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2019.07.25

♯連載♯お墓

時代に合わせて広がる選択肢。供養の新しいカタチ

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生まれた土地で死んでいく。それが当たり前だった時代には、「先祖代々の墓」を一族で代々引き継いでいくことはそれほど難しいことではなかった。

しかし時代は移り変わり、都市部への人口集中や少子化高齢化、おひとりさまの増加などライフスタイルは著しく変化した。その結果、次世代へ墓を承継することが困難な時代に突入していった。

こうした昨今のお墓事情を、葬送業界に精通した終活コラムニスト、星なお美が4回に分けて紹介する。最終回となる今回は、供養のカタチについて考える。

【著者プロフィール】
終活コラムニスト 星なお美
ライフエンディング関連企業のマーケティング部門に属し、マネージャーとしてメンバーの育成に従事。お墓や葬儀にまつわるデータを活用しながら、業界に精通した立場から女性独自の目線で日本の様々な終活事情に切り込む。

2児の母として子育てに奮闘する傍ら、終活関連コラムの執筆も行っている。趣味は家族旅行、旅先で墓地・霊園の見学をするのも楽しみの一つ。

仏壇は縮小化・モダン化傾向に

元来、仏壇とは、ご本尊を安置して礼拝供養するための「家の中にある小さなお寺」という役割を持ち、故人の魂を慰めたり、故人とのつながりを感じたりなど、故人と対話ができる場所として人々に大切にされてきた。

しかし、住環境やライフスタイルの変化に伴って、供養のカタチは大きく変わり、供養の選択肢が多様化してきている。

その代表的な例として、仏壇のサイズが挙げられる。従来は、仏間でひときわ存在感を放つ大型の床置き型仏壇が主流だった。しかし最近では、住居の狭小化や西洋化に伴って、リビングや寝室にマッチする小型でモダンなデザインが人気を集めている。

仏壇専門情報サイト「いい仏壇」の調査結果によると、一番人気の仏壇は、テレビボードなどの家具の上に設置できる上置き型のミニ仏壇だという。和室が減り、フローリングに調和する仏壇のニーズが増加したためだ。他にも、液晶に遺灰や遺影を表示し、読経までこなすデジタル仏壇や、まるでインテリアのような壁掛け仏壇が話題を集めている。近年では、リフォームや引っ越しに合わせて、昔ながらの大きな仏壇からの買換え需要が高まっているそうだ。

また、仏壇とセットで購入されることの多い位牌は、故人や先祖の魂が宿ると言われることから、故人の依代(よりしろ)として仏壇に安置するのが一般的である。有事の際、とりあえず位牌だけを持って避難するというのはよく耳にする話だ。

しかし多様化が進む今では、仏壇を設置せずに位牌だけを奉る人も多いという。仏壇に比べると携帯性が高く、どこにでも置けるサイズ感がちょうど良いと感じる人が多いからだ。

「自宅に仏壇を置かない」という選択肢

供養の方法は仏壇に手を合わせることだけではない。仏壇に代わる新しい供養のカタチとして「手元供養」が人気だ。


写真提供:手元供養専門店 天王寺 ほうじょう

手元供養とは、小さな骨壺に遺骨の一部を分骨して入れ、インテリアの一部として自宅に飾っておく方法だ。仏壇と比べて場所を取らないだけなく、お墓を購入しなくても合法的に自宅で遺骨を弔えるのがメリットである。

大切な家族やペットの遺骨などから作る「納骨ペンダント」や「遺骨アクセサリー」も注目を集めている。


写真提供:手元供養専門店 天王寺 ほうじょう

これは、大切な人の遺骨をアクセサリーとして肌身離さず身に着けることができるというもの。故人がいつもそばで見守ってくれるよう気持ちになるそうだ。故人を偲び、対話するという仏壇が担ってきた役目を十分に果たしてくれる、実に画期的な供養方法といえる。

一方、納骨堂を利用した供養方法もある。納骨堂では、永代使用料や年間管理費などの費用はかかるが、お墓はもちろん、自宅に仏壇や仏具すら置かなくても故人を供養できるため、現代人のライフスタイルに合っていることから人気となっている。また、室内がバリアフリー構造になっていたり、天候に左右されることがなかったり、草むしりや墓掃除、虫に刺されたりする心配がないことも利用者が増加している理由である。


写真提供:麻布十番ゆめみどう

利用方法は、建物内の参拝スペースでカードキーをかざすと、故人の遺骨が共用の墓石の前に搬送されてくるという仕組みだ。プライバシーが守られた空間で、遺骨と墓石を前に故人とゆっくりと対話ができる。

また、なにより便利なのは、納骨堂の多くは生活圏にあって駅近でアクセスが良く、思い立ったらすぐにお墓参りをすることができることだ。お出かけついでに納骨堂を訪れ、手を合わせることができるので、頻繁に納骨堂に通う人もいる。

進む仏壇離れ

昔ながらの日本家屋には、仏間と呼ばれる部屋があり、そこには必ずと言っていいほど、存在感のある大型の仏壇が飾られていた。しかし、核家族化が進んだことに加えて、西洋風の家や集合住宅に住む人が増え、「従来の仏壇がリビングに調和しない」「置き場がない」などの理由から、仏壇を設置する家は減少傾向にある。

仏壇メーカーの株式会社インブルームス(静岡県静岡市)が2013年に発表した「仏壇に関する意識調査」によると、仏壇のある家は全体の4割弱だという。中でも、一戸建ての過半数が「仏壇がある」と回答したのに対し、マンションなどの集合住宅に住む人の約8割は「仏壇がない」と回答した。

仏壇のある家が減少傾向にあるのは、住宅事情による影響が大きいとはいえ、信仰心や葬祭への意識が一昔前と比べて薄れているのも事実である。

とはいえ、これまで先祖代々のお墓を守り続けてきた日本人のアイデンティティは、そう簡単に失われるものではない。昔ながらの供養のカタチが時代に合わせて変化しただけで、故人とのつながりを大事にし、故人を想い、偲ぶ気持ちは今も昔も変わることはないだろうと私は考える。

終活において大切なこと

先月から4回にわたって、昨今のお墓事情について紹介してきた。

しかし、これらの供養は、死後に必要な手続きに過ぎない。私たちは今、生きているのだから、今のうちに考えておいたほうが良いことにも目を向ける必要がある。

例えば、健康のことや老後の資金のこと、趣味や生きがいを持つこと、病気になった時や介護が必要になった時に自分がどうありたいか、家族のためにどうしたいか、生前贈与や遺言書を含む相続はどうするべきかなど、やるべきことは山ほどある。

そう考えると、人生の終わりを考える、すなわち自分の「死生観」をしっかりと確立することで、残りの人生がより良いものになり、自分らしい人生の総仕上げと相成るのではないだろうか。

(終活コラムニスト 星なお美)

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