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COLUMN

コラム

2019.04.25

♯シニアビジネス♯連載

年間700カ所が休廃業となる訪問看護業界で、拠点を拡大し続けている2つの理由

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私たちは、これまでに世界の誰も経験したことのない超高齢社会を生きている。シニア関連のビジネスは、この数年で急拡大したが、その多くが手探りで次の道を摸索中だ。

シニアビジネスの取材を続ける「シニアビジネス取材班」は、業界で生きる経営者たちの元を年間300社以上訪れ、その声に耳を傾ける。国の制度に縛られながらも、新しい価値を生み出そうともがく介護の担い手たち。それを支える周辺の起業家たち。その心の叫びを取材し、毎週第4木曜日の定期連載で紹介していく。

第三弾となる今回は、Recovery International(リカバリーインターナショナル)株式会社代表取締役大河原峻さんのインタビューだ。経営の難しさから開業数が伸びない訪問看護業界において、なぜ独立系ながら全国6ヶ所に展開することができたのか、その理由を語る。

Recovery International株式会社(東京都新宿区)
代表取締役 大河原峻
生年月日:1983年10月9日生まれ
2005年に看護師免許取得後、榛原総合病院(静岡県)にて手術室・救急外来に従事する。
その後、沖縄の豊見城病院・ICU(集中治療室)での勤務を経て、2012年、海外ボランティアに参学。帰国後、2013年11月、Recovery Internationalを東京都新宿区に設立した。

家族みんなで看取るが当たり前

地域包括ケアシステムの要と目される「訪問看護」は、高齢者の在宅生活を支える重要な役割を期待されている。しかし実際には、多店舗化できているのは大手介護事業者や大手医療・社会福祉法人などに限られ、経営の難しさから年間開業数に対して半数以上が廃業・休止に迫られているのが実態だ。そんな中、独立系ながら東京を拠点に全国6カ所で訪問看護ステーションを展開するのが、Recovery Internationalだ。いかにして拡大してきたのか。大河原峻社長に話を聞いた。

 ――大河原さんが看護師を目指したのはなぜですか。また訪問看護の分野で働こうと思ったきっかけを教えてください。

中学校の授業で青年海外協力隊の活躍を知って、自分も医療で人の役に立つ仕事がしたいと思ったことがきっかけです。

看護師資格を取得後、総合病院の救急外来やICUなどで勤務しました。海外で働いてみたいという考えもあったので27歳の時に一度退職し、オーストラリアへ留学しました。その後もアジア各国でボランティア活動に携わったのですが、その時に受けた衝撃が今の仕事に繋がっています。

アジアでは、所得が低く、医療や介護が充分に整備されていないという理由もありますが、介護が必要になった高齢者は家で家族みんなが面倒をみるという光景が普通にありました。

「家族なんだから当たり前だ」と笑顔で話す姿に、日本の実情とこんなにも違うのかと驚きました。これは私の看護観を変えた出来事でした。

日本では本人の意思とは関係なく、最期はほとんどの人が病院で迎えます。

「住み慣れた自宅で最期まで普通に暮らしたいと願う人をサポートしたい」と強く思うようになりました。

 ――現在の事業規模は?

2012年に帰国し、翌年に新宿で訪問看護ステーションを開業しました。現在、新宿のほか、静岡県、兵庫県、高知県、福岡県、沖縄県にもステーションを展開しています。ステーションの近くに構えるサテライト事業所は6カ所になります。スタッフは110名、患者数は約1000名程度となっています。

 ――訪問看護のニーズは高いのでしょうか。

高齢化率は27%を超え、さらに総人口に占める後期高齢者(75歳以上)の割合も13.8%となっています。2025年には団塊世代がすべて後期高齢者に差し掛かります。さらに核家族化が進み、家族が面倒をみられない日本では、何かしらの疾病を抱え、自ら病院に通うことが難しくなった高齢者には医療的処置ができる訪問看護は必要不可欠なサービスです。

私が開業した2013年は、介護保険制度がスタートして10年以上経過していましたが、訪問看護ステーションについてはまだまだ普及していませんでした。今でこそ全体で1万カ所ほどになっていますが、当時は6000を超える程度だったと思います。ニーズはあるけど数が増えていかないという状況にありました。

