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2019.05.16
♯女性の働き方を考える
沖縄県浦添市に本社を構える不動産会社とまとハウジングのスタッフは、一人をのぞき全員女性。社長も女性だ。部屋に入ってきた瞬間、その場の雰囲気を明るく変えてしまう川端ゆかりさんその人である。女性だらけの同社の主力は、なんと軍用地の売買だという。2019年4月9日、川端さんがはるばる沖縄からハローニュースにやってきた。すかさず「起業までの経緯」と「女性社員が辞めない会社の作り方」、そして「女子のやる気を上げるコツ」を聞いた。
今もそうだが、川端さんは若い時かなり美人だったと思われる。20歳の時、那覇空港のラウンジでグランドホステスとして勤務した。
「おじさんたちの扱いはそこで学んだ」とサラリと言いのけるところに、余裕が垣間見れる。
次に務めた地域情報誌の編集部では、地元の飲食店やショップ取材、記事執筆から広告制作まで取り組んだ。
いかにキャッチコピーでインパクトを出すか、低予算でも効果を高める広告はどんなものかを教えてくれたのはそこだった。こちらの質問に的確に分かりやすく答えてくれるところに、元記者の片鱗を感じた。
23歳の時、1度目の結婚をする。
それを機に、事務職に転じ、建設会社の子会社だった不動産会社で働き始めた。編集部勤務時代はとにかく仕事に没頭してきたので、家庭を大事にできるよう環境を整えようと考えた結果だった。しかし、数年後離婚。
時を同じくして務めていた建設会社の社長から「子会社である不動産会社をたたむ」と言われた。事務として数年間業界を見てきた川端さんは「免許さえ取れれば私でも不動産会社できるかも」と考え、一念発起して宅建免許を取得。社長に直談判し、会社を譲り受けた。27歳の時だった。
その6年前の21歳の時、川端さんは父を亡くした。突然のことだった。川端さんと姉は遺産を放棄し、母親が受け取っていた。会社を引き継ぐと決めた時、お金が必要になった。川端さんは母親に借金を申し入れ、1000万円を借りて、20代での会社創業成し遂げたのだった。
8人の女性が働くとまとハウジングに一人だけ存在する男性、加藤さん(仮名)は、この時買い受けた不動産会社でトップ営業だった人だ。20年前、川端さんが会社を設立した時から共に働いてくれている。
とまとハウジングの強みの一つである「軍用地」の仕入れは、この加藤さん抜きには進まない。
「軍用地」の売買は、とまとハウジングがもっとも得意としている分野だ。最近少しずつ、投資家の間でも注目されはじめている投資案件だ。
軍用地は、沖縄では「米軍基地」と「自衛隊基地」の2種類に大別される。県の面積の約8%、東京ドーム約5650個分が軍用地として利用されている沖縄では、基地面積における民有地の占有割合が高く、この民有地部分が売買の対象となる。誰でも購入することができ、借主が国で安定、固定資産税評価が低いなどのメリットがある。
しかし、軍用地の仕入れは、一般の土地仕入れより情報収拾が難しく、この情報の厚みが仕入れの肝となる。というのも、安定利回りが出る軍用地はなかなか売りに出ない。このため、いかに早く「売りたい」という情報をキャッチできるかが鍵となるのだ。
「売りたいと思う所有者の方は、なんらかの理由で現金が必要になったり、相続対策上、手放さないといけないなどの状況になっている方がほとんどです。地主さんから直接相談をいただくには、普段から信用される仕事をしていないとなかなか難しいです」
そもそもなぜ女性だけの会社を作ったのだろうか。
尋ねると、こんな答えが帰ってきた。
「男性を雇用する会社は世の中にたくさんあります。男性ができるのに女性ができないわけがないという考えがありました。また、女性進出が進んでいると言われていますが、まだまだ女性雇用は、“一時的に”や“使い捨て”という考え方もあると思います。使い捨てではなく、一人ひとりが生き生きと働いて欲しい。それぞれが独立しているような形で仕事ができる仕組みを作りたいと考えた時、アメリカみたいなエージェント制度を取り入れたらどうだろうと思ったのです」
