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2019.02.28

♯シニアビジネス♯連載♯インタビュー

「高齢者だってマックのポテトが食べたい」外食宅配事業に挑む、スリーフォレスト三森智仁社長インタビュー

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私たちは、これまでに世界の誰も経験したことのない超高齢社会を生きている。シニア関連のビジネスは、この数年で急拡大したが、その多くが手探りで次の道を摸索中だ。

シニアビジネスの取材を続ける「シニアビジネス取材班」は、業界で生きる経営者たちの元を年間300社以上訪れ、その声に耳を傾ける。国の制度に縛られながらも、新しい価値を生み出そうともがく介護の担い手たち。それを支える周辺の起業家たち。その心の叫びを取材し、連載で紹介していく。

第一弾となる今回は株式会社スリーフォレストの代表取締役、三森智仁さんへのインタビュー。全国チェーン「大戸屋」の創業家長男として生まれながら、経営陣との対立により大戸屋を去った男が目指す世界とは何か。

高齢者、介護事業者、外食店舗、三方よしの外食宅配サービスを展開

高齢者施設と外食店舗を繋ぐwebサービス「ハッピーテーブル」を昨年4月にスタートしたのは、スリーフォレスト(東京都新宿区)の三森智仁社長だ。彼は、国内外で定食チェーンを展開する「大戸屋」の創業家一族だったが、現経営陣らとの対立。2016年、一人大戸屋を去った。現在は、自らが立ち上げたハッピーテーブルに全精力を注ぎ、高齢者施設の利用者・入居者の注文、及び外食店舗の配達を介護事業者が担うというまったく新しい発想の外食宅配プラットフォームで、先行するUber EATSや出前館などがリーチできなかった市場を開拓している。サービスの詳細や今後の展望などを三森智仁社長に聞いた。

株式会社スリーフォレスト(東京都新宿区)
三森智仁 代表取締役

生年月日:1989年3月9日(29歳)
2011年、中央大学法学部卒業。同年、三菱UFJ信託銀行に入行、本店営業部へ配属。2013年に大戸屋ホールディングス入社。店舗スタッフから店長、執行役員を経て、2015年に常務取締役に就任。2016年2月に退任。現在に至る。

 ――サービス内容を教えてください。

ハッピーテーブルは簡単に言えば出前の注文を受け付けるプラットフォームです。誰もが知るような吉野家やてんやなど、ナショナルチェーンの外食店舗のメニューを揃えています。ハッピーテーブルを使ってメニューを注文するのは、デイサービスや有料老人ホーム、特別養護老人ホームなどの高齢者施設利用者・入居者の方です。専用ブラウザを高齢者施設のPCにインストールすると、施設の近隣にある外食店舗が画面に表示され、その中から好きなメニューを選ぶことができます。

 ――高齢者施設の利用者は80代が中心と聞きます。スマートフォンやパソコンに不慣れな方も多いのでは?

基本的には高齢者施設スタッフの方が、利用者・入居者の注文を聞き取り、発注を代行します。数量や受け取り日時を指定して発注し、当日店舗まで商品を受け取りに行く形になります。

 ――高齢者や介護事業者側のメリットはなんでしょう?

一般的な外食の宅配では価格に配達料が上乗せされていたり、注文額がいくら以上などといった縛りがあったりします。ハッピーテーブルの場合は料金上乗せなどをなくし、すべて店頭価格で購入することが可能です。また、介護事業者には注文・配達代行を行ってもらいますので、当社から手数料をお支払いしています。近隣の外食店舗であれば、車の往復で30分以内で済むケースがほとんどです。

また、高齢者施設スタッフが自分や家族の分として注文した場合は店頭価格から10%程度の割引価格で購入することができるため、導入施設にとってはスタッフの福利厚生にもなります。

 ――現在の利用施設はどのくらいですか。

この1年は取り扱いブランド拡充のために外食チェーンの開拓と利用していただく高齢者施設の営業など、飛躍のための下地作りに奔走していました。サービス利用契約済みの介護事業者は大手・中堅を中心に30社。その傘下には多数の施設があり、約10万人の利用者・入居者がいます。今はテスト的に数十の施設で利用してもらっていますが、おおむね好評を博しています。2019年中には一気に利用施設を拡大できると考えています。

“衣食住”すべての面で高齢者の役に立ちたい

 ――このサービスを始めたきっかけを教えてください。

かつて私が大戸屋の店舗で働いていた時に、毎日のように来店していた高齢の女性が突然「今日は食べ納めに来ました」と言うのです。理由を尋ねると、高齢者施設へ入居することになったため、もうこのお店に通うことができないとのことでした。その時の女性の残念そうな表情は今でも忘れることができません。また、私の祖母も晩年は高齢者施設で暮らしていましたが、家族に「マクドナルドのポテトを買ってきて」とよくリクエストしていました。一般的に高齢者は脂っこいものよりさっぱりしたものを、肉よりは魚を、などと勝手なイメージを持ってしまいがちですが、実際はそんなことはないのです。いくつになっても、「食べたいときに食べたいものを」、そんな当たり前の状況をつくっていこうという想いがハッピーテーブルを始めたきっかです。

 ――既存の宅配業界をどうみていますか?