 ――ニーズがありながら数が増えていかなかった理由は何ですか。

理由の一つに、現役の看護師がキャリアを構築していく過程で、「訪問看護」が本流になかったことが挙げられます。

看護師資格を取ったら病院に勤務しキャリアアップを目指すか、結婚や出産で一度退職してクリニックなどに復帰するといったケースが多いと思います。働く先として訪問看護が選択肢に入っていなかったことがあります。

最近は看護学校でも訪問看護について学ぶ機会がありますが、私が学生時代は訪問看護についての授業はほとんどなかったことを考えれば致し方無いのかもしれません。最近はようやく若い看護師に中にも訪問看護に興味を持つ人が増えてきました。

看護師は完全な売り手市場

 ――訪問看護ステーションは、毎年約1200カ所が新設される一方で、半数以上の約700カ所が運営を廃業・休止しているという調査があります。運営を継続するのが難しい理由はどこにあるのでしょうか。

訪問看護ステーションは、圧倒的に小規模事業者が多いです。国の基準では1ステーションあたり常勤換算2・5人の看護職員がいれば開業できますが、これではスタッフの急な休みやイレギュラーな業務にとても対応できません。最初のうちは誰もが「患者のために」と頑張りますが、しっかり休みを取れなければ長続きしません。

看護師は売り手市場です。就業環境が悪ければすぐに他のところへ転職してしまいます。看護師のマネジメントは経営者にとって非常に頭の痛いテーマなのです。

 ――御社は総勢110名の医療職を雇用していますが、拡大できたのはなぜですか。

当社も大手とはとても言えません。数で言えば、病院グループのほかにも、ニチイ学館やセントケアグループ、セコムグループなどが上位にいます。ただ独立系でいえば多少は頑張っていると評価していただけるようになりました。

一般的な訪問看護ステーションの看護師数は常勤換算5名以下と言われていますが、当社ではこれをリハ職含めて10名までもっていきます。「スタッフにとって無理のないシフトが組めること」、また「担当エリアを2つに分け、訪問・営業を効率化できること」に重きを置いています。経営的に考えれば、患者の客単価はおおよそ決まっているので、いかに効率良く訪問回数を増やすかが重要となります。

 ――介護・看護は地域性があり、ドミナント戦略が基本と言われていますが、地方展開するメリットはあるのでしょうか。

東京では新宿にステーションがあり、以西にサテライト事業所を置くドミナント展開を基本としています。これとは別に飛び地で地方展開しているのは、スタッフの開業支援のためです。もともと医療職従事者は「患者のために」という気持ちを持っています。自分が育った地元に恩返しをしたいという看護師は少なくありません。

当社ではUターンして開業したいというスタッフを支援する制度を設けています。例えば、地方出身の人がまずは東京で働き、その実力を会社が認めれば希望する地元に会社としてステーションを開設するというものです。当社が全国各地で展開しているのはそのためです。

 ――実力があれば自分で独立するとなりませんか。

他産業に比べれば大きな設備投資がなく開業資金も少ないですし、独立を望むケースもなくはないです。しかし、先ほども話したように、訪問看護の経営を継続させることは非常に難しい。それであれば会社の資金やリソースを使って開業する方がリスクなく「地元貢献」という目的に早く到達できます。実際に当社の地方拠点は地元出身者が中心になって活躍してくれています。

 ――地方拠点はうまくいっているのでしょうか。

顧客となる高齢者は全国どこにでもいますので、一番の課題は看護師を採用できるかです。当社の場合、地元出身のスタッフが人を集めてくれること、また全国展開していて福利厚生も充実しているという安心感がフックになり比較的地方拠点の採用は順調に行っています。

 ――訪問看護事業の営業はどのように行うのですか。

基本的にはその地域のケアマネジャーを訪問します。運営する法人によっては医療職ではない営業が回っているケースもありますが、当社の場合はステーションの医療職が自ら営業まで行います。全スタッフにスマートフォンを貸与し、記録をすべてデジタル化することで、本部に情報を集約させています。個人・事業所単位の訪問件数や売上、利益、新規患者数などはすべてリアルタイムで把握することができます。