同社では、資格取得を後押ししており、取得にかかる費用は全額、会社が負担している。
結果、スタッフは皆様々な資格を持ったエキスパートが勢ぞろいしている。
宅地建物取引士はもちろんのこと、競売不動産取扱主任者、任意売却エージェント、既存住宅アドバイザー、ファイナンシャル・プランニング技能士、住宅金融普及協会認定住宅ローンアドバイザー、既存住宅アドバイザー、日本相続コンサルティング協会認定相続カウンセラー初級・相続実務コンサルタント2級などなど。中には保育士の資格を持っている人までいる。
スタッフに武器としての資格、知識、提案力を身につけてもらいたいという思いからだという。
「実のところ、完璧なエージェント制の仕組みは作りきれていません。スタッフ各人には、エージェントとして仕事をこなしてもらっていますが、雇用形態は、社員という形になっています。ですから給与形態は、固定給+歩合(手配給)という形を取っています」
この手配給の仕組みもユニークだ。1人が成約したら報酬という形ではなく、チーム制を取っている。その理由を聞くと、
「少ないスタッフで働いているので1人ひとりがライバルになると社内の雰囲気がギスギスしてしまって困るから」と豪快に笑いながら答えてくれた。
例えば軍用地の売買を例にあげると、所有者からの仕入れに始まり、投資家の物件への案内、クロージングや成約時の契約書作成など様々な業務が発生する。だから役割分担した1人ひとりの力が必要になる。このチーム制の仕組みにより、売上は、毎年右肩上がりだ。もちろん、スタッフの給与は、同年代や県の平均と比べたら高い方だと言える。
驚くことに、スタッフは全員不動産を所有しているという。つまり投資家なのだ。
「うちは、公務員ではなないので会社がいつどうなるかわからない、そのリスクヘッジとして不動産投資を基本的に進めています。スタッフとして、投資家として、育てています。自らが投資家になることによって、より提案力も増していると感じます」
川端さんの家族は13歳の娘さんと10歳の息子さん、そして猫2匹。
出張の多い社長業。どのように仕事と子育てを両立させているかというと、秘密は社員にある。保育士資格を持っている社員が、出張時は、子供の面倒をみてくれているという。
「保育士の資格を持った方を採用したのは、スタッフの子供の世話もしてくれるので、福利厚生の一貫になると考えたから。彼女はなんと、宅建免許も持っているんですよ」
女性だけの会社だと課題になりがちな子育てについても、会社がサポート体制を整えているというわけだ。
「当たり前のことですが、産休育休は自由に取ってもらえるようにしています。女性ばかりだと休まれて大変でしょうと言われますが、1年経ったら必ず戻ってきてくれるので大変ではありません。むしろ男性の方が、ノウハウを覚えたらすぐに独立してしまうので大変ですよ。産むタイミングは個人によりますが、産める期間はある程度決まっています。なので、スタッフには、『自分のこと優先して、会社に食われるな』と伝えています。たとえ、数人一気に妊娠したとしても、それに合わせて会社の仕組みは変えればいいと考えています」
川端さん自身、切迫流産の危険があり妊娠時に入院した経験がある。
その時、身体を思うように動かせない苦悩を知った。
「妊娠は病気じゃないんだから頑張れるでしょう」という叱咤する出産経験者もいるが、川端さんは女性社員達に対し、「妊娠は病気じゃない。けれど普通でもないからね!!」と訴え、身体を大事にするよう伝えている。
女性の社会進出が進むと同時に出生率が1.43と先進国を見ても低い日本。川端さんのような柔軟な考え方で女性の雇用体制や育児休暇制度を考える経営者が増えることを願う。
(Hello News編集部 山口晶子)
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