「1人1社」を結ぶオーダーメイド型の仕組みでは、運び手の確保という観点から人件費の高騰などの影響を受けやすくなります。こうしたシェアリングデリバリー各社のビジネスモデルの限界をむやみに外食企業や消費者に転嫁して、商品の価格を上げるのは違うのかなと。そこは新たな仕組みやイノベーションで解決を図っていきたい、いかなくてはならないという想いがあります。一方で、今年消費増税という大きな転換期を迎える外食産業としては、軽減税率が適用となる宅配に力を入れていくという点について消費者目線で注目を浴びることになると考えます。

 ――高齢者施設との関係づくりのスピードが早いと聞きます。

私は元々外食産業の出身でしたので、外食の知見や人脈はある程度ありましたが、介護業界はまったくの素人です。右も左もわからない状態でしたので、電話でアポイントを取ったり飛び込み営業をしたりと、とにかく色々な施設へ実際に足を運びました。また、業界の勉強会や交流会などにも積極的に参加し関係を構築してきました。

そこで気付いたのは、介護業界は効率性や金銭的なメリットだけではなく、そのサービスが「高齢者の幸せに繋がるのか」を真剣に考えている方が多くいることです。そうした想いを理解しなければ関係つくりは難しい業界だと思います。

 ――展望を教えてください。

まずはハッピーテーブルを全国に広げていきます。2020年までに1都3県、大阪、兵庫、愛知、福岡、北海道など11都市、100万人の利用が目標です。すでに相当数の高齢者施設を傘下に持つ法人とは契約を締結していますので、無理のない数字だと考えています。さらに、多店舗化している外食チェーンだけではなく、その地域にしかないお店も順次メニューに加えていきます。この4月からは在宅サービス用のアプリもローンチを予定しており、これで全てのお客様にリーチすることが可能となります。

また、この「プラットフォーム」を使ってドラッグストアやスーパーなどの日用品を流通させる事業にも着手しています。現段階で詳細は明かせませんが、当社のプラットフォームを使って高齢者施設の物品購入を効率化する仕組みです。”食“からスタートを切りましたが、“衣食住”全ての面でお役立てできる様に事業展開を進めていきます。

父の「志」なくした会社に用はない

三森さんの父、久実さんは定食屋「大戸屋」を多店舗化し、上場させた。日本国内のみならず、アジア・米国にも店舗を拡大させた経営者として知られるが、2015年7月、57歳の若さでこの世を去った。三森さんはその長男だ。元々、家業を継ぐことは考えておらず、生前、久実さんも「自分の好きなことをやれ」と話し、継げとは一度も言われたことはないという。しかし、大学時代に久実さんと一緒にニューヨークの日本食レストランで生姜焼きを食べた後、「勝てるな」と言った父親の言葉に衝撃を受け、いつか父親と働いてみたいと思うようになった。

大学卒業後は三菱UFJ信託銀行に入行。リテール部門ではトップクラスの成績を残した。もし不甲斐ない結果であれば、「ただのボンボン」と罵られていたかもしれない。

2013年に大戸屋ホールディングスに入社。店舗での実務を経て、執行役員、常務取締役海外事業本部長へと駆け上がる。しかし、2015年に久実さんが急逝。直後、現経営陣らは久実さんが進めていた海外展開や植物工場などを「負の遺産」と表現するなど、これまでの路線を否定するような発言が目立つようになる。さらに功労金(原資は死亡保険金のため会社の負担は見込まれなかった)の支払いなどを巡り対立が勃発。すでにその時の大戸屋には、尊敬する経営者であり父親である久実さんの思想は残されていなかった。

晩年、久実さんはがんに侵されながらも命と引き換えに海外出張を繰り返し、なおも日本の味を世界に広げようと奔走していた。ともに歩み、誰よりもその想いを承継している三森さんは、久実さんが築き上げてきた「志」なき大戸屋を去ることを決意した。

「会社を尊敬していたわけではなく、創業者が遺した理念を具現化していく会社でその一翼を担いたかった。もっとストレートに言えば身の保身だけのために自分に嘘をつきたくなかった」。退任を決めた時の三森さんの思いだ。

20代にして大きな挫折を経験するが、今はその志をスリーフォレストにかける。

スマホを使いこなす世代と違い、高齢者はIT弱者。要介護状態になれば店に行くことさえままならない。宅配の注文ができたとしても、現状の仕組みでは定価に配達料金が上乗せされてしまう。「同じ食事でありながら、なぜ高齢者は高い料金を払わなければならないのか」。ハッピーテーブルの原点はこんな想いにある。

銀行時代のリテール営業で養ったフットワークで、自ら高齢者施設に飛び込み営業も行う。何よりも父親譲りの「志」が相手の心をくすぐる。その志に共感し、ハッピーテーブルの普及を支援する介護事業経営者は少なくない。営業開始からたった1年で大手・中堅の高齢者施設運営会社と次々に契約を締結。他の介護業界のサプライヤーが羨むスピードだ。

とはいえ、高齢者施設で外食を頼むのは現状として月に2、3回。同社の1食あたりの利益は少なく、ビジネスとして成立させるにはまだまだ食数が足りない。

「自分の社会的使命に基づいて、一人でも多くの方が幸せな気持ちで利用いただける顧客目線のインフラに育てていきたい」(三森さん)

さらなる利用施設の拡大に向け、普及のスピードを上げる必要がある。

(ライター シニアビジネス取材班)

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