これにより問題点があればすぐに軌道修正が可能です。一見普通のことと感じるかもしれませんが、あるコンサルタントの方には、訪問看護の業界ではこれが徹底できていないところがほとんどだと聞いたことがあります。

 ――他社ができないことを徹底できているのはなぜですか。

当社も始めからうまくいっていたわけではありません。一番の大きな変化は、2016年より当社に役員として公認会計士が参画したことです。彼は前職が大手監査法人で、思考が論理的・合理的です。彼が営業も含めた運営方針を体系化し現場に落とし込んでくれました。

とはいえ、看護師というのは合理性だけではなかなか動いてくれません。当社の場合、看護師の私ともう一名の役員も医療職(理学療法士)のため、われわれが実践して見せることで現場の看護師たちも納得して動いてくれます。

 ――訪問看護を運営していく上で一番大切なことは何だと思いますか。

一人の患者に対して一人の看護師がべったりにならないことです。どうしても「あの患者さんは私でなければ」と思い入れをもってしまいがちですが、一人の看護師が24時間・365日対応するのは絶対に不可能です。もしその看護師がいなくなってしまえば、最終的には患者や家族に迷惑をかけることになります。

普段から患者情報を共有し、またしっかりした教育によりチームの誰でも対応できる体制を確立することが、結果的に患者の利益に繋がると考えています。

 ――この先、私たちは住み慣れた場所で最期を迎えることは可能なのでしょうか。

結論から言えば可能だと思います。

医療・介護を担う人たちが、特定の医療機関・介護事業所と連携するのではなく、地域で活躍するさまざまな医療機関・介護事業所とうまく連携していくことで「地域の看取り力」を高めれば、多くの人が自宅で最期を迎えることができるはずです。

また、身内や身近な人の終末期は慌てて救急車を呼んでしまうものです。(患者)本人は、元気なうちから自分の最期をどう過ごしたいか、エンディングノートなどで意思表明しておく必要があると思います。そして、最期を自宅で過ごしたいと思うのであれば、そのためには訪問看護や介護など、どんな社会資源を利用できるのかを事前に把握しておくことも重要です。

 ――今後の展望を教えてください。

住み慣れた自宅で最期まで暮らすためには訪問看護は絶対に必要なサービスですが、まだまだその数は足りていません。必要とされるエリアにこれからも出店を続けていきます。

規模の拡大、さらなる業務効率化により利益を生み出し、一般企業以上に福利厚生を充実させていきます。やりがいがあり、スタッフに安心して働いてもらえる就業環境を作っていきたいと考えています。

「最期は自宅で」の夢をどう叶えるか

インタビュー中にもあるように訪問看護の経営は難しい。年間新設数の半数は廃止・休業に追い込まれる業界は、他に類をみないだろう。

看護師は、「仕事を辞めても次の日には仕事が見つかる」と言われるほどの売り手市場であり、経営者はナーバスにならざるを得ない。

運営を継続できなくなる経営者は2パターンに大別できる。一つは非看護師経営者で、看護師の特性を理解しきれず経営論を振りかざしてしまうケース。もう一つは、訪問看護ステーションを経験した看護師で「自分が理想とする訪問看護ステーションを立ち上げたい」と想い先行型で独立するケースだ。この場合、資金繰りや営業不振で行き詰ることが多い。

同社は公認会計士の役員が参画したことで、経営と想いのバランスが取れてことが大きな転換期となったようだ。

大河原さんが「一般企業並みに福利厚生を充実させる」と述べたように、これは訪問看護経営の指標としては重要な意味を持つ。女性が多い職場であり、権利意識の強い看護師は給与や休暇など待遇については比較的シビアだ。訪問看護事業者が一般企業並みの福利厚生を備え、魅力ある職種として看護師の就業が増えなければ、「最期を自宅で過ごしたい」という国民の期待にも応えられないだろう。

(ライター:シニアビジネス取材班)

(2019年5月8日:一部、加筆・修正を行いました)

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