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2019.03.18

♯女性の働き方を考える♯インタビュー

【後編】39歳からの再出発。パート勤務から始まったホームステージング協会設立への道

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前回(3月7日号)に続き、日本ホームステージング協会(東京都江東区)を立ち上げた杉之原冨士子さんへのインタビュー第2弾。ホームステージングに出会った経緯などを聞いた。

前編はこちら⇒【前編】39歳からの再出発。パート勤務から始まったホームステージング協会設立への道

自費出版の本が大反響

サマンサネットが提供する梱包サービスの利用者は7割が高齢者で、その依頼理由は十人十色だった。荷物が多い、遺品整理、生前整理、高齢者住宅や二世帯住宅に移るため荷物を整理したいなど。共通していたのは、ライフスタイルが変わるタイミングで依頼して来ることだと、時間が経つにつれ分かってきた。

中でも深刻だと感じたのが、遺品整理のケース。出向くとゴミ屋敷状態になっていることがたびたびあった。依頼主は、相続人である息子、娘たちで、故人が残した家をどのように対応すれば良いか分からずお手上げ状態になっていた。

このような状況を目の当たりにするうちに、

「今後、高齢化が進み、親の家の整理ができない事態は増え続けるのではないか。多くの人にこの現状を知らせなくてはならない」と強く感じるようになったという。

小さな会社が世の中に打って出ていくにあたり、何が最適な方法かと考え抜いた結果、たどり着いた答えは、自費出版で本を出すことだった。本を出すと決めてから出版までの6カ月間、今まで現場で起きたことを詳細にまとめたあげた。一緒に働いていた社員も加わり事例を綴っていった。

2013年に出版した『片付かない!どうする我が家、親の家』の本は、大ヒット。

一般書店だけでなく、全国の小中学校の図書室や図書館にも並んだ。これに目をつけたNHKの「あさイチ」から出演依頼がきたのをきっかけに、「ワールドビジネスサテライト」や雑誌の取材が次々と舞い込んだ。発行部数は、3,000部ほどとなった。

「思いも寄らないことでした。『親の家』というキーワードが時代にマッチし、世の中の注目を集めたのだと思います」と杉之原さんは当時を振り返る。

ホームステージングと出会い、協会設立

そんなある日、1件の依頼がきた。

「住んでいる家を売却したいのだが、片付ける時間がない。購入希望者が内見にやってくる日は決まっているのから、その日までに売れるように片付けてほしい」

働く女性から切羽詰まった依頼だった。

「売れる片付け????」

と思いながらも、試行錯誤し、何とかその希望に答えた。その結果、女性から「とても素晴らしい出来映えですぐに売却が決まりました。このプランはニーズがあるから商品として売り出したら売れるわよ!!!」と、称賛の言葉をもらったのだ。

さっそく、「片付けられない人へ片付けをお手伝いします」といった内容のチラシを作り、取引会社に配って回った。しかし、なかなか依頼は来ない。

ワケを問うと、

「“片付けられない人”にこのチラシを渡すことはできません。そのお客様が“片付けられない人”だと言っているようなものだから」という回答が取引会社から返ってきた。

その言葉を聞いた時、ハッと気がつかされた。“片付けられない人”という表現では、マイナスイメージになってしまう。イメージアップできる他のキーワードはないものだろうかと、また、一からのスタートだった。

いろいろと模索中に辿り着いたのがアメリカから発信されていた一つのサイトだった。それは、「ホームステージング」を紹介したサイトだった。売却中の部屋にすてきな家具やおしゃれな小物を配置して、「この家を購入したら、こんな暮らしができる」というイメージを掻き立てる魅力的な部屋の写真が大きく紹介されていた。

「私たちがやっていたのはこれだ!!ホームステージングだったんだ」

ドーンと雷が撃たれたような衝撃を受けたという。これがホームステージングをサービスとして売り出すきっかけとなった。

日本独自の定義を打ち出す

しかし、当然ながら当時ホームステージングという言葉は、日本では知られていない。次は、どのようにして広めるかがネックとなった。一事業者が、ホームステージングをする、と声をあげても広まらないと考えた杉之原さんは、ホームステージングという言葉を知ってもらうために、一般社団法人日本ホームステージング協会の設立を決意した。そして、たくさんの現場を実際に見て、感じてきた、住まいに関する様々な問題を専門知識と技術で解決し、住まいの価値や暮らしの質を高めるという日本独自のホームステージングの普及に全力を尽くすべく立ち上がった。

さらに「サマンサネット」で培ってきた現場の技術、スキルを体系化して認定資格としてホームステージングができる人材「ホームステージャー」を育成することで、広く早く世の中の役に立っていく道筋を考えた。

「実は、アメリカのホームステージングの考え方をそのまま持ってきたわけではないのです。私たちがやってきた現場でのスキルを日本の住環境や人々のライフステージの変化に合わせて体系化したものが日本のホームステージングで、日本独自のホームステージングになっています。日本では、北から南まで、その地域ごとの特性に見合ったホームステージングが必要であることも分かってきたので、今では日本全国で認定講座を開催できるようにしました」

高齢者問題の解決策に

今年、協会で注目していきたいのは、高齢者の住まいと暮らしに関わることだ。

「日本の社会問題である高齢者住宅の課題の解決策としてホームステージングを役に立てていきたい」(杉之原さん)

高齢者向け住宅などに見学に行くと殺風景な室内に出くわすことがある。これから生活する住まいとして、良いイメージを与えるには、綺麗にしておくことはもちろんだが、その後の暮らしがイメージできるような小物を置いたり、香りを演出したりすることも大切だ。それだけで、印象は大きく変えることができるのだ。

政府が進めている在宅介護にも注目している。在宅介護をしていくためには、介護ベッドとトイレを設置する。そのためには、部屋の中にそのスペースを確保するために、片付けが必要となってくる。そのサポートをしていく考えだ。

「自宅や高齢者住宅で寝たきりになっても、『ここに住んでいてよかったな』と思う潤いや安らぎが必要です。ライフステージごとにホームステージングができるホームステージャーが相談に乗れる仕組みが構築できたらいいなと考えています。結婚、育児、リタイア、高齢者……どのような場面でも、寄り添って相談にのれるのがホームステージャーです」と杉之原さんは笑顔で語った。

23年前に主婦から一念発起し、協会設立を成し遂げた杉之原さん。営業の現場に飛び込み、自分の目で見聞きし、遭遇した問題の解決、利用者の満足度向上や要望に応えるために邁進してきた。杉之原さんの課題を見つけて、それを解決しようとする行動力今後、様々な場面でホームステージングが利用される機会を増やしていくだろう。

前編はこちら⇒【前編】39歳からの再出発。パート勤務から始まったホームステージング協会設立への道

(Hello News編集部 山口晶子)

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