをする建築家、津端修一さんとその妻英子さんの生活をおったドキュメンタリー映画だ。
持ち家と賃貸と違いがあっても、私たちの暮らしは、家とは切っても切れず、家は喜びも悲しも全てを飲み込んでくれる場所であり、生きていく場所なのだと思わされた。
映画の中で、
「家は、暮らしの宝石箱でなくてはいけない」
という、ル・コルビュジエの言葉が、数回語られる。
ル・ロルビュジェ(1887〜1965)
スイスで生まれ、主にフランンスで活躍した建築家。フランク・ロイド・ライド、ミース・ファン・デル・ローエと共に「近代建築の三大巨匠」と言われる。
家は、宝石箱なんだなあ。
そう考えると、建築や不動産に関わる人たちの仕事は、社会の宝を扱う仕事なんだなあと思わされた。
「衣食足りて礼節を知る」という言葉があるが、私は「衣食住足りて・・・」だと思っている。
人間は家が整わなければ心が疲れる。安心してぐっすり眠る場所がなければ、体も健康ではなくなる。「住」が確保されて初めて心身は安定する。
家を供給し、管理する仕事というのは、そこに住む人々の人生に関わる仕事だ。
人の記憶と家の思い出はいつも近くにあって、懐かしい祖父母や家族、何かに打ち込んだ時代ときの自分、失恋して泣いた日のことも、思い出すのはその時住んでいた家とひとまとまり。
そんな家を支える不動産業界が、これからもますます健全に明るく発展していってほしいと願っている。
HelloNews編集部 吉松こころ
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